借入がこわい社長へ。「まだ大丈夫」が一番あぶない理由

借入がこわい社長へ。「まだ大丈夫」が一番あぶない理由

おカネは「必要になってから」では遅い場面がありえます。「借金=悪」のアタマを切り替え、平時に手元資金を厚くする考え方と、インフレ時代に合った銀行選びの具体策をまとめました。

「借金はできるだけしたくない」
「いまは手元にあるから大丈夫」

そうおもう社長は少なくありません。ですが正直なところ、キャッシュが切れてから真っ青な顔で相談に来られても、僕にできることは「一緒に謝りに行く」くらいです。

しんと冷えた銀行の応接室で、あの重たい空気を吸い込むハメになる前に、知っておいてほしいことがあります。

おカネは「必要になってから」では遅い場面がありえます。「借金=悪」のアタマを切り替え、平時に「安心チケット」を積む考え方と、インフレ時代に合った銀行選びの具体策をまとめました。

10秒で刺す要点(3つ)

  • おカネは「必要になってから」では遅い。晴れの日に傘を借りておくのが防衛の基本
  • インフレ局面では、借金は返すものではなく会社の成長で「薄める」ものになりうる
  • ギリギリの相談ほど選択肢が消える。平時の備えが生存確率を上げる
目次

なぜ「まだ大丈夫」と思う社長ほど動けなくなるのか

「いまは手元におカネがあるから、まだ借りなくていい」

この判断じたいは、間違いとはいえません。いま手元にあるなら、たしかに「いま」は大丈夫です。ただ、「いま大丈夫」がいつのまにか「ずっと大丈夫」にすり替わる瞬間がある。そこが落とし穴です。

おカネが減る速度は、一定ではない

月末の支払いを終えても、通帳にまだ余裕がある。来月も大丈夫だろう。再来月も、たぶん。

ですが、取引先の入金がひとつ遅れる。設備が壊れる。税金の納付時期が重なる。こうした「想定外」が束になると、手元資金はある日を境に、急な坂を転がるように減りはじめます。

そして坂の下が見えたときには、銀行はもう傘(融資)を差し出しにくい。キャッシュが薄い会社に融資をすれば銀行側もリスクを背負うわけで、これは意地悪ではなく構造の問題です。

リスケ(返済条件の変更)ですら、早い段階で相談すれば再建の道筋は立ちやすいのに、ギリギリまで粘ったあとでは打てる手が激減する傾向があります。

「慎重」と「先送り」は、傍からは同じに見える

「いま借りなくていい理由」を探しているうちは、たぶん一生借りにいけません。

耳が痛いかもしれませんが、それはしかたない。「慎重に検討している」も「決断を先送りしている」も、会社のキャッシュから見れば同じこと。どちらを選んでも、手元のおカネは毎月静かに減っていきます。

いっぽうで、まだ余裕があるうちに「借りておく」を選ぶと、景色が変わります。

通帳に1,000万円が振り込まれた朝、画面の数字をじっと見つめて、ふっと肩の力が抜けた——という社長の話を、僕は何度も聞いてきました。帳簿上はたしかに「負債」が1行増える。ですが社長のアタマのなかでは、 「あと半年は社員の給料を遅延なく払える」 という安心に変わる。この感覚の差こそが、数字だけでは見えない「社長の判断力」の土台になりうるのです。

恐れること自体は正常です。ですが、恐れたまま止まり続けるのは、慎重とは少し違うのかもしれません。晴れているうちに傘を借りておく。それが、借入を恐れる社長こそ取りうる、いちばん合理的な生存戦略だと僕はおもっています。

借金=悪、という常識をアップデートする

かつてのデフレ時代、おカネの価値は放っておいても上がっていきました。そんなときは、借金はたしかに「重たい足かせ」でしかありません。

ですが、いまはインフレ局面です。モノの値段が上がり、おカネの価値が相対的に下がる時代。この環境下では、借金の実質的な重みは、時間の経過とともに「薄まって」いくという側面があります。

借金は「返して減らす」から「薄めて小さくする」へ

物価が年2%上がる環境が10年続けば、借金の実質負担は約2割軽くなる計算です(あくまで概算ですが)。

借金は、真面目にコツコツ返してゼロにすることだけが正解ではありません。 「会社の成長によって、相対的に小さくしていくもの」 へと、性質が変わったとおもうのです。

利息は「倒産防止」の保険料

「でも、利息を払うのがもったいない」

そう感じる社長もいらっしゃるとおもいます。たしかに、1円も払いたくないのが本音ですよね。ですが、その利息を「倒産を防ぐための保険料」だと捉え直してみるのはどうでしょうか。

