銀行融資で、銀行員とのコネや一時的なブーム、他社の成功事例に頼っていませんか?そんな「再現性のないもの」に頼る危険性と、社長が本当に頼るべきものについて解説します。
その融資に再現性はあるのか?
銀行融資は、多くの中小企業にとって事業を継続して、成長させるための生命線です。融資が無事に実行されると、社長はひとまずホッと胸をなでおろすことでしょう。
しかし、その融資はどのようにして受けることができましたか?もしかしたら、特定の銀行員との個人的なつながりや、その時々の追い風、あるいは魅力的な他社の成功事例を参考にした結果かもしれません。たしかに、それらも時には融資を後押しする要素になりえます。
ですが、そうした「再現性のない方法」にばかり頼っていては、今後の安定的な資金調達はおぼつかない可能性があります。なぜなら、人や状況は常に変化するからです。
今回は、社長が銀行融資において、つい頼ってしまいがちだけれども、実は危うい「再現性のないもの」を3つ取り上げます。そして、なぜそれに頼ってはいけないのか、本当に頼るべきことは何なのかについて、詳しく解説していきます。具体的には以下のとおりです。
- 銀行員とのコネ
- 一時的なブーム
- 他社のいち事例
再現性がないので頼ってはいけないもの
安定した資金調達のためには、場当たり的で再現性のないものに頼るのではなく、本質的な取り組みが不可欠です。では、具体的にどのようなものが、社長が頼るべきではない「再現性のないもの」にあたるのでしょうか。代表的な3つを確認していきます。
銀行員とのコネ
「〇〇銀行の支店長〇〇さんとは、もう長い付き合いだから大丈夫だ」 「いまの担当者の〇〇さんは、ウチをよくわかっているから何とかしてくれる」
というように、特定の銀行員との個人的な関係性や親密さに、過度に期待して、依存してしまうケースがあります。
なぜ再現性がないのか
- 銀行員は必ず異動する
ご存知のとおり、銀行員は数年単位で異動するのが通常です。どんなに親しい担当者や支店長がいても、その人が異動してしまえば、その「個人的なコネ」は意味をなさなくなる可能性があります。後任者が同じように対応してくれる保証はどこにもありません。 - 融資判断するのは組織
融資の可否や条件は、担当者の判断で決まるわけではありません。支店長はもちろんのこと、融資金額が大きくなれば本部の審査部門の承認が必要になります。担当者個人の力だけで、組織としての審査基準を覆すことはできないのです。 - コンプライアンス違反
もしも本当に、個人的な関係性だけで融資判断が左右されるようなことがあれば、その銀行のコンプライアンスには問題があります。いずれ大きな問題にもなるでしょう。だとしたら、そんな銀行とはお付き合いをすべきではありません。
本当に頼るべきものは
もちろん、銀行員と良好な人間関係を築くことは大切です。しかし、それに「依存する」のではなく、会社そのものの信用力(健全な決算書、将来性のある計画、社長自身の経営能力や誠実な姿勢など)を高めることはもっと大切です。誰が担当者になっても、どの支店長になっても、「この会社なら大丈夫だ」と評価されるような、客観的な強みを磨くことが本質だと理解しましょう。
一時的なブーム
特定の産業への追い風が吹いている時期(たとえば、過去のITバブルや不動産ブームなど)や、国や自治体による特別な融資制度(コロナ禍や自然災害における緊急融資など)が発表された際、その波に安易に乗って資金調達をしようとするケースがあります。
なぜ再現性がないのか
- ブームや制度は期間限定
ブームはいつか必ずおわりを迎えます。また、特別な融資制度の多くは、期間や予算が限定されていて、それらが終了してしまえば、同じ条件での資金調達はできません。恒常的な資金調達手段にはなりえないのです。 - 利用要件は変化するもの
政策的な融資制度は、多くの場合、利用するための細かい要件が定められており、すべての会社が簡単に利用できるわけではありません。また、制度内容が途中で変更されたり、急に打ち切られたりすることもあります。 - 実力を超える借入リスク
