3,000万円貯めるのも3,000万円借りるのも同じ

3,000万円貯めるのも3,000万円借りるのも同じ

3,000万円のおカネを貯めるのも借りるのも、結果は同じになる。と言ったら不思議におもわれるでしょうか?実は結果は同じであり、だったらいま借りたほうがいい、というお話をします。

目次

3,000万円貯めるか借りるか?

会社のおカネを増やして、体力をつけたい。社長であれば常に考えているテーマでしょう。選択肢は大きく2つあります。

まずは、毎期の利益をコツコツと積み上げていく道。時間をかけて、着実に内部留保を厚くしていく、堅実な進めかたです。 もうひとつは、銀行から融資を受けて、それを活用しながら計画的に返済していく道。借入をテコにして、事業を成長させる進めかたです。

これに関して、具体的に「A社:3年間で3,000万円の利益を積み上げる」ケースと、「B社:いますぐ銀行から3,000万円を借りて、3年間で返済していく」ケースを比較してみます。

「いやいや、借金したら結果はぜんぜん違うだろう!」と、おもわれるかもしれません。ですが、仮に「3年後の決算書」というゴール地点で見た場合、2つの道は、驚くほど「同じ結果」になっている可能性があるのです。

ただし、そこにいたるまでの道のり、とくにスタート時点で「自由に使えるおカネの量」はまったく異なります。この違いこそが、会社の未来を左右する重要なポイントです。

本記事ではこのあと、「どうせ3年後の結果が同じなら、いま借りたほうがいい」という、ややもすると乱暴にも聞こえるかもしれない結論とその根拠について、解説していきます。話の内容は以下のとおりです。

  • 3年後の貸借対照表は同じ
  • スタート時のおカネの価値
  • 支払利息が持つ本当の意味
  • 同じ結果ならばいま借りる

【ポイント1】3年後の貸借対照表は同じ

「借金したら、その分だけ損するんじゃないの?」と考えるのは当然です。しかし、決算書(貸借対照表)という視点で見ると、少し違う景色が見えてきます。2つの会社(A社とB社)を比べてみましょう。

ここでは話をシンプルにするため、一旦「利息」のことは忘れます。スタート時の手元資金は1,000万円、3年間で純資産を3,000万円増やしたい会社(年間利益1,000万円)という前提です。

A社:3年で利益を積み上げ

スタート時の手元資金は1,000万円。銀行からは借りずに、毎期1,000万円の税引後利益を出して、それをコツコツと3年間、会社に貯めていきます。

すると、3年後の利益剰余金は 3,000万円 増加します(1,000万円×3年)。同時に、手元の現金預金も 3,000万円 増えて、スタート時の1,000万円と合わせて合計 4,000万円 になっているはずです。借入金はもちろんゼロ。純資産は3,000万円の増加となります。

B社:借入3,000万・3年返済

スタート時の手元資金は同じく1,000万円。そのうえで、銀行から3,000万円を借ります(返済期間3年)。A社と同じく毎期1,000万円の税引後利益を出して、その利益を主な返済原資としながら、3年間かけて借入金を返済していきます(いったん利息を無視します)。

B社の現金預金は、元々あった1,000万円に加えて、借入した3,000万円が合わさり、合計4,000万円になります。同時に、3,000万円の借入金が計上されます。すると、3年後はどうなるか?

3年間の利益(1,000万円×3年=3,000万円)で借入金3,000万円を完済します。結果、借入金はゼロです。利益剰余金は、利益が出た分3,000万円だけ積み上がり、純資産は3,000万円増加します。現金預金はスタート時の4,000万円のままです(いったん利息を無視すれば)。

結論

3年後の決算書(貸借対照表)は、A社もB社も「借入金ゼロ、利益剰余金(純資産)は3,000万円増加」という点がまったく同じになります。貸借対照表の右側(負債・純資産の部)は、同じ状態になるのです。

【ポイント2】スタート時のおカネの価値

3年後のゴール地点(純資産の額)は同じでも、スタート時点の手元資金はまったく違います(A社: 1,000万円 vs B社: 4,000万円)。この「3,000万円の違い」こそが、会社の未来を左右する違いを生むのです。

