社長こそ「銀行員向け」の本を読もう。審査の裏側と歴史を知れば、経営の正解が見えてくる

社長こそ「銀行員向け」の本を読もう。審査の裏側と歴史を知れば、経営の正解が見えてくる

銀行融資を攻略したいなら、社長向けのマニュアル本ではなく、あえて「銀行員向け」の実務書を読むべきです。僕がそれらを読み込んで気づいた、審査の考え方、銀行の歴史、そして「理想の会社」の正体について解説します。

目次

銀行融資の攻略本は「経営コーナー」にはない

「銀行融資について勉強しよう」と思い立ったとき、多くの社長は書店の経営コーナーに足を運び、「社長のための資金調達術」や「絶対に借りられる融資の技術」といったタイトルの本を手に取ることでしょう。

もちろん、それらが役に立たないわけではありません。しかし、もし本気で銀行との交渉をスムーズに進めたい、あるいは財務に強い盤石な会社を作りたいと願うのであれば、僕はあえて別の棚に向かうことをおすすめします。

向かうべきは、「金融・銀行実務」のコーナーです。そこには、銀行員が読むための融資審査のマニュアルや、銀行業務検定のテキストなどが並んでいます。僕は税理士として独立して以来、こうした「銀行員向け」の本をかなりの冊数、読み込んできました。

なぜ、借りる側の人間が、貸す側の本を読む必要があるのか。それは、そこにこそ、社長が知りたい「答え」が忖度なしに書かれているからです。今回は、社長があえて銀行員向けの本を読むべき理由と、そこから得られる経営のヒントについてお話しします。

社長があえて「銀行員向けの本」を読むべき3つの理由

相手の「脳内」が丸裸になれば、会話の次元が変わる

銀行員向けの本を読む最大のメリットは、銀行員が融資審査において「どこを見て、どう判断しているのか」という思考のしくみ知ることができる点にあります。いわば、試験を受ける前に、採点者の「採点基準」や「模範解答」をカンニングするようなものです。

実際の融資の現場では、銀行員は立場上、本音を語れないことが多々あります。「総合的な判断で今回は見送らせていただきます」という断り文句の裏に、どのような具体的な理由があるのか口にしないものです。

しかし、銀行員向けの実務書を読めば、その「言外の理由」もわかるようになります。たとえば、決算書のどの数字が「債務者区分」の判定に影響したのか、どの比率が悪化すると「要注意先」に落ちるのか、あるいは資金使途のどこに疑義を持たれやすいのかといった、彼らの行動原理が記述されているからです。

これを知っていれば、断り文句の裏にある真意を推測し、次の一手を打つことが可能になります。

また、こうした本を読み込むことで、銀行員との「共通言語」を持つことができるという副次的な効果も無視できません。面談の席で、社長の口から「債務償還年数」や「正常運転資金」といった専門用語が自然に出てくれば、銀行員の目の色は変わります。

「この社長はわかっている」「財務リテラシーが高い」と認識されれば、単なる「お願い」ではなく、対等なパートナーとしての「交渉」も可能になるでしょう。相手の論理で会話ができる社長は、それだけで信用を勝ち取ることができるのです。

「歴史」を知ることで、銀行員の本音と建前を見抜く

僕は、最新の実務書だけでなく、あえて「古い銀行員向けの本」を探して読むこともあります。なぜなら、銀行融資の歴史や変遷を知ることが、目の前の銀行員を深く理解することにつながるからです。

銀行の融資姿勢は、金融庁の方針や経済状況によって大きく変化してきました。かつては担保や保証があれば貸す時代があり、その後、金融検査マニュアルによって画一的な審査が求められた時代があり、そして現在は事業性評価が叫ばれる時代へと移り変わっています。

この歴史を知っておくことは、世代の違う銀行員と付き合ううえで強力な武器になります。たとえば、現在の支店長クラスは、かつての厳しいマニュアル査定の時代に現場で揉まれてきた世代です。いっぽう、若手行員は事業性評価や伴走支援といった新しい教育を受けています。

このジェネレーションギャップを理解していれば、相手の役職や年齢に応じて、どのボールを投げれば響くのか、あるいは彼らが何を恐れているのかを推測することができます。

また、「なぜ銀行は短期継続融資を嫌がっていた時期があったのか」といった過去の経緯や背景を知っていれば、交渉の際にあらかじめ相手の懸念点を払拭するような提案も可能になるでしょう。歴史を知ることは、銀行という組織の思考を理解することと同義なのです。

銀行が好む「理想の会社」こそが、目指すべき経営の羅針盤

銀行員向けの本を読み進めていくと、最終的にある一つの「正解図」にたどり着きます。それは、銀行が考える「素晴らしい会社(格付が高い会社)」の定義です。多くの社長は、「売上が伸びている会社」や「節税をうまくやっている会社」が良い会社だと考えがちです。

しかし、銀行員向けの本に違うことが書かれています。銀行員にとっての理想とは、自己資本が厚く、返済原資となるキャッシュフローが潤沢で、不測の事態が起きてもすぐにはつぶれない会社のことです。

この「社長が目指す会社像」と「銀行が評価する会社像」のズレに気づけるかどうかが、財務戦略の分かれ道になります。銀行の評価基準に合わせて自社を磨き上げることは、単に融資を受けやすくするためのテクニックではありません。

それは結果として、不況にもビクともしない、盤石な財務体質を持った会社を作ることに直結します。つまり、銀行員向けの本は、融資の攻略本であると同時に、最強の「経営の参考書」でもあるのです。

まとめ

もし、銀行との交渉に苦手意識を持っていたり、どのような会社を目指すべきか迷っていたりするのであれば、ぜひいちど、書店の「銀行・金融」の棚を覗いてみてください。

そこには、会社の未来を拓くためのヒントが、具体的に書かれているはずです。今回お話しした「社長があえて銀行員向けの本を読むメリット」を整理すると、以下の3点に集約されます。

  • 審査のしくみと共通言語を知ることで、銀行員と対等な交渉が可能になる
  • 銀行融資の歴史や変遷を知ることで、銀行員の世代や立場による「本音」を見抜けるようになる
  • 銀行が評価する「理想の会社像」を知ることで、目指すべき財務戦略のゴールが明確になる

銀行員向けの本を読むことは、銀行の考えを知り、歴史的な背景を理解し、そして目指すべき経営のゴールを再確認する行為にほかなりません。これを知らずに、「貸してください」とお願いするのは、あまりに無防備だといえるでしょう。

相手を知り、己を知ることから、強い経営は始まります。

この記事を書いた人

1975年生まれ、横浜在住。税理士、発信者、習慣家。2016年に独立以来、きょうまでブログは毎日更新中。近年は、銀行融資支援を得意な仕事にしている。借りれるうちに借りれるだけ借りよ、が口グセ
現在は1日1万歩以上、ひと月150kmほど走る。趣味は、コーヒーとサウナ、読書、散歩、アニメ。スタバでMacがマジカッコいい!と思い続けてる
くわしいプロフィールはこちら

目次