「身の丈に合った借入」が、いざというときに通じなくなる話

「身の丈に合った借入」が、いざというときに通じなくなる話

身の丈に合った借入」という言葉には、大事な前提が抜けています。銀行の判断は「いまのあなた」が基準なので、困ったときには条件が変わりやすいのです。この記事では、平時のうちに備える考え方と、借りすぎを心配しなくてよい理由をあわせてお伝えします。

借金は最小限に。返せるなら繰り上げ返済。
そう信じて、ずっと真面目にやってきた社長がいます。

しんと静まり返った銀行の応接室。担当者が席を外した瞬間の、あの逃げ出したくなるような沈黙。すでにそれを知っている社長に、僕はこう言うしかないかもしれません。

キャッシュが切れてから「なんとかしてくれ」と言われても、僕にできるのは隣にいることくらいだと。

目次

先に結論をいうと…

  • 銀行が言う「身の丈」は晴れの日の基準。困ったときに「その身の丈では貸せない」となりやすい傾向がある。
  • 「借りすぎ」は起きにくい。融資には必ずキャップがかかり、「借りられた」事実は返済能力の証明になりえる。
  • 借りれるだけ借りるのは「預金を増やす」のが目的。借金を増やすことではない(据え置き前提)。

世間の「身の丈」論は正しい。ですが、前提が「晴れの日」になりがち

「身の丈に合った借入をしましょう」

この言葉自体は、ぐうの音も出ない正論です。僕も、この考え方を否定するつもりはありません。むしろ、基本中の基本だといえます。

一般的に言われる「身の丈」の基準。それは、「簡易キャッシュ・フロー(税引後利益+減価償却費)」の範囲内で、年間の返済額が収まっているかどうか、です。

たとえば…
年間の利益と減価償却費の合計が1,000万円の会社なら、年間の返済額も1,000万円以内に抑える。これなら、稼いだおカネのなかで無理なく返済ができるわけです。

たしかに、理にかなっています。

銀行が見ている「身の丈」の正体

ですが、ここで立ち止まって考えてみてほしいのです。その「身の丈」は、いったい いつの時点 の数字で測られているのか、ということを。

銀行が「この会社なら貸せる」と判断するのは、決算書の内容がよく、資金繰りにも余裕があるときです。いわば、空がカラッと晴れ渡っている「晴れの日」の基準です。

真面目な社長ほど、「いまは手元におカネがあるから、借りる必要はない。もっと必要になったら相談しよう」と考えがちです。

その責任感の強さは、経営者として本当に素晴らしいものだとおもいます。じぶんの力でなんとかしようとする姿勢があるからこそ、今日まで会社を守ってこれたはずですから。

しかし、ビジネスの現場では、その「必要になったとき」にはすでに、銀行から見たあなたの身の丈が縮んでしまっている。そんな矛盾が起きているのです。

注意:運転資金を「完済する努力」が、体力を削りうる

こと「運転資金(事業を回すために必要なおカネ)」に関しては、その真面目さが裏目に出ることがあります。なぜなら、事業を継続している限り、運転資金に「おわり」はないからです。

売上が上がれば、仕入れや人件費の支払いも増えます。たとえ利益が出ていても、売上の回収より先に支払いは来るもの。この「時間差」を埋めるのが銀行融資の役割なわけです。

それなのに、無理に分割返済を続けて、借金をゼロにしようと努力する。するとどうなるか。

本来、会社に残しておくべき手元のキャッシュ(筋肉)が、返済という形で外へ流れ出し、会社の体力がじわじわと削られてしまいます。

貸借対照表を整理し、不要な資産(贅肉)は処分して、手元にはいつでも動かせるキャッシュを厚く残しておく。 「借金を減らすことよりも、この筋肉の量を維持すること」 のほうが、生存確率を上げるためには重要になりえます。

