B/Sに幽霊はいませんか?資産を成仏させる財務整理

財務の整理整頓(B/Sの断捨離)

おカネを借りて「安心」を増やす一方で、不要な資産を捨てて「身軽さ(筋肉質なB/S)」を手に入れる。
数字の綺麗さ以上に、社長の「アタマの余白」を確保するための断捨離についてお話しします。

目次

貸借対照表に棲みつく「幽霊資産」の正体

「ウチの会社は、利益も出ているし資産もたくさんある」
そうおもっている社長ほど、いちど貸借対照表をじっくり眺めてみてほしいのです。

貸借対照表の左側には、ずらりと「資産」が並んでいます。
ですが、そのなかに「幽霊」が棲みついてはいませんか?

ここでいう「幽霊資産」とは、帳簿の上では価値があることになっているけれど、実際にはもう「おカネ」に変わりにくいもののことです。

たとえば…

  • 3年前から倉庫の奥で眠っている、流行遅れの在庫
  • 回収できる見込みが薄い、知人への貸付金
  • すでに使っていないのに、節税の勢いで買った高額な備品

これらは、会計上は「資産」という立派な名前で呼ばれます。
ですが、実態は「過去の判断の名残」になっていることが少なくありません。

社長がこの幽霊たちを放置してしまう理由は、よくわかります。
(というか、僕もモノを溜め込みがちなので、お気持ちはわかります…)

幽霊を認めるということは、その分だけ「損失」を認めるということ。
せっかく積み上げた利益が減ってしまうのは、誰だってツラいものです。

ですが、幽霊資産を抱え続けるコストは、想像以上に重たい。
なぜなら、それらは社長の「アタマの余白」をじわじわと奪っていくからです。

「あの在庫、どうにかしなきゃな」
「あの貸付金、いつ返ってくるんだろう」

そんな小さなモヤモヤが積み重なると、社長の決断力は鈍ります。
カラダはひとつしかないのに、動かない資産の管理にエネルギーを割かれるのは、あまりにももったいない。

銀行員もプロですから、数字の「中身」を見ています。
幽霊が多いと、少なくとも説明に手間がかかり、「資産の手触り感」が弱い印象になりやすい。
結果として、融資判断が慎重になるケースもありえます。

ならば、いっそのこと幽霊には成仏してもらいましょう。
実態のない資産を捨てて、貸借対照表を「手触り感のある数字」だけにする。

それが、筋肉質な経営への第一歩だと僕は考えています。

1,000万円の高級車より、1,000万円のキャッシュ

「節税のために、ベンツを買おうとおもうんだ」
そんなお話を、社長から伺うことがあります。

たしかに、利益が出ているときに経費を使い、税金を減らす。
それ自体は、テクニックとして間違いではありません。

ただ、ここでいちど立ち止まって考えてみてほしいのです。
その1,000万円の高級車は、将来、会社にどれだけの「おカネ」を連れてきてくれるでしょうか。

(もちろん、車が事業に必須の業種もあります。その場合は「必要な筋肉」です。ここで言いたいのは、「必要性より節税の勢いが勝っているケース」の話です。)

たとえば…

  • 1,000万円のベンツを買った場合。

帳簿の上では「資産」になりますが、買った瞬間に価値は下がり始めます。
しかも、維持費や保険料といった「おカネが出ていく理由」もセットでついてくる。

いっぽうで、

  • 1,000万円をキャッシュ(現預金)で持っていた場合。

これは、何にでも姿を変えられる「最強の武器」になります。
新しい事業の種まきにも使えるし、不測の事態が起きたときの「盾」にもなるわけです。

同じ1,000万円という数字でも、その「手触り感」はまったく違います。

高級車という「贅肉」を貸借対照表に載せると、社長の胃は少しずつキリキリし始めるかもしれません。

「もし明日、大きな支払いが重なったら?」
「もし銀行が、急に融資を絞ったら?」

そんなとき、駐車場にある高級車は、すぐには助けてくれません。
(売却もできますが、タイミングと手間と値落ちがついてきます。)

