自社が目指すべき財務指標の目安がわからない…というのなら、「財務要件型無保証人保証」を参考にするのがおすすめです。その理由と、具体的な目安についてお話をしていきます。
目指そう、財務要件型無保証人保証
自社が目指すべき財務指標の目安がわからない…というのなら。結論として、「財務要件型無保証人保証」を参考にするのがおすすめです。
もう少していねいに言うと、そもそも財務指標と呼ばれるものはいろいろあります。売上高〇〇利益率とか、自己資本比率とか、流動比率とか。いろいろありすぎて、まずどの指標を見ればいいのかで迷ってしまうことはあるでしょう。また、見るべき指標があったとしても、どれくらいの値が妥当なのかで悩んでしまうこともあるでしょう。
そういう意味で、財務指標はイマイチ扱いづらいものでもあります。この点、「財務要件型無保証人保証」を参考にするのはどうですか?という提案が、今回のお話です。
ちなみに「財務要件型無保証人保証」とは、信用保証協会の保証制度のひとつです。その名のとおり、一定の財務要件を満たした場合に、経営者保証(社長の連帯保証)無しで保証付き融資が受けられます。
「だから、財務要件型無保証人保証の制度を利用しましょう」というのが、お話の趣旨ではありません。お伝えしたいのは、「制度を利用するかどうかにかかわらず、定められている財務要件を目指してみましょう」ということです。
財務要件型無保証人保証の財務要件を満たしているとはすなわち、「金融機関が経営者保証を無しにできるくらい(=金融機関がリスクをとれるくらい)、良い会社」であることを意味します。だとすれば、会社が見るべき指標・目指すべき値として役立つはずです。
実際に要件を満たせるようになれば、財務要件型無保証人保証の制度に限らず、ほかの融資を受けるにあたっても(保証協会付きに限らず、プロパー融資でも)、よりよい条件を引き出せる可能性が高まります。
では、その財務要件型無保証人保証が定める財務要件とは、具体的にどのようなものなのか?このあと順番に確認していきましょう。
財務要件型無保証人保証の財務要件
財務要件型無保証人保証では、純資産額の大きさによって財務要件の値が異なります。ここでは、多くの会社があてはまるであろう「純資産額が5,000万円以上3億円未満」の財務要件をとり上げます。
(※ 純資産額が3億円以上の要件は、各信用保証協会の案内を確認しましょう)
なお、財務要件型無保証人保証では、純資産額が5,000万円未満だと利用対象者に該当しません。言い換えると、「良い会社」になるためには、純資産額は最低でも5,000万円はあったほうがいいということです。
その純資産額は、決算書のうち「貸借対照表」から、「純資産の部」の合計額にあたります。「自己資本」とも呼ばれるものであり、おもに「資本金」と「利益剰余金」で構成されています。
以上をふまえて、その他の財務要件を確認していきましょう。
自己資本比率 20%以上
自己資本比率とは、算式であらわすと「純資産額÷(純資産額+負債額)×100」です。このうち「純資産額+負債額」は、金額としては「資産の部の合計額」と同じです。
ただし、指標の意味合いとしては「総資本(資金調達した総額)」のうち「自己資本(返済義務がないおカネ)」の割合であり、その割合が高いほど財務の安全性が高いことになります。
さきほど、純資産は「資本金」と「利益剰余金」とで構成されていると言いました。資本金とは、株主からの出資であり、返済義務はありません。利益剰余金とは、過去の税引後利益の累計額(内部留保)であり、やはり返済義務はありません。
では、その自己資本比率がどれくらい高ければよいのかというと、財務要件型無保証人保証では20%とされているわけです。よって、会社は「自己資本比率 20%以上」を目指すとよいでしょう。
ただし、高いほうがよいからといって、やみくもに自己資本比率の向上にこだわることはおすすめできません。「やみくもに」とは、過度に借入を避けたり、繰上返済をしたりすることです。たしかに自己資本比率は上がります。しかし、これにより手元の預金が減ってしまうと、支払い余力が小さくなり、金融機関から「資金繰りに不安のある会社」と見られることもあるのです。
実際、自己資本比率がいくら高くても、預金がなくなれば倒産します。逆に、自己資本比率がいくら低くても、預金があれば倒産はしません。よって、自己資本比率は20%以上であれば、ひとまずOKなのであり、それ以降は自己資本比率よりも預金を増やすことをおすすめします。
詳しくは別記事で書きましたので、そちらも参考にどうぞ。
自己資本比率よりも重要な財務指標は
純資産倍率 2倍以上
純資産倍率とは、算式であらわすと「純資産額÷資本金」です。前述の自己資本比率と同じく、純資産額を分子としています。
