金融庁が地銀・信金の再編を促すため、交付金を大幅増額する方針を固めました。このニュースが中小企業の融資にどんな変化をもたらすのか?「選別」の時代を生き抜くための、社長の具体的なアクションプランを解説します。
【ニュース解説】金融庁が本気で「地銀・信金」の数を減らしに来た
「地銀と信金・信組の統合に交付金75億円、金融庁が上限引き上げへ」
先日、このようなニュースが報じられました。金融庁が、地域金融機関の再編(合併・経営統合)を促すために、交付金の上限を現在の30億円から、最大で「75億円」にまで引き上げる方針を固めたというのです。
ほかにも、システム共同化やAML(マネロン対策)の高度化にも巨額の補助を出すほか、公的資金注入の期限も事実上撤廃する方向で調整が進んでいます。
このニュースから読み取れる金融庁のメッセージは明確です。
「地域の人口減と低金利で、地銀・信金の体力は限界に来ている。だから、数を減らして、体力をつけて、なんとか生き残らせる」ということ。
これは裏を返せば、もはや「1つの銀行で、地域のすべての企業の資金需要をまかなう時代はおわった」という宣言とも受け取れます。
この大きな変化の波は、間違いなく中小企業の融資現場にも押し寄せてきます。では、具体的にどのような変化が起こるのでしょうか。
【シナリオ】中小企業の融資に起こる「3つの変化」
金融機関の再編が進むと、中小企業の融資環境には主に3つの変化が起こると予想されます。
変化1:「顔なじみの支店長」がいなくなるリスク
まず、金融機関の数が減ることで、地域によっては取引できる選択肢が「地銀1行+信金1庫」ていどまで絞られる可能性があります。
さらに、合併・統合によって銀行の規模が大きくなると、融資審査の「本部一元化」が進む傾向にあります。これまでは支店長の裁量で決まっていた融資が、本部の「スコアリング(格付け)」重視の審査になりやすくなるのです。
その結果、「あの支店長とはツーカーだから」「昔からの付き合いだから」といった、これまでの感覚が通用しなくなるリスクがあります。
変化2:審査が“カチッと”して、説明責任が重くなる
システム共同化やAML(マネロン対策)の高度化が進むと、取引のモニタリングがこれまで以上に厳しくなります。
大口の現金入出金や、使途が不明瞭な送金などは、「なぜ?」「何のため?」という説明をより求められるようになるでしょう。「昔ながらの商習慣」や「なんとなく」で行っていた資金移動が、融資の審査で足を引っ張ることになりかねません。
逆に言えば、資金使途やビジネスモデルをきちんと論理的に説明できる会社は、「良い企業」として高く評価されやすくなるチャンスでもあります。
変化3:貸し出し姿勢の「二極化」が進む
再編によって銀行の効率化が進むと、融資先の「選別」も加速します。
「成長投資」や「事業承継」といった前向きな資金需要に対しては、より手厚い支援が期待できるいっぽうで、先行きが見えないなかでの「後ろ向きな延命資金」に対しては、審査がよりシビアになるでしょう。
銀行側も、単に金利で稼ぐだけでなく、コンサルティングや手数料ビジネスを狙っています。そのため、自社の強みや未来のビジョンを語れる会社(=事業性評価が高い会社)を優先する傾向が強まると考えられます。
【対策】社長が「いまから」やるべき4つのアクション
では、こうした変化に備えて、中小企業の社長は今から何をすべきなのでしょうか。具体的な4つのアクションを提案します。
① 「バンクフォーメーション(取引行の組み合わせ)」を見直す
「1行依存」はますます危険になります。メインバンクが統合の対象になったり、方針転換したりするリスクがあるからです。
早いうちに、メイン地銀に加えて、サブ(信金・第二地銀・ネット銀行など)の複数行体制を構築しておきましょう。日ごろから統合のニュースをウォッチして、自社の業種や規模に合った「生き残りそうな銀行」と戦略的に付き合うことが重要です。
② 「数字」と「ストーリー」をセットで準備する
審査が本部一元化・スコアリング重視になるにつれて、「決算書の見栄え」と「説明資料」の重要性が高まります。
年1回の決算書だけでなく、「月次試算表」「資金繰り表」「経営計画」をセットで用意しましょう。そして、過去の実績だけでなく、「今後3〜5年でどう成長するか」という未来のストーリーを説明できるように準備しておくことが大切です。
③ 統合のタイミングを「自社を売り込むチャンス」に変える
取引行が統合したり、システムを変更したりするタイミングは、ルールや担当者が変わる「揺れの時期」です。
このタイミングを、自社を改めて知ってもらう「プレゼンの場」として活用しましょう。経営計画や設備投資計画を持ち込み、「変化に対応できる会社」「新体制下で伸ばしたい会社」として印象付けることができれば、その後の取引が有利に進む可能性があります。
④ 「グレーな取引」はいまのうちに整理する
AMLやシステム高度化を見据えて、説明しづらい現金取引や、複雑な支払い構造であれば、いまのうちに整理しておきましょう。
税務・法務の観点からも整合的な形に整え、誰に見せても恥ずかしくないクリーンな状態にしておくこと。これが、融資の審査で余計な不信感を持たれないための鉄則です。
まとめ
金融庁の狙いは、地域金融機関を「強くする」ことにあります。
この変化は、中小企業にとって、支援の質が上がる「チャンス」でもあり、いっぽうで選別が厳しくなる「リスク」でもあります。
変化を恐れず、自社の「数字」と「未来」を語れる準備を整え、「銀行から選ばれる会社」を目指しましょう。いまからの準備が、数年後の会社の命運を分けることになります。