通帳に潤沢なキャッシュがある。その安心感のおかげで、社長は目先の資金繰りにアタマを悩ませることなく、本業の攻めに集中できる。

左側に「現預金 1,000万」という数字があるだけで、夜ぐっすり眠れる。この 「社長のアタマの余白」 を買うためのコストだと考えれば、利息はけして高い買い物ではないはずです。

もちろん、金利や審査の条件は銀行によって異なりますし、最新の情勢は公式な情報を確認する必要があります。

ですが、借金を「悪」と決めつけて遠ざけるのではなく、会社の生存確率を上げるための「武器」として使いこなす。そんな視点のアップデートが、いまの社長には求められているのかもしれません。

ギリギリまで粘るほど選択肢が消えていく現実

「まだなんとか回っているから、銀行に相談するのはもう少し先にしよう」

その責任感の強さは、社長として素晴らしい資質です。ですが、資金繰りに関しては、その「粘り」が裏目に出てしまうことが少なくありません。

銀行は「倒れそうな人」には傘を貸せない

銀行員もまた「預金者から預かった大切なおカネを守る」というルールで動いています。キャッシュが底をつき、明日の支払いも危うい。そんな「土砂降りの状態」で駆け込まれても、銀行員としては助けたくても助けにくいのが現実です。

事実、キャッシュが完全に切れてからでは、追加の融資を受けるのは極めて困難になります。

リスケは「おわり」ではなく「立て直し」の手段

もうひとつ、多くの社長が誤解しているのが「リスケ(返済条件の変更)」です。

「リスケをしたら、もう二度とおカネを借りられなくなる」と思い込んで、ギリギリまで隠し通そうとする社長がいらっしゃいますが、必ずしもそうとはいえません。

むしろ、キャッシュが残っているうちに早めにリスケを相談することは、会社を立て直すための 「前向きで合理的な戦略」 です。返済を一時的に止めて、そのあいだに貸借対照表(B/S)の「贅肉」を落とす。不要な資産を整理し、筋肉質な経営に戻す。

そうやって早期に手を打つことで、銀行側も「この社長は実態を正直に報告し、再建の意思がある」と判断しやすくなります。

たとえば、半年後に資金が尽きるとわかっているなら、いま動くべきです。

いまなら「追加融資」という選択肢があるかもしれない。それがダメでも「リスケ」で手元資金を守れるかもしれない。ですが、あと1か月で底を突くというタイミングでは、もう「倒産」か「私財の投入」くらいしか道が残されていない…なんてことになりかねません。

ギリギリまで粘って真っ白な灰になるまで戦うのは、アニメや小説の世界だけで十分です。現実の経営では、 「まだ大丈夫なうちに、最悪の事態を想定して動く」 ことこそが、社長にしかできない最大の危機回避なのです。

見栄のメインバンクを捨てて「実利」を取る

「メインバンクはメガバンクです」

そう言えると、なんだか会社が立派になったような気がしますよね。ステータスや見栄えも、経営を続けるうえでのモチベーションになることがありますから。

ですが、もし社長が年商10億円未満の規模で、かつ「いざという時に支えてほしい」と願っているなら、その選択は少し考え直したほうがいいかもしれません。

メガバンクの主戦場は、そこではない

厳しいことを言うようですが、メガバンクにとって小規模な事業主への融資は、主戦場ではなくなりつつあるという側面があります。

いっぽうで、地元の地方銀行や信用金庫はどうでしょう。

彼らの役割は、地域経済を支えること。つまり、商売の中身をしっかり見て、 「事業性評価」 で判断しようとしてくれる土壌があります。本当に信用を落とすのは、見栄えの良い銀行を抱えることではなく、資金繰りをショートさせて会社を潰すことです。

ならば、僕たちが選ぶべきは、じぶんの会社の「ファン」になってくれる担当者がいる場所。つまり、実利を取るための地域金融機関です。

「二刀流」でリスクを分散する

とはいえ、「地元の銀行は手続きが面倒だし、平日に窓口へ行く時間がない」という悩みもあるはずです。

そこで僕がおすすめしているのが、 「リアル銀行とネット銀行の二刀流」 です。

たとえば、日々の振り込みや小口の融資相談は、オンラインで完結するネット銀行を活用する。そのうえで、腰を据えた大きな融資や、長期的な信頼関係が必要な場面では、地元の銀行を頼る。