銀行は「土砂降りの身の丈」には傘を貸しにくい

「現状では、融資が難しい状況です」

担当者は穏やかな声でそう言います。悪意があるわけではありません。事業として融資をしている以上、返済が見込めない相手には貸せない。それだけの話でしかありません。

困っているから借りに来ているのに、困っているから貸せない。この構造に怒っても仕方ありません。銀行は慈善事業ではなく、営利事業だからです。

「まだ大丈夫」が、一番危うい

売上が落ち始めたとき。資金繰りが少しきつくなってきたとき。そういうタイミングで「まだ大丈夫」と判断して、銀行への相談を先延ばしにする社長は多い傾向があります。

実は僕も、かつては「借金は少ないほど健全」と信じていた真面目なビビりでした。その気持ちはよくわかります。ですが、ここが罠です。

「まだ大丈夫」なうちは、たしかに借りられる。「もう限界」になったとき、銀行から見た身の丈はすでに縮んでいます。

会社をつぶすのは、赤字が続くからではなく、キャッシュが切れるからです。特効薬は銀行借入ですが、その薬が手に入りやすいのは 「健康なとき」 に限られやすい。

晴れの日に傘(融資)を借りておく。その感覚を、資金繰りの設計に組み込んでおくのが、現実的な防衛策になりえます。

「借りすぎ」が怖い社長へ。銀行が勝手にキャップをかける

「そんなに借りてだいじょうぶなのか?」

そうおもわれるかもしれません。ですが、銀行融資に関して言えば。会社が「借りすぎる」ことは、実質的に起きにくいといえます。

なぜなら、銀行は貸したおカネを「返済してもらうこと」を前提に貸しているからです。返済してもらえないであろうおカネは、銀行はそもそも貸さないものです。

銀行が勝手にかける「キャップ」の正体

銀行は、プロの目で判断して、「貸せるのはここまで」という上限を決めます。これを、僕は「キャップ(融資上限)」と呼んでいます。

たとえば…
年商1億円の会社が、いきなり5億も10億も借りられることはありません。銀行が審査の段階で、その会社の規模や収益力に見合った「キャップ」を勝手にかけてくれるからです。

だとすれば。「銀行が貸してくれる」という事実は、プロが「この会社なら返せる」と太鼓判を押した、ということでもあります。

じぶんの不安で、プロ(銀行)の審査結果をわざわざ上書きしなくてもよいでしょう。借りられたなら、それが今のあなたの客観的な返済能力の 「ひとつの目安」 になりえるからです。

だからこそ、借り方には「順番」があります。

借りれるだけ借りるの真意:プロパーは目一杯、保証付きは温存

「借りれるだけ借りるなんて、乱暴な話だ」

そうおもわれるかもしれませんが、そこには明確な戦略と手順があります。いうなれば、資金調達の「ポートフォリオ(組み合わせ)」の設計です。

具体的には、プロパー融資(銀行独自の融資)を目一杯借りて、保証付き融資(信用保証協会の保証が付く融資)には余力を残しておく、という考え方です。

晴れの日にしか開かない「プロパー」という扉

なぜ、プロパー融資を優先するのか。それは、銀行にとってリスクが高い分、会社の業績が良いときにしか借りられない傾向があるからです。

いっぽうで、保証付き融資には、制度上の限度額があります。これを平時に使い切ってしまうと、いざという「雨の日」に、もう傘を広げることができなくなってしまいます。

借りれるだけ借りる目的は、借金を増やすことではなく、あくまで 「預金を増やす」 ことにあります。

手元に潤沢なキャッシュがあれば、たとえ毎月の返済があっても、その預金から出すだけなので、実質的な返済負担は増えません。むしろ、おカネがあるという安心感が、社長の判断を冷静にしてくれます。

金利やインフレで、借入の意味も変わりうる

さらに言えば、いま起きているのは、単なる金利の上昇だけではありません。物価が上がる「インフレ」という大きな季節の変わり目です。

インフレ局面では、おカネそのものの価値が目減りする傾向があります。いっぽうで、売上や資産の額面は膨らみやすい。

これまでは、真面目に「返して減らす」ことが正義でした。ですが、これからは会社の成長によって 「借金を薄めて小さくする」 という発想が、より合理的という考え方もあるわけで。

金利のわずかな差を気にして調達を渋るよりも、現金の価値が目減りするリスクを回避するために、いまのうちにキャッシュを厚くしておく。この「アタマの余白」が生み出す価値は、支払う利息よりもずっと大きいのではないでしょうか。

まとめ:借金をゼロにする努力より、会社を潰さない努力を

「身の丈に合った借入」という言葉の響きは、たしかに心地よいものです。ですが、その基準が「晴れの日」のものだとしたら。

真面目に借金を減らそうとする努力が、いざというときの防衛力を削いでしまっているかもしれません。あなたの会社の「晴れの日」は、いつまで続くか。その問いを持って、次の行動を起こしてみましょう。

今回の要点

  • 「身の丈」とは返済額の小ささではなく、不測の事態に耐えうる「キャッシュの厚み」のこと。
  • 銀行は「土砂降りの身の丈」には傘を貸しにくい。だからこそ、晴れている平時の調達が防衛になる。
  • 借りすぎを必要以上に恐れなくてよい場合が多い。銀行が「貸せる」と判断した金額こそが、ひとつの目安。

最初の1歩

  • メインバンクの担当者に、試算表を持って「いまの借入の余地」を具体的に相談してみる
  • いまの借入を「プロパー融資」と「保証付き融資」に仕分けして棚卸しする
  • 「安心感」として、通帳にいくら残っていれば安心か、目標額を仮置きしてみる

もちろん、最新の融資判断や審査の傾向は、銀行や社会情勢によっても変わります。詳しい条件は、金融機関の最新情報を確認しましょう。

借入の余地と、資金繰りの設計。いちど、具体的に整理してみたい社長は、個別相談 をのぞいてみてください。

この記事を書いた人

1975年生まれ、横浜在住。税理士、発信者、習慣家。2016年に独立以来、きょうまでブログは毎日更新中。近年は、銀行融資支援を得意な仕事にしている。借りれるうちに借りれるだけ借りよ、が口グセ
現在は1日1万歩以上、ひと月150kmほど走る。趣味は、コーヒーとサウナ、読書、散歩、アニメ。スタバでMacがマジカッコいい!と思い続けてる
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