自己資本比率が「総資本のうち自己資本がどれくらいあるか」であったのに対し、純資産額倍率は「資本金をもとに自己資本(純資産)をどれくらい増やせたか」の違いです。
財務要件型無保証人保証では、その純資産倍率は2倍以上を求めています。資本金が500万円の会社であれば、純資産が1,000万円以上あるかどうかです。赤字続きの会社などは純資産が増えず、これが満たせないことになります。
自己資本比率にしても純資産倍率にしても、純資産の大きさが大事なのであり、そのためには利益を出さなければならず、あらためて利益の大切さがわかるところです。だとすれば、目先の納税がイヤだからと、本当は出せるはずの利益を出し惜しんでいる場合ではありません。
なお、財務要件型無保証人保証の財務要件上は、「自己資本比率 20%以上」か「純資産倍率 2倍以上」のどちらかを満たせばよいことになっています。が、会社が財務改善を目指すのであれば、両方とも満たせるように取り組むのがよいでしょう。
使用総資本事業利益率 10%以上
使用総資本事業利益率とは、算式であらわすと「(営業利益+受取利息・受取配当金)÷総資産額×100」です。このうち「受取利息・受取配当金」はわずかだから無いものと考えれば、「営業利益÷総資産額」とシンプルになります。
この指標の意味合いとしては、「資産(資源)を使って、どれだけ効率的に利益を出せたか」です。言うなれば「経営のうまさ」を見る指標にあたります。
たとえば、同じ1,000万円の利益を出すにも、総資産1億円の会社もあれば、総資産2億円の会社もあるわけで、使用総資本事業利益率で測るなら前者のほうが優れていることになります。
具体的には、前者(総資産1億円)の使用総資本事業利益率は10%であり、後者(総資産1億円)の使用総資本事業利益率は5%です。そのうえで、財務要件型無保証人保証では10%以上を要件としています。
また、利益は「営業利益」を対象にしている点も注目です。つまり、特別利益を出すなどして最終利益を大きくしても、使用総資本事業利益率は上がりません。使用総資本事業利益率を上げるためには、本業の利益たる営業利益を増やさなければいけないということです。
最近では、物価高騰や人件費高騰などにより、多くの会社で利益が圧迫されています。ゆえに、使用総資本事業利益率の重要性も高まっているといえるでしょう。たとえば、コスト増加に見合う値上げができているのかどうかは、使用総資本事業利益率の高低にあらわれます。
インタレスト・カバレッジ・レーシオ 2倍以上
インタレスト・カバレッジ・レーシオ (略してインカバ)とは、算式であらわすと「(営業利益+受取利息・受取配当金)÷(支払利息+割引料)」です。このうち「受取利息・受取配当金」はわずかだから無いものとし、手形割引料もない会社であれば、「営業利益÷支払利息」とシンプルになります。
この指標の意味合いとしては、「本業の利益(営業利益)には、どれだけの利息支払い能力があるか」です。では、営業利益が100万円で、支払利息が200万円の会社だとしたらどうでしょう。インカバは「100万円÷200万円=0.5倍」です。というように、インカバが1未満の場合には、営業利益では借入利息を払いきれない(=経常利益が赤字になる)ことをあらわしています。
よって、インカバはどんなに低くても1倍以上は必須です。そのうえで、財務要件型無保証人保証では、2倍以上を求めています。利息支払い能力にそれくらいの余裕がなければ、良い会社とはいえないということです。
ここでもまた、営業利益を問われていることを理解しておきましょう。最近では、日銀の利上げもあって融資金利も上昇傾向です。今後もその傾向が続くのだとすれば、従来と同じ営業利益のままではインカバが下がってしまいます。この点からも、営業利益をいっそう増やす必要性があるわけです。
なお、財務要件型無保証人保証の財務要件上は、「使用総資本事業利益率 10%以上」か「インカバ 2倍以上」のどちらかを満たせばよいことになっています。が、やはり、会社が財務改善を目指すのであれば、両方とも満たせるように取り組むのがよいでしょう。
まとめ
「どんな財務指標を見ればよいのか」「どれくらいの値を目指せばよいのか」と悩んだときには、財務要件型無保証人保証の基準を参考にするのが有効です。そこに定められている値は、「経営者保証なしでも貸せる=金融機関から信頼される会社」の目安でもあります。
制度を利用するかどうかに関係なく、以下のような要件を満たせるように努めることが、財務体質の強化と、よりよい融資条件につながります。
- 自己資本比率 20%以上
- 純資産倍率 2倍以上
- 使用総資本事業利益率 10%以上
- インタレスト・カバレッジ・レーシオ 2倍以上
これらの要件はいずれも、「しっかり利益を出して、利益を蓄える」ことでクリアできます。会社の財務改善に取り組むにあたって、ぜひ「財務要件型無保証人保証」を、道しるべとして活用してみてください。