AIが簿記1級に受かる時代に、社長があえて「簿記」を学ぶ意味。数字と感情をリンクさせる技術

AIが簿記1級に受かる時代に、社長があえて「簿記」を学ぶ意味。数字と感情をリンクさせる技術

AIが簿記1級レベルをクリアしたというニュースは、社長にとって「簿記はもう不要」というサインに見えるかもしれません。ですが、AIに丸投げしているようだと「数字の沼」にハマるかも。AIを使いこなし、会社を守るための「最初の1歩」についてお話しします。

目次

AIに帳簿を任せきりにした社長がハマる「数字の沼」

先日、AI(人工知能)が、日商簿記1級レベルで「正答率99.8%」を叩き出した、というニュースがありました。

簿記1級といえば、合格率10%前後の難関です。それをAIが軽々とクリアしてしまう。

「じゃあ、もう人間が簿記を勉強する意味なんてないよね」 「AIに任せておけば、経営は安泰だ」

もし、あなたがそんなふうにおもわれているとしたら、少しだけ注意が必要です。

実は、AIに帳簿を任せきりにした結果、 「数字の上では黒字なのに、なぜか手元にお金がない……」という底なし沼 にハマってしまう。そんなことにもなりかねないからです。

AIは「正しい数字」を出してくれます。でも、その数字がなぜそうなったのか、その数字が明日の資金繰りにどう響くのか。その「手触り感」がないまま経営をするのは、まるで目隠しをして高速道路を走るようなものでしょう。

AIは「正解」を教えてくれるけれど、その数字がもたらす「景色」までは見せてくれない。だからこそ、いま、社長が「簿記」という武器を持つ、簿記をあえてみずから学ぶ意味があるのです。

「正解探しのゲーム」から「シミュレーションの技術」へ

僕も、税理士試験の勉強をしていたころは、簿記を「正解探しのゲーム」のように感じていました。間違えたら減点。正確さがすべて。そんな作業に、どこか虚しさを感じていた時期もあります。

でも、実務の現場に出て、多くの会社の資金繰りを支援するなかで、視点が変わったのですね。社長にとっての簿記は、作業ではなく 「シミュレーションの技術」 なのだと。

仕訳は、会社の未来を描くための「パズル」

「でも、簿記とか仕訳って難しそうだし……」

そうおもわれるかもしれません。ですが、社長にとっての「仕訳」は、試験のための暗記科目ではありません。

仕訳とは、いわば 「会社の未来を描くためのパズル」 のようなものです。

バラバラに見える「取引」というピースを、どこに当てはめれば会社が強くなるのか。それをアタマのなかで組み立てるシミュレーションの技術なのですね。

銀行から「1,000万円」を借りたときの景色

たとえば、銀行から「1,000万円」を借りたときのパズルを想像してみましょう。AIに聞けば、こう答えます。

「負債が1,000万円増えました。自己資本比率が低下します」

ですが、AI任せにせず、仕訳というパズルがアタマに浮かぶ社長の見方は違います。

左側に「(借)現預金 1,000万」というピースを置いた瞬間。それは単なる数字ではなく、 「あと半年は社員の給料を遅延なく払える、夜ぐっすり眠れるためのチケット」 が手に入った感覚です。

右側の「(貸)借入金 1,000万」を見たときも、それを「借金=悪」と捉えるのではなく、 「銀行がうちの将来を信じて託してくれた、期待の重さ」 として受け止める。

AIは「負債」という箱に放り込みますが、僕たちはそれを「可能性」というピースとして扱う。

仕訳がイメージできるからこそ、この1,000万円というキャッシュの「体温」を感じることができるわけです。事実、現預金の1,000万円もあるわけですから。

「節税ベンツ」の仕訳が、社長の胃をキリキリさせる

だとすれば、僕たちにとって簿記の知識は、AIが出した答えを「じぶんの言葉」に翻訳するための筋肉でもあります。

1,000万円のベンツが「重たい贅肉」に変わるとき

もうひとつの例として、節税のために「1,000万円」のベンツを買ったときのパズルを考えてみましょう。AIはこう処理します。

「車両運搬具として資産計上し、耐用年数に応じて適正に減価償却します」

ところが、仕訳を通じて貸借対照表の景色が見える社長は、ここで「ビビる」はずです。

左側に「(借)車両運搬具 1,000万」というピースがはまったとき、それが将来のキャッシュを生む「筋肉」ではなく、維持費や保険料を垂れ流し続ける 「重たい贅肉」 として、自社の貸借対照表に居座り続ける恐怖に。

右側の「(貸)現預金 1,000万」という大事なピースが消えたあとの、キャッシュフローの「血の巡り」が悪くなる予感に。

損益計算書の利益を減らして「節税だ!」と喜んでいるあいだに、じぶんのカラダが贅肉だらけになり、いざというときに動けなくなっていないか。パズルの全体像が見えていれば、その「不健康さ」がリアルにわかります。

数字と感情をリンクさせる

AIは「正しい仕訳」を教えてくれるでしょう。

でも、その仕訳が社長の会社の「明日の空気感」をどう変えるかまでは教えてくれません。

パズルを組んだ瞬間に、アタマのなかの貸借対照表でキャッシュの残高がグンと跳ね上がり、視界がパッと明るくなる感覚。あるいは、不必要な資産を抱え込んだときの、胃がキリキリするような重苦しさ。

この 「数字と感情がリンクする瞬間」 こそが、社長が簿記を学ぶ真の意味だと僕は考えています。

まとめ:まずは「最初の1歩」から

AIがどれだけ進化しても、じぶんの会社の舵を握るための「手触り感」だけは、手放してはいけません。

  • AIは「計算」を代行してくれるが、「判断」の責任は社長にある
  • 仕訳は、取引がもたらす「未来の景色」を描くためのパズルである
  • 簿記の知識は、AIを使いこなすための「インフラ」にすぎない

まずは、おカネが増えたときの喜びを左側(借方)に置くパズルから始めましょう。

「左側(借方)にお金が増えてニッコリ」「右側(貸方)におカネが消えてしょんぼり」

そんな数字と感情とをリンクさせる習慣が、AIには決して真似できない「社長の勘」を研ぎ澄ませてくれるはずです。いやいや、その仕訳がわからないんだ…というのなら。

あえていま、泥臭く簿記を学んでみませんか?それは、社長が自由な経営を手に入れるための、一生モノの武器になるはずです。

自社の財務戦略や銀行対応について、より具体的に相談したい方は こちら(個別相談) もご活用ください。

この記事を書いた人

1975年生まれ、横浜在住。税理士、発信者、習慣家。2016年に独立以来、きょうまでブログは毎日更新中。近年は、銀行融資支援を得意な仕事にしている。借りれるうちに借りれるだけ借りよ、が口グセ
現在は1日1万歩以上、ひと月150kmほど走る。趣味は、コーヒーとサウナ、読書、散歩、アニメ。スタバでMacがマジカッコいい!と思い続けてる
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