決算書が赤字だと、銀行からの借入が難しくなります。とはいえ、絶対に借入ができないわけではありません。そのときに備えて、赤字でも借入できるケースを押さえておきましょう。
もう借入できないとあきらめる前に
決算書が赤字だと、その会社は銀行から借入が難しくなるのは周知の事実です。とはいえ、赤字だからといって絶対に借入ができないわけではなく、借入できるケースもあります。
にもかかわらず、「もう借入はできない」とあきらめてしまうことがないように。あるいは、赤字になってしまっても借入ができる会社になれるように。決算書が赤字でも借入できるケースを押さえておきましょう。おもに、次の3つのケースが挙げられます。
- 本業はプラス
- 純資産がある
- おカネがある
これらのケースについて、細かな注意点などもありますので、このあと詳しくお話をしていきます。自社の決算書を見ながら確認していただけると、いっそう理解が深まるのでおすすめです。
決算書が赤字でも借入できるケース
ぜんぶで3つのケースをお伝えします。1つめの「本業はプラス」は損益計算書の話です。2つめの「純資産がある」と、3つめの「おカネがある」は貸借対照表の話になります。
本業はプラス
決算書が赤字でも借入できるケース、1つめは「本業はプラス」です。赤字にも種類があって、「最終利益は赤字でも、本業の利益はプラス」の場合には、銀行から借入はできることがあります。
もう少し具体的にいうと、損益計算書の営業利益や経常利益はプラスであり、特別損失によって最終利益が赤字になっているケースです。特別損失とは今回限りの損失であり、次の決算以降には影響を与えません。よって、会社の収益力は営業利益や経常利益で評価する、という考え方があります。結果として、最終利益が赤字でも借入できるケースはあるのです。
また、営業利益や経常利益が赤字であったとしても、社長(親族も含む)の役員報酬が多い場合には、借入できるケースもあります。ここでいう「役員報酬が多い」とは、生活費や同業他社平均などからみて多いということです。多い分は削れるのだと考えれば、実質的には黒字とみなせるケースもあるわけです。
たとえば、営業利益が500万円の赤字で、社長の役員報酬が2,000万円だとします。このとき、社長の役員報酬は1,200万円が妥当だと見れば、800万円の費用が減るので、営業利益は「−500万円+800万円」で300万円の黒字です。これもまた、本業はプラスのケースにあたります。
以上をふまえて、赤字だとしても損益計算書の内容によっては、借入できる可能性があることを理解しておきましょう。
純資産がある
決算書が赤字でも借入できるケース、2つめは「純資産がある」です。これは、貸借対照表の純資産が潤沢であれば、損益計算書の赤字を補えるとの見方によります。
自社の決算書で、貸借対照表の純資産の部を見てみましょう。もし、その金額がマイナスである場合、それは「資産<負債」の状態であることから「債務超過」と呼ばれます。財務的に危険な状態であり、当然ながら借入が難しくなります。
逆に、純資産の部がプラスであれば、資産が負債よりも多いことから財務的に安全です。よって、純資産のプラスが大きいほど(=資産が負債よりも多いほど)、財務的な安全度は高く、銀行からの借入は受けやすくなります。
これは、赤字の場合でも同様です。赤字かつ純資産がマイナスだと借入は困難であり、赤字でも純資産がプラスであるほど借入の余地があります。
ちなみに、純資産の部を算式であらわすと「資本金+利益剰余金」です。このうち資本金は、増資や減資がなければ動きませんが、利益剰余金は常に動いています。利益剰余金とは、過去の税引後利益の累計額であり、利益の増減によって利益剰余金も増減するのです。
だとすれば、赤字の額と利益剰余金の額とのバランスが重要であることがわかるでしょう。赤字が出たとしても、利益剰余金が充分であれば利益剰余金はプラスを維持できる、ひいては純資産のプラスを維持できることになります。
以上をふまえて、利益剰余金の額が「想定される年間赤字の3倍」ていどだと安心です。赤字が2年続いても利益剰余金はプラスを維持できますし、赤字が3年続くことは考えにくいからです。
おカネがある
決算書が赤字でも借入できるケース、3つめは「おカネがある」です。ここでいうおカネは「預金残高」のことであり、預金残高が多ければ、赤字でも銀行借入はしやすくなります。
もっとも、「おカネがあるなら借入しなくてもいいではないか?」とおもわれるかもですが、中小企業はいついかなるときも、スキあらば借入することを僕はおすすめしています。大企業とは違って、いつでも借入することはできないからです。
赤字のときとて例外ではありません。赤字が続くかもしれないことを考えれば、いまはおカネがあっても借入できるなら借入しておくことがその後の助けとなります。いずれ借入するくらいなら会社が潰れてもかまわないのでない限りは、借入できるときに借入するのが得策です。
なお、前述した純資産が潤沢であっても、預金残高が少ない会社を銀行は嫌います。借入返済には預金が必要だからです。では、純資産が潤沢なのに預金残高が少ない会社があるのかといえば、あります。固定資産を多く買っているがそこから利益を生み出せていない会社や、売掛金・棚卸資産が現金化できずにいる会社などは典型例です。
したがって、「純資産がある」と「おカネがある」はセットで考えるようにしましょう。おカネを増やすという点でも、借入を活用できます。借入すればおカネは増えるからです。おカネに色はないので、借りたおカネであろうと利益で増やしたおカネであろうと変わりありません。
この話をすると、「借入が増えると純資産が減る」と考える社長がいますが間違いです。借入をしても純資産は減りません。なぜなら、借入をすれば同額の資産も増えるからです。1,000万円の借入すれば、1,000万円の預金も増えます。純資産が減ることはありません。
まとめ
決算書が赤字だと、銀行からの借入が難しくなります。とはいえ、絶対に借入ができないわけではありません。そのときに備えて、赤字でも借入できるケースを押さえておきましょう。
- 本業はプラス
- 純資産がある
- おカネがある
1つめの「本業はプラス」は損益計算書の話であり、2つめの「純資産がある」と、3つめの「おカネがある」は貸借対照表の話でした。自社の決算書と見比べて、理解を深めましょう。