予算と実績はズレていい

予算と実績はズレていい

会社の予実管理において、予算と実績がズレること自体を過度に恐れる必要はありません。むしろ、ズレはつきものです。そのうえで、予実管理のポイントを3つお伝えします。

目次

予算は占いではないから

「今月も予算どおりにいかなかった」 「計画と実績のズレが大きすぎる」

会社の予実管理(予算と実績の管理)に取り組んでいる社長であれば、いちどはそんな悩みを抱えたり、あるいは達成できない予算に対して嫌気がさしたりしたことがあるのではないでしょうか。

しかし、そもそも未来のことなど誰にも正確にはわかりません。ですから、予算と実績がズレてしまうのは、ある意味ではあたりまえのことなのです。予実(計画)は未来を言い当てる占いではありませんから、「予算が当たった・外れた」で一喜一憂することに意味はないでしょう。

では、ズレてばかりの予算に意味はないのか?というと、それも違います。とくに銀行融資の観点から見ると、「ズレ」にどう向き合っているか、その姿勢が会社の評価を大きく左右するのです。さらに言えば、ズレていても評価される会社と、ズレていることで評価を下げてしまう会社があります。

そこで今回は、銀行も納得する「ズレてもOK」な予実管理のポイントを3つ、解説していきます。具体的には次のとおりです。

  • 大事なのは予算があること
  • 大事なのはズレを知ること
  • ズレの修正で精度が上がる

あなたの会社は、銀行に評価される予実管理ができているか、要確認です。

予実管理のポイント3つ

予実管理は、単に社内の目標達成度を測るためだけのものではありません。銀行に対して、自社の計画性や管理能力、問題解決能力、そして将来性をアピールするための重要なツールになりえます。そのために押さえておくべき、予実管理のポイントを3つ、確認していきましょう。

ポイント1:大事なのは予算があること

まず大前提として、銀行が評価するのは「予算と実績のズレ」よりもっと手前、「そもそも会社に予算(計画)が存在するかどうか」です。

ところが実際には、明確な数値目標や計画を持たずに、日々の成り行きで経営している中小企業は、残念ながら少なくありません。これでは、会社が1年後、3年後、5年後にどこへ向かおうとしているのか、社長自身でさえあいまいにもなるでしょう。当然、銀行にも伝わりません。

ここで、銀行に融資を申し込む場面を考えてみます。もし会社に予算がなければ、銀行はどうやって融資の必要性や、将来の返済可能性を判断すればいいのでしょうか? 判断材料がなければ、審査を進めること自体が難しくなります。結果として、融資審査が難航したり、融資そのものが受けにくくなることは十分に考えられます。

予算があってはじめて、銀行は「この会社はこういう目標を持っていて、そのためにこれくらいの資金が必要で、将来これくらいの利益を見込んでいるのだな」と理解して、具体的な融資の検討に入ることができるのです。つまり、予算は銀行との対話を行うためのスタートラインといえます。

また、予算は会社の「あるべき姿」や「目指す姿」を描いたものです。予算という基準があるからこそ、「理想(予算)と現実(実績)のギャップ(ズレ)」を客観的に認識できて、どこに問題があるのか、何を改善すべきか、という次の一歩を踏み出すことができます。

ここで注意点。業績が大きく悪化し、返済条件の変更(リスケジュール)を銀行にお願いするような局面では、話は別です。このような厳しい状況では、単に予算があるだけでは不十分です。銀行からの信頼を回復し、会社の再生可能性を具体的に示すために、「経営改善計画書」が必須となります。平時であれば「(予算がなければ)融資が受けにくくなる」ていどであったものが、有事には「計画書なしでは交渉のテーブルにすらつけない」ほど重要度が増す、と覚えておきましょう。

ポイント2:大事なのはズレを知ること

さて、無事に予算を立てることができたとして。次に重要なのは、実績との比較です。そして、冒頭でもふれたとおり、予算と実績はズレるのが当たり前です。予期せぬ市場の変化、競合の動き、社内トラブルなど、予算どおりにいかない要因はいくらでもあります。

銀行も、予算と実績がズレること自体を問題視はしていません。銀行が本当に見ているのは、その「ズレ」を会社が放置していないか、ズレの「原因」をきちんと把握して、分析できているか、です。

予算は作ったけれど、実績との比較(予実比較)はしていない。あるいは、ズレているのは認識しているけれど、「まぁ、しかたないか」で済ませてしまい、なぜズレたのかを深く掘り下げない。これでは、せっかく予算をつくった意味が半減してしまいます。

