会社の銀行借入に関して、社長が注意を要する仕訳があります。社長が仕訳をイメージできるかどうかで経営判断は変わりえるし、受けやすさにも影響するところなので気をつけましょう。
社長が仕訳をイメージできるか
会社の銀行借入に関して、社長が注意を要する仕訳があります。と聞いて、「仕訳は経理の仕事であり、社長とは関係ない」とおもわれるかもしれません。ですが、それは違います。
たしかに、社長が必ずしも仕訳に直接たずさわる必要はないでしょう(経理担当者や税理士に任せる)。ただそれでも、社長が仕訳をイメージできるかどうかで経営判断は変わりえます。言い換えると、仕訳をイメージできない社長は経営判断を間違えるかもしれないということです。
さらに、経営判断の正否が、ひいては銀行融資の受けやすさに影響することもあります(経営判断が正しければ利益は増える、間違えれば利益は減る。利益は多いほうが融資は受けやすい)。というわけで、冒頭でふれたとおり、「社長が注意を要する仕訳」を確認しておくことにしましょう。ぜんぶで3つ、次のとおりです。
- 借入の返済
- 借入の区分
- 信用保証料
このあと、順番に解説していきます。必要に応じて、自社の実際の仕訳も確認してみましょう。経理担当者や税理士も、社長の経営判断まで考えて仕訳をしていないことはあります(それでも経理処理としては間違いではありません)。そういう意味でも注意であり、あらためて確認をする機会は重要です。
銀行借入に関する注意仕訳3選
会社の銀行借入に関して、社長が注意を要する仕訳を3つ挙げます。仕訳のカタチを覚えるというよりは、その仕訳が決算書や試算表に与える影響を理解できるようになりましょう。そのための解説をしていきます。
借入の返済
銀行借入に関する注意仕訳、1つめは「借入の返済」です。仕訳は次のとおりです。
- 借入金 ××× / 普通預金 ×××
今回取り上げる3つの仕訳のなかで、もっとも初歩の初歩にあたります。ところが、社長になりたてのときなどはとくに、社長がイメージを誤る仕訳なので要注意です。
ポイントは、仕訳のうち「借入金」にあります。借入金とは「負債」のことであり、上記の仕訳は、負債の減少をあらわしています(負債が仕訳の左側にあるときは負債の減少をあらわし、右にあるときは増加をあらわすのが仕訳のルール)。
ですから、借入の返済は負債の減少であり、だとすれば、借入の返済によって利益が減ることはありません。ですが、借入の返済が「支出」であることから、「費用」だとイメージしてしまう社長がいます。
実際には「負債の減少」にもかかわらず、「費用」だと勘違いするとどうなるか?利益が出ていれば資金繰りは回っているとの勘違いにつながるのが問題です。
たとえば、年間利益が300万円、借入の返済が年間500万円の会社があるとします。利益が出ているのはよいですが、この会社の資金繰りは「300万円−500万円」で200万円のおカネが足りていない(預金を取り崩している)状況です。返済には、その分の利益が必要であることを理解しましょう。
しかし、前述したように、借入の返済を費用だと勘違いしていると、「利益が300万円出ているのだから資金繰りにも問題はない(利益300万円は返済500万円を引いたあと金額)」との見方になってしまいます。ひいては、経営判断を間違えることにもなりかねず、気をつけなければいけません。
借入の区分
銀行借入に関する注意仕訳、2つめは「借入の区分」です。仕訳は次のとおりです。
- 普通預金 ××× / 1年以内返済長期借入金 ×××
- 普通用金 ××× / 長期借入金 ×××
銀行から長期(完済まで1年超)の毎月分割返済で融資を受けた場合、決算日から1年以内に返済期日が到来する金額と、1年を超えて到来する金額とに分けましょう。前者は「1年以内返済長期借入金」という勘定科目で、後者は「長期借入金」という勘定科目で仕訳します。
これにより、決算書の流動負債には「1年以内返済長期借入金」が記載され、固定負債には「長期借入金」が記載されるのがポイントです。1年以内返済長期借入金は、決算日から1年以内に返済期日が到来する分ですから、社長は決算書を見るだけですぐに年間返済額を把握できます。
そのうえで、「税引後利益>年間返済額」であれば安心です(厳密には、「税引後利益+減価償却費>年間返済額」です)。前述したとおり、返済に必要なものが利益であり、「税引後利益>年間返済額」の状態は、預金を取り崩すことなく返済ができることをあらわしています。
また、「税引後利益<年間返済額」の場合でも、決算の段階でそれが把握できれば、あとになっておカネが足りなくなってから気づくよりも早く、資金繰りの算段に動くことが可能です。
ところが、銀行からの借入金が「長期借入金」など、1つの勘定科目で一緒くたになっていると、1年以内に返済期日が到来する金額はすぐにわかりません。結果として、資金繰りの算段が遅れたり、社長が経営判断を間違えることにもなりかねないので気をつけましょう。
信用保証料
銀行借入に関する注意仕訳、3つめは「信用保証料」です。仕訳は次のとおりです。
- 支払保証料 ××× / 普通預金 ×××
信用保証協会の保証付き融資を受けた場合には、信用保証料の支払いが必要になります。このとき、「支払保証料」という勘定科目で仕訳をするのがおすすめです。いっぽう、「支払利息」という勘定科目で、借入利息とあわせて信用保証料の仕訳をするのはやめたほうがよいでしょう。
なぜなら、決算書を見ても「支払った借入利息の額」がわからなくなるからです。すると、平均借入金利などの指標を計算するにも誤解を招く可能性があります。信用保証料が含まれている分だけ、高い金利で借入しているように見えてしまうということです。
銀行は、平均借入金利(支払利息÷借入金)から、融資先の金利水準を推測しようとしていることもあり(自行の貸出金利の参考にするため)、平均借入金利を高く見られると、その分だけ高い金利を提示される可能性が高まります。
また、社長にしてみても、借入金利と信用保証料とは分かれていたほうが、借入コストの実態をより正しく把握できてよいでしょう。したがって、信用保証料の支払いは「支払利息」とはせずに、「支払保証料」として仕訳をするのがおすすめです。
なお、「支払保証料」は損益計算書上、営業外費用に区分します。信用保証料を「支払手数料」という勘定科目で、販売費及び一般管理費に区分しているケースを見かけますが、実態よりも営業利益を悪く見せてしまうことになるので避けたほうがよいでしょう。
まとめ
会社の銀行借入に関して、社長が注意を要する仕訳を3つ挙げました。これらの仕訳を社長がイメージできるかどうかで経営判断は変わりえます。ひいては融資の受けやすさにも影響するところなので気をつけましょう。
- 借入の返済
- 借入の区分
- 信用保証料
本記事の内容をふまえて、自社の実際の仕訳も確認してみましょう。経理担当者や税理士も、社長の経営判断まで考えて仕訳をしていないことはあります。そういう意味でも注意であり、あらためて確認をする機会は重要です。