事実、僕が見てきた「強い会社」の社長ほど、見栄(看板)よりも実利(キャッシュ)を重んじています。

1,000万円の高級車に乗っているじぶんより、1,000万円のキャッシュを自由に動かせるじぶん。
どちらのほうが、夜ぐっすり眠れるか。
だいたい想像がつくのではないでしょうか。

おカネを借りて「安心チケット」を手に入れるのが守りなら、不要な資産(贅肉)を持たないのは「攻め」の姿勢です。

「節税ベンツ」の仕訳が、社長のココロを重くしてはいないか。
数字がもたらす「景色」を、いちど想像してみてほしいのです。

数字の「額面」ではなく「比率」で会社を測る

「ウチの会社は、資産が5億円もあるから大丈夫」
そんなふうに、数字の「額面(金額)」だけで安心していませんか?

ですが、財務の世界では、金額そのものよりも「比率」のほうが重要だったりします。
なぜなら、数字の大きさは、ときに会社の「本当の姿」を隠してしまうからです。

たとえば…

  • 資産が5億円あっても、そのうち4億円が「動かない在庫」だったらどうでしょう。
  • いっぽうで、資産は1億円しかないけれど、そのほとんどが「すぐにおカネに変わるもの」だったら?

どちらの会社が「強い」かは、言うまでもありません。

インフレや金利上昇がささやかれるいま、借金は「返して減らす」のではなく「成長で薄める」ものだと僕は考えています。

それと同じように、資産も「持っている額」より、それが「売上や利益に貢献しているか」という比率(資産効率)で見る
この視点が効きます。

不要な資産(贅肉)を抱えたままでは、会社のフットワークは重くなる。
ならば、贅肉を落として、分母(総資産)を小さくしてみる。

分母が小さくなれば、相対的に「自己資本比率」や「利益率」といった数字は改善しやすくなります。
見た目の金額は減ったとしても、中身はより「筋肉質」に、より「強固」になるわけです。

社長が「金額」という呪縛から少し離れて、「比率」で会社を見られるようになると、資金繰りの景色はガラリと変わります。

「この資産は、利益を生むために働いてくれているか?」
「それとも、ただ居座って比率を下げているだけではないか?」

そんなふうに、ひとつひとつの数字に「役割」を問いかけてみる。
大きな数字を追いかけるより、まずは「比率の整い」を目指してみませんか。

資産の断捨離は、銀行員を動かすトリガーになる

「銀行は、数字がきれいな会社にしか貸してくれない」
そんなふうに、銀行を「審査するだけの人」だとおもっていませんか?

ですが、現場では、もう少し人間味のある動きもあります。

銀行員だって、ひとりの人間です。
「この社長は、おカネに対して誠実だな」
「この会社を本気で応援したいな」
そう感じれば、提案の仕方や動き方が変わることがあります。

そのための強力なトリガー(引き金)になりうるのが、資産の断捨離です。

たとえば…
社長が「実は、この3年動いていなかった在庫を処分しました。その分、今期は損失が出ますが、来期からは身軽に動けます」と、報告したとします。

これを聞いた銀行員は、どう思うでしょうか。
「実態を隠さず、痛みを伴う改革ができる社長だ」
そう受け取られれば、信頼の見え方が一段上がることは十分ありえます。

また、銀行(特に地銀や信金)は、メガバンクよりも「事業の中身」を見ようとします。
貸借対照表が整理され、本業に関係のない「贅肉」が削ぎ落とされていると、彼らは本業支援のアドバイスがしやすくなるのです。

「中身がクリアになったので、次はあの企業を紹介してみようか」
「これだけ身軽なら、新しい設備投資の提案もしやすいな」

そんなふうに、銀行員があなたの会社の「伴走者」として動き出す。
そのきっかけになりえます。

見栄(たとえば、不釣り合いな高級車や、規模を大きく見せるための無駄な資産)を捨て、実利を取る。
その姿勢を見せることが、銀行を「味方」に変える近道になることがある。
僕はそう考えています。

