毎月の試算表、ただ数字を眺めるだけでおわっていませんか?会社を本当に強くする「血の通った試算表」に変えるための3つの条件を、わかりやすく解説します。
正しいだけの試算表で満足するな
毎月、顧問税理士から手渡される月次試算表。その数字が「正確であること」は、自社の状態を把握するための基本中の基本であって、これはもう言うまでもありません。会計ルールにしたがい、ミスなく作成された試算表はスタートラインです。
でも、その「正しい試算表」を手にしただけで満足してしまってはいないでしょうか?
それはまるで、とても詳細な地図を持っているのに、どこへ向かうのか(目的地)も決めず、いまどこにいるのか(現在地)もろくにわからないまま、勘をたよりに歩いているようなものです。せっかくの地図も「宝の持ち腐れ」と言ってもいいでしょう。
最近では、AIの進化によって「経理作業の多くが、より正確に自動化される」といった話もありますが、単に正しい数字を作り出すこと以上の価値が、社長やそれを支える専門家には求められています。
本当に重要なのは、その試算表という「地図」から会社の何を読み取り、どう意思決定(どの道を選ぶか)に繋げて、未来をより良くするための行動(どう進むか)をどう変えていくか、です。
つまり、試算表を単なる「過去の数字が並ぶだけの情報」から、会社の未来を創る「血の通った情報」へと変化させること。これこそが、社長が取り組むべきことだと僕は考えています。
今回は、この「血の通った試算表」とは具体的にどのようなものなのか?そして、自社の試算表に「血を通わせる」ために必要な条件について解説していきます。具体的には3つ、以下のとおりです。
- 条件1:正確で適時なのは当たり前
- 条件2:経営判断に使われているか
- 条件3:未来の行動を変えられるか
「血の通った試算表」3つの条件
会計的に正しい数字が並んでいるだけでは、試算表は「過去の記録」に過ぎません。そこに「血を通わせて」、会社の意思決定や未来を照らす「武器」にするためには、何が必要なのでしょうか?「正確な試算表」のさらにその先にある、3つの条件を見ていきましょう。
条件1:正確で適時なのは当たり前
まず大前提として、いくら試算表を活かそうとしても、その元となる数字がそもそも間違っていたり(月次決算の精度が著しく低い状態)、あるいは、試算表が手元に届くのが何か月も後だったりするようでは話になりません。これらは「血が通っていない」という以前の問題であり、最低品質を満たしていない状態であることは理解しておきましょう。
なぜこれが大前提か?
- 不正確な情報に基づく誤判断のリスク
間違った数字を元にした経営判断が、会社を正しい方向へ導くことはありえません。ミスや漏れが多い試算表は、経営の羅針盤どころか、遭難の原因にすらなりかねないのです。 - 過去の遺物でしかない、適時性の欠如
会社経営は、刻一刻と変化する状況への対応の連続です。経営判断にはスピードが不可欠であり、何か月も前の古い情報では、現状を正しく把握することも迅速な対応策を打つことも、的確な軌道修正も不可能です。
血を通わせるためには?
- 月次決算の精度を高める
経理体制を見直して、毎月、正確な月次決算をしあげる仕組みをつくることが大切です。これには、社長自身の経理業務への関心と理解や、顧問税理士との連携が求められます。日々の取引記録の正確性や、売上や経費の計上基準の統一などを徹底しましょう。 - 速い試算表づくりの確立
翌月の早い段階(目安は10日以内など、自社なりの目標を設定する)で、社長が最新の試算表を確認できるスピードを追求することです。そのためには、経理担当者のスキルアップや業務効率化も必要になります。
これらは、試算表に「血を通わせる」うえでの、言うなれば「健康な身体」を手に入れるための必須条件です。この土台があってはじめて、試算表は経営に活きる情報となりえます。
条件2:経営判断に使われているか
正確でタイムリー(適時)な試算表が、毎月しあげられている。でも、それが社長の意思決定に活用されていないのではどうでしょう?社長がひとりで数字を眺めるだけで、経営会議の重要な議題にもならず、具体的な行動にも繋がっていない。これでは、試算表は「血が通っている」とは言えません。
なぜこれが問題なのか?