窓口を複数持っておけば、それがそのまま経営のリスク管理になるのです。見栄という「贅肉」を落とし、 「いざという時に本当に動いてくれるのはどこか」 という視点で窓口を選び直す。それが、賢い社長が取るべき実利の戦略だと僕はおもっています。

次の一手:平時に「安心チケット」を積む手順

3つのステップがあります。

1)貸借対照表(B/S)の「贅肉」を落とす

まずは、じぶんの会社の健康診断からです。

おカネを借りるのが「守り」なら、不要な資産を持たないのは「攻め」の姿勢。貸借対照表(B/S)のなかに、何年も動いていない在庫や、使っていない高級車、回収の見込みがない貸付金などはありませんか。

こうした「贅肉」を整理して、筋肉質な中身に整える。それだけで、銀行員が決算書を見たときの印象はガラリと変わりうるのです。 「この社長は数字に明るく、整理整頓ができている」 という信頼のトリガーを、自らつくりにいくわけです。

2)窓口を2レーンに分けておく

次に、相談先の確保です。

先ほどもお伝えしたとおり、地元の銀行(地銀・信金)をメインに据えつつ、ネット銀行をサブで持っておく。窓口を複数持っておけば、それがそのまま経営のリスク管理になるのです。

3)ズレを恐れず「いまの姿」を正直に報告する

さいごにして、もっとも大切なのが「継続的な報告」です。

銀行員がもっとも嫌うのは、数字が悪いことではなく、数字が「わからない」ことです。決算のときだけ慌てて資料を持っていくのではなく、試算表ができたら定期的に共有する。

たとえ計画より数字が落ち込んでいても、それを正直に伝え、 「いま、こういう対策を打っています」 と自分の言葉で語る。その誠実な習慣こそが、数字以上に評価される「定性評価」の貯金になります。

この3つの手順を踏んでおけば、いざという時に「おカネがなくて動けない」という事態は避けられるはずです。「安心チケット」は、待っていても届きません。晴れているきょうこそ、最初の一歩を踏み出してみませんか。

まとめ

「借金はできるだけしたくない」

その真っ当な感覚は、大切にしてください。ですが、その慎重さが原因で、守れるはずの会社を危険にさらしてしまうのは、あまりにももったいないとおもうのです。

今回のポイントを3つにまとめます。

  • おカネは「必要になってから」では遅い:平時の備えが、いちばんの防衛になりえます。晴れているうちに借りて、手元に置いておくのが、正しい財務戦略です。
  • 借金は「安心チケット」になる:通帳の数字は、ただの負債ではありません。社長が夜ぐっすり眠り、本業に集中するためのコスト(保険料)だと捉え直してみましょう。
  • ギリギリの相談は選択肢を奪う:キャッシュが切れてからでは、銀行も助けようがありません。早期に動き、正直に報告を続けることが、会社を救うことにつながりうるのです。

(※もちろん、借入には利息がかかりますし、最新の金利情勢や審査基準は公式な情報を確認する必要があります)

最初の1歩

まずは、アタマのなかにある不安を「見える化」することから始めてみませんか。

  • 直近3か月の入出金をざっくり書き出してみる
  • 貸借対照表(B/S)を眺めて、動いていない資産がないか探す
  • 候補の銀行に電話して、融資相談の予約を入れる
  • 銀行への「現状報告メモ」を、箇条書きで1枚つくってみる

「まだ大丈夫」とおもういまこそ、動くチャンスです。

もし、銀行との付き合い方で迷うことがあれば、個別相談という選択肢もあります。よかったらのぞいてみてください。社長が資金繰りの悩みから解放され、本来の仕事に集中できる環境をつくる。そのお手伝いができればとおもっています。

融資・財務戦略の設計について、じっくり相談したい方はこちらから。

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この記事を書いた人

1975年生まれ、横浜在住。税理士、発信者、習慣家。2016年に独立以来、きょうまでブログは毎日更新中。近年は、銀行融資支援を得意な仕事にしている。借りれるうちに借りれるだけ借りよ、が口グセ
現在は1日1万歩以上、ひと月150kmほど走る。趣味は、コーヒーとサウナ、読書、散歩、アニメ。スタバでMacがマジカッコいい!と思い続けてる
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