「借金が多くて銀行の目が怖い…」そう悩む社長は多いですが、実は銀行が最も嫌うのは「借りすぎ」ではありません。絶対に手を出してはいけない禁断の果実、「粉飾決算」の恐怖と、それが会社にもたらす破滅的な結末について解説します。
「借入が多い=悪い会社」だと思い込んでいませんか?
「銀行からの借入が増えてきて、肩身が狭い…」
「決算書を見せるのが怖い。銀行員になんて思われるか…」
真面目な社長ほど、「借金=悪」という意識が強く、借入金が多いことに負い目を感じてしまいがちです。しかし、はっきり言わせていただきます。
銀行は、借金が多いこと自体で会社を「悪い」とは評価していません。
彼らが最も恐れ、そして絶対に許さないのは「借りすぎ」ではありません。決算書を偽る行為、すなわち「粉飾決算」だと言ってよいでしょう。
なぜ、借りすぎよりも粉飾が圧倒的に悪なのか。その理由を、銀行の視点と経営の実態からお伝えします。
賢い社長は知っている。「借りすぎ」がそこまで問題ではない理由
まず、誤解を解いておきましょう。なぜ銀行にとって「借りすぎ」は、そこまで致命的な問題ではないのでしょうか。理由は大きく2つあります。
借入は「信頼の証」でもある
そもそも、銀行がおカネを貸すのは「この会社なら返してくれる」と信用しているからです。
もし、あなたの会社が多額の借入ができているなら、それは銀行があなたの会社の返済能力や事業の将来性を認めているという、強力な「信頼の証」でもあります。
特に、担保や保証協会に頼らない「無担保・プロパー融資」での借入が多いのであれば、それはむしろ銀行から高く評価されている優良企業の証拠です。借金の多さを恥じる必要はありません。
「返せている」なら問題ない
銀行が最も重視するのは、借入の「総額」ではありません。「本業の儲け(キャッシュフロー)できちんと返済できているか」という返済能力です。
極端な話、借金が10億円あったとしても、毎年1億円の利益が出ていて、約束通りに返済ができていれば、銀行にとっては「優良顧客」です。
逆に、借金が少なくても、赤字続きで返済が滞りがちなら、そちらのほうがよほど問題視されます。重要なのは借金の額ではなく、返済能力とのバランスなのです。
なぜ「粉飾」が会社を破滅させるのか?4つの恐怖
では、なぜ「粉飾決算」は絶対にやってはいけないのでしょうか。ひとたび手を染めれば、会社を破滅へと導く4つの恐怖が待ち受けているからです。
恐怖①:社長自身が自社の「真の姿」を見失う
粉飾の最大の弊害は、これかもしれません。
利益をよく見せるために売上を架空計上したり、費用を隠したりすると、社長の頭の中には「銀行に見せるニセモノの数字」と「本当の数字(裏帳簿)」の二つが存在することになります。
この状態が続くと、やがてどちらが本当の姿なのか、社長自身も感覚がマヒして分からなくなります。
経営判断の羅針盤である数字が狂えば、正しいかじ取りなど不可能です。会社は誤った方向に進み続け、気づいたときには手遅れの状態に陥ってしまいます。
恐怖②:銀行の信頼を一瞬で失う「裏切り行為」
銀行取引の根幹は「信頼」です。銀行は、会社から提出された決算書が「正しい」という前提で審査を行い、融資を実行します。
決算書は、会社と銀行を結ぶ最も重要な信頼の証です。それを偽ることは、銀行に対する最大の「裏切り行為」とみなされます。
たとえ小さな粉飾であっても、いちどでも発覚すれば、長年かけて築き上げてきた信頼関係は一瞬で崩壊します。いちど失った信頼を取り戻すのは、至難の業です。
恐怖③:いちど手を染めると抜け出せない「麻薬」
粉飾は、いちど始めるとやめられなくなります。
「今期だけ赤字を隠したい」「少しだけ利益を上乗せしよう」という軽い気持ちで始めたとしても、翌期には、そのウソのつじつまを合わせるために、さらに大きなウソをつかなければならなくなります。
まるで麻薬のように、粉飾の規模は年々、雪だるま式に膨れ上がっていきます。引き返せないところまで来て初めて、事の重大さに気づく社長が後を絶ちません。
恐怖④:発覚時のペナルティが甚大すぎる(一括返済・損害賠償)
そして、粉飾がバレた時のペナルティは壊滅的です。
まず、新規融資は間違いなくストップします。それだけでなく、最悪の場合、銀行との契約違反として「期限の利益」を喪失し、既存の借入金すべての「一括返済」を求められます。そうなれば、会社はひとたまりもありません。事実上の倒産宣告です。
さらに、悪質なケースでは、銀行を騙しておカネを借りたとして「詐欺罪」で告訴されたり、銀行が被った損害について「損害賠償」を請求されたりする可能性もあります。会社だけでなく、社長個人の人生も破滅しかねません。
まとめ
苦しい時こそ、正直であることが最大の防御になります。
- 借金が多くても、きちんと理由を説明し、返済計画を示せば銀行は支援してくれる
- 粉飾は、会社の羅針盤を狂わせ、銀行の信頼を破壊する自殺行為
- 赤字を隠すための粉飾より、赤字のまま正直に相談するほうが100倍マシ
目先の評価を気にして「ニセモノの決算書」を作るのではなく、ありのままの数字で銀行と向き合うこと。それこそが、会社を守り、長く繁栄させるための唯一の道です。