試算表が経営判断の材料として使われなければ、作成にかけた労力やコストはムダになってしまいます。社長の勘や過去の経験だけに頼った経営は、変化の激しい現代においてはリスクが高いと言わざるをえません。数字という客観的な根拠に基づかない判断は、大きな過ちを犯す可能性を高めてしまうのです。
血を通わせるためには?
- 社長自身が読む力を身につける
試算表のどこに注目し、どのように分析し、自社の経営課題と数字をどう結びつけるか?その基本的な視点を社長自身が持つことが重要です。たとえば、売上高の増減だけでなく、粗利率の変動、固定費の推移、損益分岐点の変化など、重要な経営指標の意味を理解する。簿記の基礎知識があれば、より深く、多角的に数字を理解することもできます。 - 数字を社内での共通言語とする
試算表をベースに、幹部社員と進捗状況や課題について議論する習慣をつけましょう。「今月の売上は計画に対してどうか?」「この経費が増加している原因は何か?」「貸借対照表のこの項目に変化があるが、これは何を意味するのか?」など、数字にもとづいた具体的な議論をすることで、社内には現状に対する共通認識が生まれます。これが、組織全体を同じ方向へ動かす力になるのです。 - 具体的な行動にまで繋げる
試算表から見えてきた課題(たとえば、特定の商品の売上が計画に達していない、想定以上に外注費が増加している、ある部門の採算が悪化している、など)に対して、「では、今月は何をすべきか?」「来月に向けてどう改善していくのか?」という具体的な行動計画に落とし込み、実行に移す。試算表を単なる「結果報告」ではなく、「次の行動の起点」として位置づけます。
条件3:未来の行動を変えられるか
試算表を、あくまで「過去の出来事を記録した情報」としてしか捉えられず、会社の未来をより良くするためのツールとして活用できていない状態はよくありません。将来の計画(予算)との比較や、そこから得られる教訓を未来の戦略や日々の行動に活かす、という発想や仕組みが欠けています。
なぜこれが問題なのか?
過去の数字を振り返ることはもちろん重要ですが、それだけでは経営は良くなりません。試算表の本当の価値は、過去の実績を分析して、そこから学びを得て、未来の行動を変える。経営を改善していくための「生きた情報」として使うことにあります。そうでなければ、試算表は「過去を語るだけの数字(死んだ情報)」のままです。
血を通わせるためには?
- 予実管理の実施と徹底
事業年度が始まる前に、売上高、売上原価、おもな経費、利益といった項目について、具体的な予算(計画)を立てることがスタートです。そして毎月、試算表の実績数値と予算とを比較して、その差異(ズレ)がなぜ生じたのかを分析する習慣をつけましょう。 - 差異の原因究明と学習
なぜ予算と実績にズレが生じたのか?それは外部環境の変化によるものか、内部の活動に問題があったのか、あるいはそもそも予算の立て方に無理があったのか?その原因を把握して、そこから何を学び、次にどう活かすべきかを考えます。単に誰かの責任を追及するのではなく、会社全体として学習し、成長する機会と捉えましょう。 - PDCAサイクルを回す
「計画(Plan:予算づくり)→実行(Do:日々の活動)→試算表での検証(Check:予実比較・分析)→改善行動(Action:計画修正や改善策の実行)」という、いわゆるPDCAサイクルを、試算表を軸にして回していきます。試算表は、このサイクルのうち「C(検証)」の役割を担い、次の「A(改善行動)」、そして未来の「P(計画)」へと繋げるための、羅針盤となるものです。
まとめ
「正しい試算表」をつくることは、スタートラインに過ぎません。AIが進化して、試算表の作成がどれだけ正確化・効率化されたとしても、その数字を解釈し、意味を見出し、経営判断に活かし、未来の行動を変えていくのは、社長自身の役割です。
それこそが、AIには代替できない人間の価値とも言えるでしょう。
今回お伝えした「血の通った試算表」であるための3つの条件は、
- 条件1:正確で適時なのは当たり前
- 条件2:経営判断に使われているか
- 条件3:未来の行動を変えられるか
これらを実践することで、自社の試算表は、単なる過去の数字の羅列から、会社を強くして未来を創るための「生きた情報」へと変わるはずです。
まずは、自社の試算表が3つの条件を満たしているかどうか、見直すところから始めてみてはいかがでしょうか?