銀行が予実管理においてもっとも評価するのは、「予算が的中したかどうか」という結果そのものではありません。それよりも、「なぜ予算と実績に差異が生じたのかを客観的に分析し、その分析結果に基づいて、次にどのような対策を打とうとしているのか」という、会社の管理能力問題解決への姿勢です。

たとえば、銀行への定期的な業況報告(月次試算表の提出時など)の際に、単に試算表を渡すだけでなく、「今月(あるいは今四半期)の実績は、予算に対してこうでした。売上が未達だった主な要因としては、〇〇が考えられます。対策として、△△のテコ入れを始めています」といった具体的な説明ができればどうでしょうか。

たとえ実績が予算を下回っていたとしても、銀行は「この会社は、自社の状況をきちんと把握して、前向きに課題に取り組んでいる」とポジティブに評価してくれる可能性が高いのです。

逆に、ズレの原因について質問されても明確に答えられなかったり、「いやぁ、景気が悪くてさっぱりです」といった外部要因の話に終始してしまうと、銀行は「この社長は経営を他人任せにしているな」「管理体制が甘い」と感じて、会社の将来性に対する不安を抱きます。

そうなれば、銀行からの信頼も失い、今後の融資審査に悪影響が出ることは避けられません。ズレを恐れるのではなく、ズレと向き合い、説明責任を果たすことが重要です。

ポイント3:ズレの修正が精度を上げる

予実管理は、いちどやったらおしまい、というものではありません。毎月、あるいは四半期ごとなど定期的に、そして継続的に行うことに大きな意味があります。

なぜなら、予実比較と差異分析、そして対策の実行というサイクルを回し続けることで、予算そのものの精度が自然と向上していくからです。

はじめのうちは、予算と実績が大きくズレてしまうかもしれません。しかし、そのズレの原因を探り、「こういう場合は、売上がこれくらい下振れする可能性があるな」「この経費は思った以上にかかるぞ」といった経験を繰り返すことで、自社の事業のクセや市場の変動パターンなどがより正確に読めるようになるものです。

結果として、次に立てる予算はより現実に即したものとなり、予測の精度は上がっていきます。実際、予測を行う頻度が高いほど、予測の精度が向上するという研究結果もあるほどです。

銀行は融資をするかどうか、あるいは融資条件をどうするかを判断する際、「将来の見通し」を重視します。過去の実績はもちろん重要ですが、それ以上に「この会社はこれからどうなっていくのか?」という未来予測にも関心があるのです。

継続的な予実管理によって、精度が高められた事業計画や資金繰り計画は、銀行にとって、その会社の将来性を判断するための貴重な材料になります。「この会社の計画は単なる願望ではなく、過去のデータと分析に裏付けられている」と感じてもらえれば、融資を引き出すうえで有利に働きます。銀行にとって安心材料になるということです。

また、計画の精度が高いということは、裏を返せば、会社が自社の置かれた状況や事業のリスクを深く理解して、それコントロールしようと真剣に取り組んでいる証拠でもあります。銀行は、そのような会社を「将来をしっかりと見据えている、信頼できる会社」と評価するため、長期的な顧客として支援したいと考えるでしょう。

逆に、予実管理を行わずに成り行き任せ、いわゆる「どんぶり勘定」で経営している会社は、銀行からどう見えるでしょうか?「計画性がなく、いつ資金繰りに詰まってもおかしくない」「将来のリスクに対する備えができていない危うい会社」と見られてしまう可能性が高くなります。

まとめ

会社の予実管理において、予算と実績がズレること自体を過度に恐れる必要はありません。むしろ、ズレはつきものです。未来を100%正確に予測することなど、誰にもできません。

本当に重要なのは、そのズレとどう向き合うかにあります。

  • 大事なのは予算があること
  • 大事なのはズレを知ること
  • ズレの修正で精度が上がる

これら3つのポイントをしっかりと押さえた予実管理は、単に社内の目標達成度を測るためだけのものではありません。銀行に対して、自社の計画性や管理能力、問題解決能力、そして将来性をアピールするための重要なツールになるのです。

「ズレてもOK」な、本質を捉えた予実管理を実践すること。それが、銀行との良好な関係を築き、いざというときの円滑な融資を実現し、ひいては会社の持続的な成長を支える力になります。さて、あなたの会社では、銀行にも評価される予実管理ができていますか?

この記事を書いた人

1975年生まれ、横浜在住。税理士、発信者、習慣家。2016年に独立以来、きょうまでブログは毎日更新中。近年は、銀行融資支援を得意な仕事にしている。借りれるうちに借りれるだけ借りよ、が口グセ
現在は1日1万歩以上、ひと月150kmほど走る。趣味は、コーヒーとサウナ、読書、散歩、アニメ。スタバでMacがマジカッコいい!と思い続けてる
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