決算予測で売上や利益など、損益計算書ばかり気にしていませんか?ですが、貸借対照表も重要です。銀行融資の受けやすさも左右する、決算予測のポイントを解説します。
損益計算書も大事だが貸借対照表も大事
決算予測と言うと、多くの社長が売上や利益といった損益計算書に関わる項目に、意識が向くのではないでしょうか?
「売上〇億円、経常利益〇千万円を目指すぞ!」といった具合です。
もちろん、損益計算書は会社の成長を描くうえで重要です。しかし、それだけで「会社の未来」を予測したことになるのでしょうか?
実は、銀行が損益計算書と同じくらい、いや、場合によってはそれ以上に注目しているのが貸借対照表です。その予測が、意外と疎かになっている会社が多いように感じます。損益計算書の予測はバッチリでも、その結果として貸借対照表がどう変化するのか?
とくに「おカネ(預金)」や「会社の体力(純資産)」がどうなるのかまで、具体的に落とし込めていないのです。
今回は、なぜ決算予測において貸借対照表も重要なのか、社長が意識すべき貸借対照表上のポイントについて、銀行融資の視点も交えながら解説していきます。このあとの内容は以下のとおりです。
- なぜ、損益計算書の予測に偏りがちなのか?
- 貸借対照表のポイント1:預金残高を増やす
- 貸借対照表のポイント2:純資産を積み増す
なぜ、損益計算書の予測に偏りがちなのか?
決算予測というと、どうしても「売上をいくらにするか」「利益をどれだけ出すか」といった損益計算書(PL)の項目に目が行きがちです。
ではなぜ、貸借対照表(BS)の予測は、後回しにされたり、忘れられたりすることが多いのでしょうか?その背景には、いくつかの理由が考えられます。
理由1:PLのほうがイメージしやすいから
売上や利益といったPLの項目は、社長にとってなじみがあり、日々の営業活動やコスト削減努力とも直結しているため、その予測もイメージしやすいという側面があります。
いっぽう、BSの項目である純資産や自己資本比率などは、PLほどなじみがなくてとっつきにくく、その予測はいっそうイメージしにくい、と感じる社長が多いようです。
理由2:税理士の説明もPL中心になりがち
顧問税理士からの決算報告やアドバイスも、税金計算の基礎となる「利益(PL項目)」の話が中心になることが多い傾向があります。もちろん、税理士はBSの重要性も理解していますが、社長への説明の分かりやすさや関心の高さを考えると、どうしてもPLの説明に時間が割かれがちです。
結果として、BSの予測まで踏み込んだ話が不足することはあるでしょう。
理由3:BSの動きまで予測するのは難しい
PLの利益が、BSの純資産にどう影響し、その結果として預金や借入金、売掛金や買掛金、在庫などがどのように連動して変化していくのか?その仕組みが複雑で、予測するのが難しいと感じてしまう社長も少なくありません。
しかし、BSの予測こそが、会社の「本当の体力」を示すものであり、資金繰りの安定性を示すものであり、銀行が融資判断をするうえで重視しているポイントなのです。
決算予測で社長が見るべき貸借対照表
損益計算書(PL)の利益予測ももちろん大切ですが、それ以上に会社の持続・成長に深く関わるのが、貸借対照表(BS)です。決算予測をするうえで、社長がとくに強く意識すべきBS上の2つのポイントを解説します。
貸借対照表のポイント1:預金残高を増やす
なぜ預金残高の予測が重要か?
言うまでもありませんが、会社は赤字だからといってすぐにつぶれるわけではありません。会社が立ち行かなくなるのは、おカネ(現金預金)が底をつき、支払いができなくなったときです。
したがって、将来の預金残高がどう推移するのかを予測し、コントロールすることは、資金繰りのもっとも基本的な、そして、もっとも重要な活動です。銀行も融資先の預金残高の推移を、会社の安全性を測る重要指標として注目しています。
どう予測してどう増やすのか?
預金残高を予測するためには、PLで予測した利益だけを見ているのでは不十分です。利益とおカネの動きは必ずしも一致しないからです。具体的には、
- 売掛金の回収サイト(何か月で入金されるか)
- 買掛金の支払サイト(何か月後に支払うか)
- 在庫の増減(仕入れたがまだ売れていないモノの量)
- 借入金の返済予定額
- 設備投資などの大きな支出計画
といった、BSの項目を、利益と合わせて予測に織り込む必要があります。
そして、単に予測するだけでなく、「どうすれば預金残高を増やせるか」という具体的な行動計画と連動させることが重要です。たとえば、売掛金の回収を早めるための交渉、支払サイトの延長交渉、不要な在庫の圧縮・処分、資金繰りを圧迫しない借入返済計画の見直し、などが挙げられます。
決算予測をするときには、「月商の〇ヶ月分以上の預金を維持する」といった、具体的な目標値を設定して、それを達成するための道筋を明確にしましょう。
貸借対照表のポイント2:純資産を積み増す
なぜ純資産の予測が重要か?
貸借対照表の「純資産」は、株主からの出資金と、会社が創業以来蓄積してきた利益(利益剰余金)の合計であり、返済不要の安定した自己資本です。この純資産こそが、会社の「体力」そのものを示します。
純資産が厚ければ厚いほど、予期せぬ赤字が発生したときの耐久力が増して、財務的な安全性が高まります。そして、銀行からの信用も向上します。逆に、純資産がマイナスとなる「債務超過」の状態は、銀行融資を受けるうえで問題であり、会社の存続にとっても危険信号です。
どう予測してどう積み増すか?
純資産を予測するためにはまず、PLで予測した「税引後利益」が、BSの「利益剰余金」にどれだけ積み上がるかをシミュレーションします。もし配当を行う計画があれば、その金額も考慮に入れる必要があります。
そして、純資産についても具体的な目標を設定することが重要です。
- まず絶対的な目標は「債務超過にならない」ラインを死守する
- 次のステップとしては、「年間〇〇万円の赤字が出ても、3年間は債務超過にならずに耐えられるだけの額」といった、リスク許容度に応じた目標設定を考える
- さらに、銀行が一定の評価をする目安として、たとえば「純資産額5,000万円以上」といった金額目標を掲げる
これらを達成するための方法は、結局のところ「PLで予測した利益を、毎期着実に達成し続けること」に尽きます。決算予測において、利益の達成が、純資産という会社の体力を直接的に強化する道であることを、社長はあらためて理解しておきましょう。
まとめ
決算予測は、単に「これくらい儲けたい」という損益計算書(PL)の計画だけでは不十分です。それと同時に、その結果として会社の貸借対照表(BS)がどう変化するのか、とくに「未来の預金残高」と「未来の純資産」がどうなるのかまでを検討することが、本当の意味で「会社の未来」を予測することに繋がります。
BSまで意識した決算予測を行うことで、社長は将来の資金ショートを早期に察知して、先手を打つことができます。また、財務体質の強化は、銀行からの信頼を高めて、より有利な条件での融資や、いざというときの支援を得る力にも繋がります。
決算予測をするときには、PLだけではなく、BSも忘れずに。