銀行融資に関する雑い言葉があります。その表現が批判をされたとしても、本質までは批判されるものでも否定されるものでもありません。そこで、雑い言葉の本質について解説します。
表現にとらわれて大事な本質を見逃す
会社の銀行融資に関して、「雑い」といえる言葉があります。言い換えるなら、「表現が乱暴であり、不適切だよね」ということになるでしょう。百聞は一見にしかず、具体例を挙げると次のとおりです。
- 借りたら返すな
- 借りれるだけ借りろ
- 融資を引っ張る
もっとも、僕自身、こういった言葉を使うことはあります。「借りれるときに借りれるだけ借りましょう」などは、僕がとくによくクチにするアドバイスです。
が、そういった言葉は、ちまたで批判をされることもありますし、僕も実際に批判を受けることがあります。言葉が雑いということであり、乱暴だし不適切だという批判です。
たしかに、表現としては雑なところがあるかもしれません。しかし、言葉が意味する「本質」までは批判されるものでも、否定されるものでもないでしょう。表現に問題はあるかもしれないけれど、言っていることの中身(本質)は間違っていない。そういうことです。
表現という表面にとらわれあまり、大事な本質までを見逃すことがないように。その本質とは何なのかについて、前述した3つの言葉を解説していきます。
銀行融資に関する雑い言葉とその本質
雑い言葉の表現を嫌い、その本質を見逃せば、結果として資金繰りが悪くなることがあります。本末転倒です。表現を重んじるのも大事なことですが、本質を理解してからでも遅くはありません。
借りたら返すな
銀行融資に関する雑い言葉、1つめは「借りたら返すな」です。借りたものを返さないなど不誠実だとして批判されます。言葉の表面としては、そのとおりでしょう。
ですが、いうまでもなく「借りたら返すな」は例えのようなものであり、本当に返さないわけではありません。さいごのさいごは返すことが大前提です。そのうえで、「事業を続けているうちは完済しない」という銀行対応を意味しています。
社長としては無借金がベストです。ゆえに、銀行借入はできるだけ早く完済したいと考えます。ところが、中小企業の多くは「いつか借入が必要になるかもしれない」のが現状です。だとすれば、銀行から借入しやすい状況をつくっておかねばなりません。
この点、完済することは銀行との関係を切ることであり、得策ではないのです。銀行から借入を続けることで(返済しつつ、借りることを繰り返す)、銀行との関係を維持することが、いざというときにも借入のしやすさにつながります。
銀行からの借入は、信用であり実績です。完済すれば、その信用も実績もリセットされます。また借入をするには、イチから出直しになるものと考えておきましょう。よって、「この先二度と借入することはない」といえるまでは、完済はしないことをおすすめします。
「借りたら返すな」の表現を嫌って、その本質を見逃さないようにしましょう。借りたものを返すのは大事なことですが、完済をしないことが会社を守ることにもなるのです。
借りれるだけ借りろ
銀行融資に関する雑い言葉、2つめは「借りれるだけ借りろ」です。返すアテもないのに借りるのは無計画だとして批判されます。それはそれで、そのとおりです。
しかし、「借りれるだけ借りろ」とは、返すアテもないのに借入して、そのおカネをジャンジャン使いなさいということではありません。本質は、手元資金の最大化にあります。
いうまでもなく、会社の生命線はおカネです。いくら売上があろうと利益があろうと、おカネが尽きたらおしまいです(黒字倒産という言葉もあるとおり)。よって、できるだけ多くのおカネを持つことが会社を守る手段になります。
この点、利益を出しておカネを増やすのが理想です。ところが、利益で増やせるおカネは限られるものであり、おカネを増やすのにも時間がかかりすぎてしまいます。そのあいだに資金不足でつぶれてしまうのでは元も子もありません。そこで、銀行借入が必要になります。
銀行からおカネを借りることで、利益だけでおカネを増やそうとするよりも、より多くのおカネを持つことができる。これが手元資金の最大化です。
これを聞いて、「だったら、おカネが足りなくなってから借りればいい」との意見もありますが、おカネが足りなくなっているような危険な会社に、銀行が積極的に融資をするものではありません。つまり、会社が借りたいときほど借りられないのです。
だから、借りれるときに借りれるだけ借りておくことが、中小企業の財務戦略になります。誤解を恐れずにいえば、「借りたいときに借りられるようになりましょう」は綺麗事です。繰り返しになりますが、借りたいときほど借りれないものなのです。
なお、銀行から借りたおカネは当然ながら、いざというときに備えるためのものであり、ジャンジャン使うためのものではありません。よって、そもそも「返すアテ」は必要ありません。備えてあるおカネがある限り、そのおカネでいつでも返済はできるからです。
「借りれるだけ借りて、返せなくなったらどうするんだ!」との批判もありますが、それは借入とは関係のないハナシです。借りたおカネを使ってしまった「本当の原因」があって、その原因がある限り、借入しようがしまいがおカネはなくなる命運にあったのです。
「借りれるだけ借りろ」の表現を嫌って、その本質を見逃さないようにしましょう。借りれるだけ借りることと、返すアテもないのに借りることはけしてイコールではありません。
融資を引っ張る
銀行融資に関する雑い言葉、3つめは「融資を引っ張る」です。借り手の自分本位な姿勢が透けて見えるようで銀行側からは嫌われます。同じ理由で、融資を引く、融資を引き出すといった言葉も嫌われる傾向にあるようです。
したがって、銀行対応という場面においては、それらの言葉はできるだけ使わないほうがよいでしょう。銀行から借入するには、銀行の厳正なる審査が必要なのであり、「引っ張る」などといえば不正(たとえば粉飾決算)をしてでも借入するかのようにおもわれてもしかたありません。
いっぽうで、場面が変われば、同じ言葉も「わかりやすい表現」として機能することはあります。おカネが必要な借り手からすれば、できるだけたくさん借りたいのが本音であり、「引っ張る・引き出す」といった言葉はしっくりくるし、惹かれるところもあるでしょう。
ですから、僕を含めて銀行融資の必要性を伝えようとしたり、銀行融資の支援をしたりする人たちが、より多くの社長に興味・関心を持ってもらえるようにと、「あえて」雑い言葉を使うことはあります。目的は、社長の気づきとなることであり、銀行からの印象をよくすることではないからです。
「融資を引っぱる」の表現を嫌って、その本質を見逃さないようにしましょう。中小企業における銀行融資の必要性は高く、より多くの融資を受けられるようになる(≒より多くの融資を引っぱる)ことは、資金繰りをよくするうえでは欠かせません。
まとめ
銀行融資に関する雑い言葉があります。
- 借りたら返すな
- 借りれるだけ借りろ
- 融資を引っ張る
これらの表現が批判をされたとしても、本質までは批判されるものでも否定されるものでもありません。そこで、雑い言葉の本質について解説しました。
雑い言葉の表現を嫌い、その本質を見逃せば、結果として資金繰りが悪くなることがあります。本末転倒です。表現という表面にとらわれて、大事な本質を見逃すことがないように。それぞれの言葉が意味する本質を理解しておきましょう。