守りの力:不測の事態への備え

手元に4,000万円あれば、予期せぬ危機(新型コロナ、取引先の倒産、自然災害など)が起きても、会社は持ちこたえられる可能性が高まります。事業を継続し、社員の雇用を守り、状況を立て直すための貴重な時間と体力を確保できるわけです。

3年間おカネを貯めるのを待っていては、そのあいだに危機が訪れた場合のリスクに対応できません。手元のおカネは会社の生命線であり、防波堤なのです。

攻めの力:成長の機会獲得

手元に4,000万円あれば、目の前に現れる絶好のチャンスを逃さずにつかむことができます。有利な条件での設備投資、競合他社の買収、有望な新規事業への参入など。3年後におカネが貯まるのを待っていては、そのチャンスはもう他社に奪われているかもしれません。

スピードが勝敗を分ける時代において、「いますぐ動ける」ことは強力な武器となりえます。

【ポイント3】支払利息が持つ本当の意味

ではここで、ポイント1ではいったん無視した「利息」について考えましょう。当然ですが、B社では銀行に利息を支払う必要があります。

仮に3,000万円を金利2%、返済期間3年(元金均等返済)で借りたとすると、3年間で支払う利息の合計額はおよそ93万円になります。

ただし、この支払利息は会社の経費になるため、その分だけ法人税が安くなる節税効果も期待できます。税率を30%とすれば、約28万円(93万円×30%)の税金が減りますから、実質的な会社の負担額は、3年間合計で約65万円(93万円-28万円)ということになります。

では、このコストをどう評価すべきでしょうか?

単純に「余計なコスト」と切り捨てるのではなく、「不測の事態への備え(守りの力)と、成長の機会(攻めの力)を手に入れるための保険料」と捉えることはできるはずです。

平均すれば年20万円のコストで、「いますぐ使える3,000万円のおカネ」を得られるなら、それは十分検討に値する、合理的な選択肢と言えるのではないでしょうか?

まとめ:同じ結果ならばいま借りる

ここまで見てきたとおり、「3年かけて利益を積み上げる」ことと「いますぐ3,000万円を借りて3年で返す」ことは、3年後の決算書という結果だけを見れば、純資産の増加額という点では同じものになります。

しかし、その道程における手元資金の差は明確であって、その差がもたらす「守り」と「攻め」の力の差は、会社の未来を大きく左右する可能性があります。不確実性が高まるこれからの時代にあっては、手元資金の厚みが持つ意味は、ますます大きくなっていくでしょう。

もちろん、すべての会社にとって借入がベストだなどと言うつもりはありません。すでに手元資金が十分にあり、業績も極めて安定している、あるいは無借金経営を貫くという覚悟がある会社まで、無理に借入を勧めるものではありません。

しかし、多くの中小企業にとって、未来が不確実である3年間という時間を、手元資金が少ない状態でヒヤヒヤしながら過ごすよりも、計算可能なコスト(利息)を支払ってでも「いま十分なおカネを持つ」ことのほうが、会社の生存確率と成長可能性を高めるうえで有利な選択だと僕ならば考えます。

どうせ3年後の結果が同じなのであれば、その過程における会社の安全性と柔軟性を高めるために、「いま借りる」という選択肢も検討してみましょう。

銀行融資を、単なる「借金」としてネガティブに捉えるのではなく、自社の未来をより良く、よりたしかにするための戦略的な選択肢として、冷静に検討することをおすすめします。

この記事を書いた人

1975年生まれ、横浜在住。税理士、発信者、習慣家。2016年に独立以来、きょうまでブログは毎日更新中。近年は、銀行融資支援を得意な仕事にしている。借りれるうちに借りれるだけ借りよ、が口グセ
現在は1日1万歩以上、ひと月150kmほど走る。趣味は、コーヒーとサウナ、読書、散歩、アニメ。スタバでMacがマジカッコいい!と思い続けてる
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