注意:必要な「種まき資産」まで捨てない

「よし、今日からB/Sの断捨離をはじめるぞ!」
そう意気込んでいただくのであれば、ここまでお話をしてきた僕としてもうれしいことです。

ですが、ひとつだけ注意してほしいことがあります。
それは、なんでもかんでも「捨てればいい」というわけではない、ということです。

整理整頓の目的は、あくまで「筋肉質な経営」をつくること。
必要な筋肉(資産)まで削ぎ落としてしまったら、本末転倒なわけです。

たとえば…

  • 1年後、2年後の大きな利益につながる「研究開発費」
  • 欠品を防ぎ、お客様の信頼を守るためにあえて持っている「戦略的な在庫」
  • 社員のスキルアップや、将来の柱をつくるための「教育投資」

これらは、いま現在は「おカネ」になっていなくても、将来キャッシュを運んできてくれる大切な「種まき資産」です。

「1年動いていないから」という理由だけで、こうした未来への投資まで捨ててしまうのは、あまりにももったいない。
それは断捨離ではなく、ただの「縮小」になってしまいます。

大切なのは、その資産が「未来の景色」を描けているかどうかです。

「これは過去の名残(幽霊)か?」
「それとも、未来の利益の種(筋肉)か?」

この見極めこそが、社長の腕の見せどころだと僕は考えています。

いきなりぜんぶを捨てようとしなくて大丈夫です。

まずは「明らかに幽霊だとわかっているもの」から、少しずつ。
未来への種は大切に育てつつ、不要な贅肉だけを落としていく。

そんな「バランス感覚」を持ちながら、一歩ずつ身軽になっていきましょう。

まとめ/最初の1歩は「1年動いていないもの」の特定から

今回は、財務の整理整頓、いわば「貸借対照表の断捨離」についてお話ししました。

ポイントをまとめると、以下の3点です。

  • 貸借対照表の「贅肉」を落とすと、社長の「アタマの余白」が生まれる
  • 金額(額面)よりも「比率(効率)」で会社を測るクセをつける
  • 誠実な資産整理は、銀行員の見え方を変え、「味方」を増やすきっかけになりうる

おカネを借りて手元キャッシュを厚くする「守り」も大切ですが、
それと同じくらい、不要な資産を捨てて身軽になる「攻め」の姿勢も欠かせません。

とはいえ、いきなりすべてを完璧に整えるのは難しいもの。
ならば、まずは「最初の1歩」として、ここから始めてみませんか。

  • 貸借対照表の資産の部を、上から順に眺めてみる
  • そのなかで「1年以上、動きがないもの」をひとつだけ特定する
  • それが「幽霊」か「種まき」かを自問自答してみる

たったこれだけでも、数字に対する「手触り感」は驚くほど変わります。

「この資産は、本当にいまのじぶんに必要なのか?」
そう問い続けることが、筋肉質な会社をつくるための、もっとも確実な道だと僕は考えています。

もし「幽霊の見つけ方」や「成仏の順番」、
あるいは「銀行にどう説明するのが一番スムーズか」を、あなたの会社の状況で一緒に整理したい場合は、
こちら(個別相談) もご活用ください。
「どこから手をつけるのが一番ラクか」を、いっしょに決めていきましょう。

この記事を書いた人

1975年生まれ、横浜在住。税理士、発信者、習慣家。2016年に独立以来、きょうまでブログは毎日更新中。近年は、銀行融資支援を得意な仕事にしている。借りれるうちに借りれるだけ借りよ、が口グセ
現在は1日1万歩以上、ひと月150kmほど走る。趣味は、コーヒーとサウナ、読書、散歩、アニメ。スタバでMacがマジカッコいい!と思い続けてる
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