銀行員による決算書の見方は、「PLが2・BSが3」です。これは、社長が決算書を見るときにも役立つ見方だといえます。そもそも決算書の見方がわからないという社長は、ぜひご一読を。
銀行員の見方は「PL2・BS3」
自社の決算書は、銀行からどのように見られているのだろうか?社長であれば、知りたいことのひとつであるはずです。そこで、銀行員による決算書の見方についてお話をしましょう。
とはいえ、僕自身は銀行員ではありません。それでも、税理士としてお客さまの銀行融資をお手伝いするなかで、また、銀行員の方々からお話もうかがいながら、銀行員に共通する決算書の見方についてはわかるようになりました。
そのうえで、銀行員は決算書を「PLが2・BSが3」で見る、これが結論です。PLとは損益計算書を、BSとは貸借対照表を指します。つまり、銀行員は損益計算書も貸借対照表も両方を見ているし、割合としては「損益計算書2:貸借対照表3」くらいだろうということです。
詳しくはこのあと説明していきます。なお、銀行融資を受けるかどうかに限らず、社長が自社の決算書を確認するときの、ポイントや手順としても役立つ内容です。そもそも決算書の見方がわからないという社長も少なくありませんから、一読をおすすめします。
銀行員に共通する決算書の見方
銀行員による決算書の見方には細かな点で差はあるものの、おおむね共通しているといえます。その共通点が「PL2・BS3」です。PL2とBS3について、このあと掘り下げます。なお、説明の順序は、決算書を見るときの順序とも一致するので、あわせて押さえておきましょう。
「PL2」とは?
決算書は大きく2つ、損益計算書と貸借対照表とに分かれています。そのうち、PLとは損益計算書のことです(Profit and Loss statementの略)。PL2ということで、損益計算書について2点を確認します。具体的には、売上高と当期純利益です。順番に確認していきましょう。
売上高
売上高は、損益計算書の一番上に位置します。売上高を確認する目的は2つ、「会社の規模感を把握するため」と「平均月商を把握するため」です。
売上高は、事業の規模をあらわすものであり、その会社の規模感をつかむのに役立ちます。銀行には「売上高は大きいほうがいい」という価値観があることも覚えておくとよいでしょう。より重要なのは利益ですが、利益の源泉が売上である以上、売上が大きいほうが安心だとの考え方です。
また、平均月商(売上高÷12か月)を把握するのは、このあと貸借対照表を見るにあたっての「モノサシ」とするためです。貸借対照表の数字だけを見ても、それが良いか悪いかの判断は難しいものです。このときにモノサシがあると判断材料になります(後述)。
したがって、まずは平均月商を計算しておきましょう。
当期純利益
当期純利益は、損益計算書の一番下に位置します。当期純利益を確認する目的は、「返済力を把握するため」です。銀行の見方は「利益=返済力」であり、最終利益(税金を払ったあとの利益)である当期純利益が、返済力をはかるにあたり参考になります。
当期純利益に関連する指標として、債務償還年数を覚えておきましょう。算式でいうと「借入金÷(当期純利益+減価償却費)」です(借入金は「BS3」のなかで後述)。なお、減価償却費を当期純利益に加算するのは、減価償却費が支出をともなわない費用であり、返済力を構成するものとして足し戻すためです。
債務償還年数とは、「いまの返済力だと借入金を何年で完済できるか」の指標であり、10年以内に完済できるのが望ましい、というのが銀行の見方になります。言い換えると、債務償還年数が10を超えるようなら、貸しすぎであり「もう貸せない」ということです。
「BS3」とは?
続いて、BSとは貸借対照表のことです(Balance Sheetの略)。BS3ということで、貸借対照表について3点を確認します。具体的には、純資産、預金、借入金です。順番に確認していきましょう。
純資産
純資産は、貸借対照表の末尾に位置する項目です。貸借対照表では真っ先にここを見る、という銀行員が多いと聞きます。その目的は、「債務超過でないかを確認するため」です。債務超過とは、純資産の部がマイナスの状態であり、言い換えると「資産<負債」の状態をいいます。
資産をすべて現金化しても負債をまかなえないのですから、実質的な破たんを示すものであり、債務超過になると銀行融資が受けにくくなることを理解しておきましょう。銀行は、債務超過をとても嫌います。
では、どうして債務超過になるのかといえば、前述した当期純利益がマイナス(赤字)だからです。そもそも純資産とは、資本金と利益剰余金とで構成されています。このうち利益剰余金とは、過去の当期純利益の累計額であり、赤字が続けば利益剰余金のマイナスが大きくなり、そのマイナスが資本金よりも大きくなると純資産がマイナスとなって、債務超過にいたるのです。
以上をふまえて、純資産はプラスの金額が大きいほどよい(銀行融資が受けやすい)と覚えておきましょう。
預金
預金は、貸借対照表の先頭に位置します。貸借対照表でまずどこを見るかといえば、前述した純資産を見るか、あるいは預金を見るかの二大派閥だといってよいでしょう。とにもかくにも、銀行にとって、預金はとても大切な項目なのです。
その預金を見る目的は、「返済余力を確認するため」にあります。言うまでもなく、銀行に返済をするためにはおカネが必要なのであり、だとしたら預金がどれだけあるのかは銀行の関心ごとです。そのうえで、「平均月商の2か月分以上」が目安になります。
それくらいの預金残高があれば、すぐには資金繰りに支障をきたすことは考えづらく、しばらくは問題なく返済を続けてもらえるだろう。銀行はそのように考えるからです。逆に、その目安よりも預金残高が少ないようだと銀行は心配になります。
とくに、預金残高が平均月商の1か月分未満は危険な状態と見られ、融資が極端に受けにくくなるものです。よって社長は、「預金残高は高く維持するのが望ましい」と心得ておきましょう。
借入金
BS3のさいごとして、借入金を確認します。ここでいう借入金は、銀行からの借入金であり、貸借対照表の負債の部に位置する項目です。借入金を確認する目的は、「貸しすぎていないかを確認するため」にあります。
目安になる指標が、借入金月商倍率です。算式でいうと「借入金÷平均月商」であり、ここでも「平均月商」というモノサシを使うことになります。その借入金平均月商が、「3を超えると警戒、6を超えると危険」が、銀行におおむね共通する見方です。
ただし、借入金が多いことだけをもって危険とも言い切れません。なぜなら、預金があれば問題はないからです。1億円の借入があっても1億円の預金があれば、その借入はないのと同じだということはわかるでしょう。そこで、前述した債務償還年数の算式を変形する見方もあります。
(借入金−預金)÷(当期純利益+減価償却費)
これであれば、預金の分だけ借入金はないものとされるので、預金が多い会社ほど債務償還年数は短くなります(銀行から見ると安全)。銀行は、借入金月商倍率と債務償還年数の両面から、借入金を確認していることを理解しておきましょう。
まとめ
銀行員は決算書を「PLが2・BSが3」で見ます。銀行員は融資の検討をするにあたり、損益計算書も貸借対照表も両方を見ているし、割合としては「損益計算書2:貸借対照表3」くらいだということです。そのときに見る具体的な項目や、目的についてお伝えをしました。
たった5つの項目だけでよいのか、と思われたかもしれません。もちろん、銀行はもっと細かな確認もしています。ですが、まずは全体像をつかむところからです。
社長もまた、自社の決算書の全体像をつかむのが先決であり、本記事でお伝えした見方が役に立つものと考えます。見るときの手順もあわせて押さえておきましょう。手順に迷いがなければ、より素早く全体像をつかめるようにもなるはずです。