「貸借対照表をスマートに」とはどういうことか?

「貸借対照表をスマートに」とはどういうことか?

貸借対照表をスマートにしよう、というアドバイスがあります。しかし、それは具体的にどういう状態をいうのか?スマートな貸借対照表を実現するための3つのポイントをお伝えします。

貸借対照表をスマートに、とは?

「貸借対照表は、スマートにしたほうがいい」

決算書について話していると、ときにこんなアドバイスを受けることがあるかもしれません。あるいは、銀行の担当者との面談で、それとなく同じようなことをを伝えられた経験がある社長もいらっしゃるかもしれません。

では、「スマートな貸借対照表」とは、具体的にどのような状態のことを指すのかイメージできるでしょうか?

損益計算書と比べると、貸借対照表はどうしても「わかりにくい」「とっつきにくい」と感じられることが多いものです。ですが、損益計算書で利益がどれだけ出ていても、貸借対照表が不健康な状態…たとえば、不要なものがたくさん載っていたり、実態とかけ離れた数字になっていたりすると、その決算書はけして良いとは言えません。

銀行も融資審査において、会社の「体力」や「安全性」を見極めるために、貸借対照表の内容を注意深く見ています。だからこそ、社長は自社の貸借対照表を「スマート」な状態に保つことを、もっと意識する必要があるのです。

とはいえ、多くの貸借対照表には、日々のなかで知らず知らずのうちに、さまざまな「贅肉」や「不純物」が溜まってしまっていたりもします。

そこで今回は、「スマートな貸借対照表」とは具体的にどういうものなのか?そして、そうなるために社長が取り組むべき3つのポイントについて、解説していきます。ポイントは以下のとおりです。

  • 仮払金や貸付金等を放置しない
  • 利益を生まない資産を買わない
  • 不良債権や不良在庫を整理する

スマートな貸借対照表の3ポイント

銀行からも評価されて、会社の財務体質を強くする「スマートな貸借対照表」にするために、具体的に何をすべきか? 3つのポイントを見ていきましょう。

仮払金や貸付金等を放置しない

貸借対照表を見たときに、「仮払金」「立替金」「前渡金」、あるいは「社長への貸付金」といった勘定科目(いわゆる雑勘定)が、長期間にわたり多額が残ったままになっていませんか?

それらの雑勘定は、銀行から見ると「要注意科目」です。なぜなら、その中身が不透明であることが多く、「使途がはっきりしない、回収できるか疑わしい、利益を良く見せるための操作(粉飾)に使われている可能性が疑われる」からです。

銀行は、それらの資産価値を低く見積もる(あるいはゼロと評価する)ため、結果的に会社の評価は下がり、融資審査にも悪影響が出ます。また、社長自身も会社の本当の財産状況を見誤る原因になります。

では、どうするか?

まずは、安易にそれらの勘定科目を使わない経理を目指しましょう。たとえば、仮払いを原則禁止にし、経費は立替精算にする。社長への貸付は極力行わない、などです。

それでも発生してしまった場合は、放置せずに速やかに精算することが鉄則です。とくに仮払金などは、決算までに必ず内容を確定させて、適切な勘定科目に振り替えます。回収不能な貸付金などは、損失処理も検討すべきです(税理士と要相談)。

やむを得ず決算書に残る場合でも、その内容(相手先、発生理由、回収予定など)を「勘定科目内訳明細書」に具体的に記載して、銀行にきちんと説明できるようにしておくことが重要です。透明性を高めることが信頼につながります。

利益を生まない資産を買わない

会社の収益力や事業規模から見て、明らかに分不相応な高額すぎる社長車や、性能を持て余しているオーバースペックな機械設備、あるいは、ほとんど活用されずに眠っている遊休不動産などを保有していませんか?

