決算書に「役員借入金」が掲載されていると、会社が銀行融資を受けるうえで問題になることがあります。ややもすると役員借入金は問題ないとのハナシもあるので気をつけましょう。
ややもすると役員借入金は問題ないと
会社の銀行融資について、役員借入金には問題点があります。
ここでいう役員借入金とは、会社が社長個人から借入をしているおカネのことです。この点、決算書に「役員借入金」が掲載されていると、会社が銀行融資を受けるうえで問題になることがあります。
ちなみに、銀行は「役員借入金を自己資本とみなす(負債とは見ない)」とのハナシには注意が必要です。たしかに、銀行がそういった見方をすることはありますが、必ずしもそういった見方をするわけではありません。端的にいえば、銀行しだいです。
そのうえ、役員借入金が銀行融資で問題になることがあるのですから、なおさら気をつけましょう。ややもすると、「対銀行において役員借入金は問題ない」との勘違いに繋がりかねません。
では、役員借入金の銀行融資における問題点とは何なのか。具体的には3つ、次のとおりです。
- 銀行借入できないと見られる
- 利益が足りてないと見られる
- さいごの砦がないと見られる
結果として、融資が受けにくくなったり、受けられたとしても融資条件が悪くなったりすることがあります。そうならないように、このあと3つの問題点を確認していきましょう。
役員借入金の銀行融資における問題点
会社が社長個人から借入をしているおカネを、決算書に「役員借入金」という勘定科目で掲載している会社もあれば、「短期借入金」や「長期借入金」としている会社もあります。いずれにせよ、社長個人からの借入であれば、銀行は役員借入金として扱います。
そのうえで、銀行が何を問題にしているのかを理解しておきましょう。
銀行借入できないと見られる
役員借入金の銀行融資における問題点、1つめは「銀行借入できないと見られる」です。
銀行は、決算書に役員借入金があるのを見て、「銀行から借りれないから、社長個人から借りざるをえないのでは?」という見方をすることがあります。
会社の業績が悪化しているときや、各銀行の借入金残高が増えていないとき(新規借入がないとき)、加えて役員借入金の額が増えているようなときはとくにです。したがって、会社が社長からおカネを借りるにも「タイミング」には気をつけたほうがよいでしょう。銀行借入できないと見られれば、その後は銀行融資が受けにくくなってしまいます。
銀行から借りようとおもえば借りれる状況なのに、手続きなどが面倒だからという理由で、個人のおカネを会社に入れる社長はいるものです。とはいえ、銀行から見れば、それが面倒だからなのか銀行から借入ができないからなのかはわかりません。
それに面倒だからという理由もまた、銀行にしてみれば社長としての資質を疑うポイントになるでしょう。たとえ面倒であっても、必要であれば銀行借入を活用するのが、社長の考え方であり能力でもあるからです。
よって、会社の資金調達は「まず銀行借入」であり、それがダメなときにはじめて役員借入という順序で考えるようにしましょう。
利益が足りてないと見られる
役員借入金の銀行融資における問題点、2つめは「利益が足りてないと見られる」です。
銀行は、決算書に役員借入金があるのを見て、「利益が足りないからおカネが増えず、社長個人から借りざるをえないのでは?」という見方をすることがあります。
本来、会社は利益で増えるおカネでもって資金繰りを回すのが理想です。よって、役員借入金があってはじめて資金繰りが回っているようなら、「現状の利益が不十分だ」だとの見方になるわけです。
すると、融資が受けにくくなるのはもちろん、受けられたといても融資条件は悪くなります。たとえば、経営者保証です。最近では、新規融資の半分が経営者保証なしとのデータもありますが、役員借入金があることで、銀行は経営者保証を外すのに躊躇します。理由は前述したとおり、利益が不十分だということであり、そのような危険な会社にまで経営者保証を外すわけにはいかないからです。
なかには、社長の役員報酬を過大に設定することで、のちのち会社の資金繰りが厳しくなり、社長個人からの借入を余儀なくされているケースもあります。社長個人は、役員報酬分の所得税・住民税、社会保険料を負担してまでおカネを会社から個人に移したのに、それをまた役員借入金として会社に戻しているのはもったいないハナシです。
この点、会社の資金繰りが回る範囲内で(利益が出る範囲内ではなく)役員報酬を設定することが、役員借入金の発生を抑えるのに役立ちます。
さいごの砦がないと見られる
役員借入金の銀行融資における問題点、3つめは「さいごの砦がないと見られる」です。
会社の資金調達は「まず銀行借入」であり、それがダメなときにはじめて役員借入という順序で考えると前述しました。「銀行借入ができないと見られる」からだけではなく、「さいごの砦がないと見られる」からでもあります。
中小企業にとって、資金繰りのさいごの砦は「社長個人のおカネ」だといってよいでしょう。中小企業の多くは「社長=株主」であり、会社と社長は一心同体です。会社に何かあれば、社長が個人のおカネを出すことをいとわない状況にあります。
したがって、個人のおカネが潤沢であるほど、銀行は「会社も安心だ(いざとなれば、社長が個人のおカネで会社を何とかするはず)」という見方をするのです。実際に、社長個人の資産に関する情報を取りまとめて銀行に提示することで、会社の銀行融資を受けやすくすることができます。
では、社長が個人のおカネを会社にどんどん貸している、つまり、役員借入金がどんどん増えている場合はどうでしょうか?
大富豪でもない限り、社長個人のおカネも限られますから、さいごの砦はどんどん頼りないものに見えてしまいます。銀行にとってはネガティブな要素であり、融資に消極的になることはありえます。やはり銀行借入は面倒だからと、安易に役員借入金で済ませないよう気をつけましょう。
まとめ
決算書に「役員借入金」が掲載されていると、会社が銀行融資を受けるうえで問題になることがあります。具体的には3つ、次のとおりです。
- 銀行借入できないと見られる
- 利益が足りてないと見られる
- さいごの砦がないと見られる
いっぽうで、「対銀行において役員借入金は問題ない」とのハナシもあるので気をつけましょう。役員借入金の問題点を知らずにいると、融資が受けにくくなったり、受けられたとしても融資条件が悪くなったりすることがあります。