一時的な追い風や、利用しやすい制度があるからといって、自社の返済能力を超えるような過大な借入をするようならば、のちのち、その返済に窮してしまうことになります。
本当に頼るべきものは
特別な融資制度は、活用できるのであれば賢く活用すべきです。しかし、それに過度に依存するのではなく、ふだんから、銀行のプロパー融資(保証協会保証なしの、銀行が直接リスクを負う融資)を受けられるような、強い財務体質や安定した収益力、事業基盤を築いておくこと。 そして、自社の実力に見合った、無理のない借入計画を持つことが重要です。
他社のいち事例
「知り合いの〇〇社長の会社は、こんなやり方で銀行からスムーズに融資を受けられたらしい」 「同業の〇〇社も、この制度を使って大きな金額を調達できたと聞いた」
というように、他の会社の成功事例(身近な社長からの体験談とか)を聞き、「ウチも同じようにすれば大丈夫だろう」と安易に期待して、同じ方法を試そうとするケースがあります。
なぜ再現性がないのか
- 「n=1」の事例に過ぎない
他の会社がうまくいった融資事例は、あくまでその会社に特有の状況や、タイミングによって実現した「たった一つのケース(n=1)」である可能性があります。その成功が、そのまま自社に当てはまるとは限りません。 - 前提がまるで異なる可能性
自社と他社とでは、業種、事業規模、設立からの年数、財務内容(自己資本、収益性、キャッシュフローなど)、担保として提供できる資産の有無、社長の経営経験や信用力、さらには取引銀行とのこれまでの関係性の深さなど、融資審査に影響する前提が異なるのがふつうです。A社がOKだったからといって、B社も同じ条件でOKになるとは言えません。 - 情報の偏りや隠された情報
成功事例として伝わってくる話は、えてして良い部分だけが強調されがちです。その裏にあったかもしれない苦労や、実は公にできないような特殊な事情(たとえば、社長の個人資産、特別な保証人の存在、銀行側の特別なキャンペーンなど)が、情報として抜け落ちている可能性もあります。 - 銀行側の事情にも変化あり
たとえ同じ銀行の同じ支店、同じ担当者であったとしても、銀行全体の融資方針や審査基準、あるいはその時々の経済情勢や市場環境によって、対応は変化します。他社がうまくいった「そのとき」と、自社が融資を申し込む「いま」とでは、銀行側の状況がまったく異なることも珍しくありません。
本当に頼るべきものは
他の会社の成功事例は、あくまで「参考情報の一つ」として捉えるべきです。それを鵜呑みにするのではなく、なぜその会社はうまくいったのか、自社との違いは何か、といった点を冷静に分析する必要があります。
何より、「自社の客観的な状況(強みも弱みも含めた財務内容、現状の課題、具体的な計画など)」を正確に把握して、自社に合った姿勢と方法で、銀行と誠実に向き合うこと。 これが、再現性のある資金調達への道です。
まとめ
銀行融資において、社長がつい頼ってしまいがちな「再現性のない」3つの落とし穴、
- 銀行員とのコネ
- 一時的なブーム
- 他社のいち事例
について解説してきました。
これらの方法に頼った銀行融資は、一見うまくいっているように見えても、その実はとても脆くて不安定なものです。状況が変われば、途端に立ち行かなくなる危険性を秘めています。
銀行融資で本当に頼るべきものは何か?
それは、「自社の事業そのものの強さ(提供価値、収益力、成長性など)」「健全で透明性の高い財務内容(十分な自己資本、安定したキャッシュフローなど)」「社長自身の経営能力と、銀行に対する誠実な姿勢」といった、誰が見ても評価できる、普遍的で再現性のある要素です。
これらを日々の経営のなかで地道に、でも着実に積み重ねていくこと。それこそが、持続的な銀行融資を可能にして、持続・成長を実現するための王道だと僕は考えています。