僕の書く文章は、けして格調高いものではありません。それは、書けないからでもあり、あえてそうしないと決めているからでもあります。
「わかりやすい」と言われるけれど
ありがたいことに、僕が書くブログ記事や書籍について、「わかりやすい」「読みやすい」と言っていただくことがあります。専門用語をなるべく使わず、平易な言葉で書くことを心がけているので、そう言っていただけるのは嬉しいことです。
いっぽうで、僕の文章はいわゆる「格調高い文章」ではありません。難しい言葉や古風な言い回しを駆使したり、文学的な表現や比喩を用いたりすることは、まずありません。
はっきり言ってしまうと、僕にはそのような文章は書けません。そして、仮に書く能力があったとしても、おそらく書こうとは思わないでしょう。それは、僕が文章を書くうえで大切にしている、明確な哲学があるからです。
今回は、僕がなぜ「格調高い文章」ではなく、あくまでも平易でわかりやすい文章を書くことにこだわっているのか、その理由についてお話ししてみたいと思います。僕のスタンスをご理解いただくことで、僕が日ごろ発信する情報をより深く受け取っていただけるかもしれません。
このあとお話のポイントは以下のとおりです。
- 目的は「伝わる」ことであり、「魅せる」ことではない
- 読者は「多忙な社長」であり、「文学の徒」ではない
- 価値は「知恵」であり、「愉快」ではない
僕が「格調高い文章」を書かない理由
僕が平易な文章を心がけるのは、単なる文章スタイルの好みではありません。僕の専門家・実務家、発信家としてのスタンスそのものに関わる問題です。なぜそう考えるのか、3つの理由に絞ってお伝えしてみます。
目的は「伝わる」ことであり、「魅せる」ことではない
僕が文章を書くおもな目的は、銀行融資や資金繰りなど、会社経営における「おカネ」の課題に悩む社長の課題を解決するヒントを提供することです。
そのためには、書かれている内容が正しく、そして即座に理解できて、読んだ社長が「なるほど、自社でもこうしてみよう」と具体的な行動に移せることが何よりも重要だと言えます。
いっぽうで、格調高い文章は、ときに書き手の自己満足に陥りがちです。美しい比喩や難解な言葉は、読み手を感心させるかもしれませんが、肝心の内容の理解を妨げたり、読むだけ(行動無し)の満足感を与えてしまう可能性があります。
僕にとって、読んだあとに「良い文章だったな」でおわってしまう(=魅せる)のであれば失敗です。「明日からこれをやってみよう」と思ってもらえて(=伝わる)、はじめて成功だと考えています。
僕の文章は、あくまで課題解決のための「道具」であって、それ自体が鑑賞されるべき「作品」ではないのです。
読者は「多忙な社長」であり、「文学の徒」ではない
僕がふだんの発信(おもに銀行融資に関すること)を届けたい相手は、日々、会社の明日を背負い、ある意味では時間に追われながら経営判断を下している「多忙な社長(あるいは、それを支える税理士など)」です。
社長にとって、文学作品を味わうように、一文一文をじっくりと読み解く時間は惜しい。移動中の数分間、あるいは休憩中のわずかな時間で、自社の課題解決に役立つ情報を効率的に得たい、と考えていることもあるでしょう。
そのような多忙な社長に対して、難解な言葉や複雑な構文で書かれた文章を提供するのは、不親切であり、書き手としての怠慢だとすら僕は考えています。
だからこそ、難しいことを、できるだけ簡単な言葉で。複雑なことを、できるだけシンプルな構造で。これが僕の文章の基本です。読者(社長)の時間という貴重な資源を尊重した文章を書きたいと思っています。
価値は「知恵」であり、「愉快」ではないから
世の中には、素晴らしい文章を書く作家や文筆家がたくさんいます。僕が、彼らと同じ土俵で「表現力」を競っても、到底かなうはずがありません。僕が専門家として読者に提供できる独自の価値は、そこにはありません。
僕が提供できる価値、それは日々現場で培ってきた「知識」や「経験」であり、ひいては「知恵」です。銀行がどう考え、社長がどこでつまずき、どうすれば問題を解決できるのか。それこそが、僕の提供価値にあたります。
であるならば、僕が書くべき文章は、その価値(知恵)を最もストレートに、そして正確に読者に届けるための「道具」であるべきです。
格調高い表現で飾り立てることは、むしろ僕の価値の源泉である「知恵」そのものを曇らせて、歪めてしまう可能性があります。似たようなところでは、エンタメ要素を加えて、面白楽しく愉快に仕上げるとか。
そうではなく、平易で飾らない言葉を選ぶのは、僕が持つ「素材」を、そのまま読者の皆さんにお届けするための、僕なりの誠実さだと考えています。
まとめ
僕が「格調高い文章」を書けないし、書かないと決めている理由を3つ、お話ししてきました。
- 目的は「伝わる」ことであり、「魅せる」ことではない
- 読者は「多忙な社長」であり、「文学の徒」ではない
- 価値は「知恵」であり、「愉快」ではない
これからも僕は、格調高い文章を書くことを目指すことはないでしょう。その代わりに、社長の役に立つ、わかりやすい文章を書く発信家でありたいと、心から願っています。
僕の少し泥臭くも、平易な言葉が、少しでも多くの方々の会社経営のヒントになれば、それ以上に嬉しいことはありません。