長かったゼロ金利時代が終わり、金利上昇が現実のものとなりつつあります。融資の返済負担や、今後の借入への不安を感じていませんか?本記事では、金利上昇が会社にもたらす意外な影響と、社長が取るべき対応を解説します。
ついに来た「金利のある世界」と社長の不安
長らく続いた、ゼロ金利・低金利の時代。日本の多くの社長にとっては、それが「あたりまえ」の経営環境だったかもしれません。しかし、世の中の潮目は変わり、「金利のある世界」が再び訪れようとしています。
ニュースなどでは、「金利が上がると、住宅ローンの返済が大変になる」といった話がよく取り上げられます。当然、会社の借入についても、
- 「変動金利で借りているけれど、返済額はどれくらい増えるんだろうか…」
- 「これから融資を受けたいけれど、審査は厳しくなるんだろうか…」
といった不安を感じている社長は多いでしょう。
しかし、金利上昇は、たしかに注意すべき点はあるものの中小企業にとって必ずしも悪いことばかりではありません。むしろ、その仕組みを正しく理解し、適切に対応すれば、チャンスにもなりうるのです。
今回は、金利が上がったときに銀行融資がどうなるのか、そして社長はどうすべきなのかについて、3つの視点から解説していきます。
この記事のポイントは以下のとおりです。
- 返済しやすくなる(借りたもの勝ち)という逆説
- 変動金利と固定金利、どちらを選ぶべきかの答え
- 借りにくくなるし、借りやすくなるという二極化
金利上昇が銀行融資に与える影響と社長がすべきこと
それでは、具体的な3つのポイントについて見ていきましょう。金利上昇と聞くと、ネガティブなイメージが先行しがちですが、その裏側にある理屈を理解することが、これからの時代を乗り切る鍵になります。
返済しやすくなる(借りたもの勝ち)という逆説
金利上昇とインフレの関係
まず理解すべきなのは、金利が上がる局面では、同時にインフレ(物価上昇)も進んでいることが多い、という点です。人件費や原材料費などのコストが上がるいっぽうで、自社の商品・サービスの価格も(価格転嫁できれば)上がっていきます。
会社がまっとうな商売をしていれば、インフレ下では名目上の「売上」は増加していくのが自然な姿だということです。
「借りたもの勝ち」のロジック
ここで、借入金の元本を考えてみましょう。たとえば、3年前に5,000万円を借りたとします。この5,000万円という借金の額(元本)は、インフレになっても増えることはありません。
いっぽうで、会社の売上はインフレによって増加しています。すると、どうなるでしょうか?
売上に対する借入金の相対的な割合は、時間とともに小さくなっていきます。つまり、インフレが進めば進むほど、過去の借金の返済負担は、実質的に軽くなるのです。これが、インフレ時の「借りたもの勝ち」と言われる理屈です。
金利上昇による支払利息の増加分よりも、インフレによる売上増加の恩恵のほうが大きくなる可能性は十分にあります。
変動金利と固定金利、どちらを選ぶべきかの答え
社長が抱く不安と銀行の提示する金利
金利上昇局面で、社長が最も不安に感じるのが「変動金利」の存在でしょう。「これからどんどん金利が上がって、返済額が増えたらどうしよう…いまのうちに固定金利に借り換えるべきか?」と悩むのは当然です。
しかし、銀行が提示する「固定金利」は、通常、その時点の「変動金利」よりもかなり高く設定されています。これは、銀行が将来の金利上昇リスクを、あらかじめ金利に織り込んでいるからです。
それでも「変動金利」でいいと考える理由
日本の金利は、海外のように急激に数パーセントも上がる、ということは考えにくいのが現状です。政策的な観点からも、上昇するにしても、そのペースは緩やかになる可能性が高いでしょう。
そう考えると、高い「保険料(固定金利と変動金利の金利差)」を払って固定金利にするメリットよりも、当面の間、低い変動金利の恩恵を受けるメリットのほうが大きい、という判断も十分に成り立ちます。
もちろん、長期の設備投資などで、将来の返済額を完全に確定させたい、というニーズがあれば固定金利も選択肢になりますが、多くの運転資金の借入については、慌てて固定金利に切り替える必要はない、と僕は考えています。
借りにくくなるし、借りやすくなるという二極化
二極化する融資環境
金利が上がると、融資は全体として「借りにくく」なるのでしょうか、それとも「借りやすく」なるのでしょうか? 答えは、「会社によって、その両方が起こる」です。融資環境は二極化していくでしょう。
「借りにくくなる」会社の側面
銀行は融資審査の際、金利負担を含めた返済能力を審査します。金利が上がれば、当然、将来の支払利息は増えますから、審査のハードルは以前より上がります。
特に、利益水準が低く、財務内容に余裕のない会社にとっては、金利上昇がさいごのひと押しとなり、「返済能力を満たさない」と判断されるケースが増え、借りにくくなるのは事実です。
いっぽうで「借りやすくなる」会社の側面
では、なぜ借りやすくなる可能性もあるのでしょうか? それは、銀行側の事情です。
金利上昇で審査ハードルが上がると、銀行にとって「融資できる先(貸し先)」の数は、全体として減少します。しかし、銀行は融資をしなければ商売になりません。
その結果、限られた優良な貸し先をめぐって、銀行間の競争が激しくなる可能性があります。「なんとかウチで借りてもらおう」と、銀行がこれまで以上に積極的にアプローチしてきたり、好条件を提示してきたりする、ということも考えられるのです。
つまり、財務内容が良好な会社にとっては、むしろ有利な条件で融資を受けられるチャンスが広がるかもしれない、ということです。
まとめ
金利上昇局面における、銀行融資の変化と対策について解説してきました。
- インフレが進めば、過去の借入の返済は実質的にラクになる(借りたもの勝ち)
- 金利の急上昇は考えにくく、変動金利と固定金利の金利差を考えれば、慌てて固定金利にする必要性は低い
- 融資環境は二極化する。財務内容が悪い会社は借りにくく、良い会社はむしろ借りやすくなる可能性がある
金利上昇という言葉に、過度に怯える必要はありません。むしろ、その本質を理解すれば、自社が取るべき行動が見えてきます。
結局のところ、金利が上がろうが下がろうが、社長がやるべきことは変わりません。利益をしっかりと出し、財務内容を健全に保ち、銀行との信頼関係を築いておくこと。
こうした王道を歩んでいる強い会社にとっては、金利上昇は決して逆風ではなく、むしろ追い風にすらなりうるのです。