メインバンクがない、あるいは明確でない会社があります。このときに起きる問題はけして小さなものではなく、無視できるものではありません。本記事では、そこを確認していきます。
銀行とは平等にお付き合いをするという誤解
「ウチは特定のメインバンクというのは決めていなくてね。取引している銀行さんとは、なるべく平等にお付き合いするようにしているんですよ」
社長のなかには、このように考えている方がいらっしゃいます。一見すると、リスクを分散して、特定の銀行に依存しない、賢明な対応のようにも見えるかもしれません。
でも、本当にそうでしょうか?
実は、「メインバンクがない」ということには、社長が思っている以上に大きなデメリットが潜んでいる可能性があるのです。
とくに最近は、銀行業界の再編や金融庁の方針転換などを背景に、銀行が融資先の「メインバンク」をより重視する傾向が強まっています。なぜなら、銀行も効率化を進めるなかで、関係の深さで支援に濃淡をつけざるを得ず、また、会社の事業に踏み込んだ支援(伴走支援)や、いざというときのリスク対応は、やはりメインバンクが中心的な役割を担うと考えているからです。
ちなみに、「メインバンク=融資残高1位」とは限りません。プロパー融資の有無や、日ごろの対応なども含めて、本当に自社を支えてくれる銀行はどこかを見極める必要があります。「ウチのメインはA銀行」とおもっていても、A銀行のほうはそう考えていない…という「勘違い」も起こりえます。
メインバンクがない、あるいは明確でない場合、具体的にどのような問題が起こりうるのか?今回は、代表的な3つの問題を取り上げて解説します。ポイントは以下のとおりです。
- どの銀行も助けてくれない
- 条件面で不利になりやすい
- 本業支援を受けにくくなる
メインバンクがない会社に起きる3つの問題
では、メインバンクがない、あるいは明確でない会社は、具体的にどのような不利益を被る可能性があるのでしょうか?
代表的な3つの問題点を見ていきましょう。
いざというときに誰も助けてくれない
平時にはとくに問題を感じなくても、会社の状況が厳しくなったときに、メインバンクがないリスクはあらわになります。たとえば、急激な業績悪化に見舞われたときや、コロナ禍のような予期せぬ外部環境の変化があったときなどです。
こうした有事の際に資金繰りが厳しくなり、追加融資や返済条件の変更(リスケジュール)が必要になったとします。しかし、メインバンクがなければ、どの銀行も率先して支援に動き出しにくい、という状況に陥りがちです。
各銀行は「他の銀行はどうするのだろうか?」と、互いに牽制し合って、様子見に終始してしまう可能性が高まります。その結果、どの銀行からも支援が得られず、資金繰りが完全に詰まってしまい、本来なら避けられたはずの最悪の事態(倒産)を招いてしまうことはあるでしょう。
これはまさに、「船頭多くして船山に登る」状態です。だから、そうならないように、船頭(メインバンク)は決めておかねばなりません。メインバンクがあり、いざというときにもメインバンクが先陣を切って支援をはじめてくれると、他の銀行も追随して支援がしやすくなります。
条件面で不利になりやすい
銀行との取引においては、金利、担保、保証、融資期間など、さまざまなな「融資条件」が存在します。メインバンクがない会社は、この条件面において不利な立場に置かれやすいと言えます。
なぜなら、銀行間の健全な競争原理が働きにくいからです。もしメインバンクが明確で、その銀行が自社を高く評価していれば、他の銀行も「メインバンクに負けたくない」「良い条件を出して取引シェアを奪いたい」と考えて、結果的に会社にとって有利な条件を引き出しやすくなります。
ですが、メインバンクがなければ、どの銀行からも自社を適正に評価してもらえないことはあるでしょう。そうなると銀行に「足元を見られ」て、相場よりも高い金利や、過剰な担保・保証を要求されても、受け入れざるを得なくなります。
また、銀行側からしても、「この会社を本気で支援して、育てていこう」という強い動機が働きにくいので、リスクを取ってプロパー融資(保証協会保証なしの融資)を実行したり、より有利な条件での借り換えに応じたり、といった積極的な提案も期待しにくくなるものです。
つまり、メインバンクとは、自社のことを深く理解していて、できるだけリスクを取ってくれる(自社にとっては有利な融資条件になる)銀行を意味します。
本業支援を受けにくくなる
銀行は単なる資金の貸し手ではなく、会社の成長をサポートする「伴走者」としての役割を強化しようとしています(金融庁も銀行にそう求めています)。
メインバンクとして深く関わるなかで得た業界知識や、他の取引先とのネットワークなどを活かして、融資以外の付加価値(販路拡大につながるビジネスマッチング、経営改善に役立つアドバイス、補助金や助成金の情報提供など)を提供しようとしているのです。
しかし、メインバンクとしての関係性が希薄であれば、銀行もそこまで踏み込んだ情報提供や支援を行う動機は働きません。当たり障りのない情報提供にとどまったり、そもそも積極的に関与しようとしなかったりする可能性さえあります。
結果として、メインバンクが明確でない会社は、自社の成長につながるかもしれない貴重な情報や機会を、知らず知らずのうちに逃してしまっているわけです。銀行に対して、「おカネを借りるだけの相手」と考えている社長ほど、気をつけなければいけません。
まとめ
メインバンクがない、あるいは明確でない会社には、「いざというときに支援を受けにくい、条面で不利になりやすい、本業支援を得にくい」といった無視できない問題点があります。
銀行がメインバンクとしての関わりを重視する傾向は、今後ますます強まっていくと考えられるため、さらに注意が必要です。
「どこの銀行とも平等に付き合う」という考え方も一理ありますが、これからの時代は、自社にとってのメインバンクを明確に定めて、意識的にその銀行との関係性を深めていくことが、会社の安定と成長のためにはより重要になるものと考えます。
自社にメインバンクはありますか?メインバンクとして機能していますか?見直してみましょう。