それらの「利益を生まない資産」は、まさに貸借対照表についた「贅肉」です。本来ならば、事業の成長や運転資金に回すべき貴重な「おカネ」が、利益を生み出さないモノに形を変えて、長期間固定化されてしまいます。資金繰りが悪くなる要因です。

また銀行は、そうした資産の存在から、社長の公私混同や浪費グセ、あるいは経営判断能力そのものを疑います。「この会社におカネを貸しても、ムダ使いに使われるのではないか?」と思われれば、融資は受けにくくなります。

さらに、クルマや不動産、機械などは、持っているだけで税金(固定資産税、自動車税など)、保険料、修繕費、減価償却費といった維持コストがかかり続けます。

では、どうするか?

あらたに資産を購入する際は、「それは本当に事業に必要なのか?」「会社の身の丈に合っているか?」「その投資はどれくらいの利益を生み出すのか?」といった点を厳しく自問自答して、慎重に判断することが必要です。具体的な「設備投資計画書」を作成して、客観的に評価しましょう。

すでに保有してしている「利益を生まない資産」があれば、思い切って売却や廃棄を検討しましょう。売却すれば、固定化されていた資金が戻ってきますし、将来にわたり発生し続ける維持コストを削減できます。貸借対照表のスリム化は、キャッシュフロー改善にも直結するのです。

不良債権や不良在庫を整理する

回収できる見込みがほとんどない不良債権(長期未回収の売掛金など)や、流行遅れや劣化などで売れる見込みのない不良在庫が、いつまでも貸借対照表に「資産」として計上されたままになっていませんか?
それらは、もはや資産としての価値を失っているにも関わらず、帳簿上にだけ存在している「見せかけの資産」です。

帳簿上の資産額と、実際の価値(現金化できる額)が大きく乖離している状態は、会社の財務状況を著しく歪めてしまいます。悪意がなくとも、実質的には粉飾決算と同じ状態であって、決算書の信頼性を損なうのも問題です。

銀行は、そうした不良資産の存在を非常に嫌います。決算書分析や実地調査などを通じて不良資産の存在を把握した場合、その価値をゼロとして評価することもあるのです。結果、純資産が目減りして、債務超過になることもあります。当然、融資審査には悪影響です。

また、決算書に不良資産が含まれたまま、実態と異なる数字に基づいて社長が経営判断を行えば、リスクの高い投資や無謀な事業拡大など、誤った意思決定につながる危険性があります。

では、どうするか?

決算時だけではなく、日ごろから売掛金の回収状況(滞留期間)や在庫の状況(滞留期間、品質)をチェックする仕組みをつくり、早期に問題を発見することが大切です。

回収不能と判断した売掛金は、速やかに貸倒損失として処理します。売れない在庫も、潔く評価損を計上するか、廃棄損として帳簿から取り除きます。税務上の損金算入が認められるかどうかに関わらず、会計上は実態に合わせて損失を確定させることが、貸借対照表をスマートにするコツです(税理士に要相談)。

なお、損失処理を行ったときには、その事実と理由、そして再発防止策などを銀行にきちんと説明しましょう。一時的に利益が落ち込んでも、問題を認識して、改善に取り組む姿勢を示すことで、かえって銀行からの信頼につながることもあります。

まとめ

「スマートな貸借対照表」とは、単に数字がきれいな貸借対照表という意味ではありません。

雑勘定がなく、利益を生まない資産がなく、不良資産もなく、会社の実態が正しく反映された状態の貸借対照表を指します。

貸借対照表をスマートにすることは、見栄えの問題だけでなく、銀行からの評価を高め、融資を有利に進めるうえでとても重要です。スマートな貸借対照表は、銀行に対する会社の信頼の証となります。

またそれ以上に、社長自身が会社の本当の財務状況、本当の体力を正確に把握して、的確な経営判断をできるようにするためにも、スマートな貸借対照表は不可欠となります。

ぜひ、定期的に自社の貸借対照表をチェックして、常にスマートな状態を目指しましょう。

この記事を書いた人

1975年生まれ、横浜在住。税理士、発信者、習慣家。2016年に独立以来、きょうまでブログは毎日更新中。近年は、銀行融資支援を得意な仕事にしている。借りれるうちに借りれるだけ借りよ、が口グセ
現在は1日1万歩以上、ひと月150kmほど走る。趣味は、コーヒーとサウナ、読書、散歩、アニメ。スタバでMacがマジカッコいい!と思い続けてる
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