決算書は融資審査の材料の1つにすぎない、というハナシがあります。これは、半分は正解で半分は不正解です。この点を深堀りして、解説していきます。
半分は正解で半分は不正解だ
会社の銀行融資について、「決算書は融資審査の材料の1つにすぎない」というハナシがあります。これは、「半分は正解で半分は不正解だ」というのが今回の結論です。つまり、融資審査の材料は決算書だけではないけれど、実際には決算書ありきだといっていい。
ですから、「決算書の内容が悪くても、事業の将来性などを見てもらえれば大丈夫」などといった考え方には気をつけましょう。定量面(決算書など数字ではかれる要素)がダメでも、定性面(事業の将来性や社長の資質など数字ではかりにくい要素)を銀行は見てくれる、とタカをくくっている社長もいるようですが、それは違います。
そこを勘違いしたままでいると、融資が受けにくくなってしまいます。今後は、融資金利の上昇もあり、融資審査の厳格化が予想されるところです。すると、決算書を軽視する会社は、ますます融資が受けにくくなってしまうでしょう。融資は資金繰りの生命線でもありますから、死活問題です。
決算書は融資審査の材料の1つにすぎない。されど決算書です。この意味を、理解しておくようにしましょう。このあと以下をお伝えしていきます。
- 材料の1つにすぎないとは?
- それでも決算書ありきの現状
- 実際、決算書が大前提は正論
これらを理解して決算書の改善に努めることで、融資はより受けやすくなるはずです。銀行の考え方を知り、銀行対応に活かしましょう。
材料の1つにすぎないとは?
冒頭でもふれた、「決算書は融資審査の材料の1つにすぎない」というハナシについて。半分は正解とはどういう意味かを考えてみます。
銀行の融資審査の材料は、大きく2つに分かれます。定量面の材料と、定性面の材料です。定量面の材料とは、決算書が典型例であり、数字ではかれる要素をいいます。いっぽう定性面の材料とは、事業の将来性が典型であり、数字ではかりにくい要素をいいます。
この点、金融庁が銀行に対して求めているのが「事業性評価(による融資)」です。これは、「決算書の良し悪しや担保・保証の有無の依存せず、事業の将来性も評価しよう」という考え方です。
これを見て、「決算書が悪くても大丈夫(事業の将来性が良ければ)」と勘違いをしている社長がいます。たしかに、「事業の将来性も評価しよう」とは言っていますが、「決算書を評価しなくてもいい」とは言っていません。つまり、決算書も評価をするし、決算書の評価も良いに越したことはないのです。
したがって、「決算書は融資審査の材料の1つにすぎない」というハナシは、決算書以外の要素(定性面)も評価するという点では正解ですが、決算書(定量面)も評価するという点では不正解だといえます。
さらにいえば、なんだかんだいっても「決算書ありき(決算書の重要性が高い)」という現状もあるからです。
それでも決算書ありきの現状
銀行は、事業性評価が求められているという話をしました。そこには、これまでの反省があります。バブル崩壊後、銀行の不良債権問題を解決するにあたり、金融庁による銀行に対する検査が厳しくなりました。このとき、決算書の内容による格付けという考え方が銀行に広まり、定着したのです。結果として、不良債権問題の解決にはいたったものの、融資審査が機械化・画一化するという弊害を招きました。
つまり、どの銀行も決算書ありきの融資審査になったわけです。決算書の内容が良ければ貸すし、良くなければ貸さない。ちなみに、決算書の内容が悪くても貸すのは、担保や保証があるときのみという状況です。これが、決算書ありきが意味するところになります。
とはいえ、金融庁が事業性評価を求めることで、そのような状況も変わるのではないかとおもわれるかもしれません。たしかに、変わりつつあります。ですが、長きにわたり続けられた「決算書ありきの審査」が、そうカンタンに変わらないことは容易に想像がつくでしょう。
事業性評価などというけれど、事業の将来性などどのように評価すればよいのか?というハナシです。決算書であれば数字で一目瞭然ですが、事業の将来性となると数字ではかれるものでもありません。ゆえに、銀行による事業性評価は難航しているのが現状であり、決算書ありきの現状は続いているということです。
事業性評価への変化の過程にあるとはいえ、それでも決算書ありきの現状であることは理解しておいたほうがよいでしょう。やはり、決算書の内容が良いに越したことはないのです。
実際、決算書が大前提は正論
ならば今後、事業性評価が完全に浸透したらどうなのか?決算書ありきでなくなるのなら、決算書の内容が悪くても融資が受けられるのではないか?
違います。やっぱり、決算書の良し悪しが融資の受けやすさに影響することは変わらないでしょう。その理由のひとつは、事業性評価が「事業の将来性も評価するが、決算書も評価する」というものだからですが、別の理由もあります。
それは、「決算書ありき・決算書が大前提との見方は正論でもあるから」という理由です。
たとえば、事業の将来性があるという会社の決算書が、大幅な赤字だったとしたらどうでしょう?そのうえで、事業計画によれば今後は大幅な黒字が見込まれているという会社の見立てであったとしたらどうでしょう?(事業計画は事業の将来性を担保する材料の1つにあたります)
銀行にしてみれば、「いま大赤字の状況で、本当に黒字になるの?」ということであり、事業の将来性に疑念を抱くのはもっともです。事業計画の説得力は、決算書の良し悪しに左右されるということであり、言い換えると、決算書は事業計画(事業性評価)の根拠になるということでもあります。
たしかに、「事業の将来性があるような会社は、いま現在の事業についても実績を出しているはず」と言われれば納得でしょう。だとすれば、決算書ありき・決算書が大前提との見方は正論だといえます。というように、どこまでいっても、決算書の内容は良いに越したことはないのです。
よって、「決算書は融資審査の材料の1つにすぎない」というハナシを真に受けてはいけません。1つにすぎないけれど、大事な材料なのだということを忘れてはならず、社長は利益をきちんと出すことに努める必要があります。納税を惜しんで、みずから利益を減らすような行為は要注意です。
まとめ
決算書は融資審査の材料の1つにすぎない、というハナシがあります。これは、半分は正解で半分は不正解です。この点を深堀りして、以下の解説をしました。
- 材料の1つにすぎないとは?
- それでも決算書ありきの現状
- 実際、決算書が大前提は正論
これらを理解して決算書の改善に努めることで、融資はより受けやすくなるはずです。銀行の考え方を知り、銀行対応に活かしましょう。