「預金残高を増やす」の本当の意味、知っていますか?

「預金残高を増やす」の本当の意味、知っていますか?

銀行融資において預金残高だけでなく、平均残高や取引そのものがなぜ重要なのかを解説します。

目次

その預金の増やしかた、銀行に見抜かれています

多くの社長が「銀行融資のために預金を増やそう」と考えます。たしかに、それは間違いではありません。ですが、その本当の意味を理解しているでしょうか?

決算日直前に一時的におカネをかき集めて、通帳の数字を大きく見せても、残念ながら銀行からの評価は上がりません。銀行が見ているのは、単なるその場しのぎの「残高」ではなく、日々の「取引」から生まれる「安定性」なのです。

本記事では、銀行に「この会社は安心だ」と思われ、融資が受けやすくなる「預金取引を増やす」ための3つのポイントを解説します。現金を現金のまま持っているのではなく、預金として銀行との関係構築に活かす視点も重要になります 。ポイントは以下のとおりです。

  • なぜ預金を増やすと融資が受けやすくなるのか?
  • 見せかけはNG!「平均残高」を増やさないと意味がない
  • 残高(ストック)だけじゃない!取引(フロー)も増やそう

なぜ預金を増やすと融資が受けやすくなるのか?

銀行が会社の預金残高を重視するのには、明確な理由があります。それは、預金が会社の「体力」「信頼性」そして銀行自身の「安心」に直結するからです。

理由①:会社の「体力」と「安全性」の証明になるから

銀行は、融資先が不測の事態(売上急減、取引先の倒産、災害など)に耐えられるかどうかを常に見ています。潤沢な預金残高は、会社の「体力」を示すもっとも分かりやすい指標です。手元におカネがあれば、たとえ売上が激減したとしても、当面しのぐことができます

預金残高が高水準で安定している会社は、資金繰りに余裕があり、貸し倒れリスクが低いと判断されます。潤沢な預金残高は、会社にとって最強の「守りの力」なのです

理由②:決算書の「信頼性」の裏付けになるから

会計上の利益は、経理処理のしかたによってあるていど操作(粉飾)できてしまいます。しかし、預金残高は操作できません。

利益の増加と預金残高の増加がきちんと連動していることで、決算書の数字に信頼性が生まれます。銀行にとって、預金の裏付けは決算書の正しさを証明する重要な安心材料になるのです

理由③:銀行にとって預金は「担保」のようなものだから

銀行にとって、自行の口座にある預金は、万が一のときの「担保」のようなものです。返済が滞った際には、融資と相殺することもできます。

また、預金残高が多いほど銀行は「実質金利(※)」が高くなり、儲かるという側面もあります 。預金があれば銀行はリスクを軽減できるため、融資にも前向きになりやすいのです。

※ 実質金利 =(支払利息 − 預金利息)÷(借入金 − 預金)

見せかけはNG!「平均残高」を増やさないと意味がない

預金を増やすといっても、決算日だけの一時的な残高では意味がありません。銀行は、会社の日常的なおカネの流れを見ています。

銀行は「決算日だけ」の残高を見ていない

決算日直前に一時的におカネをかき集めて預金を増やしても、銀行はその前後の動きを見ているため、いわば「見せ金」だと簡単に見抜いてしまいます。

銀行が本当に見ているのは、日々の取引のなかで積み上がった「平均残高」です。

「預金残高の安定」が信頼につながる

現金売上を毎日入金する、売上入金口座に指定するなど、日々の取引をとおして預金残高を安定させることが重要です。

そうすることで、会社の経理がしっかりしていること、安定したキャッシュフローがあることのアピールになります。預金残高が安定するほど、資金繰りに余裕ができ、銀行が融資の回収不能リスクが下がると考えるからです 。

目標は「平均月商の2か月分以上」

銀行は、預金残高が平均月商の何か月分あるか(預金月商倍率)を常にチェックしています 。まずは平均月商の2か月分以上の預金残高をキープすることが、融資をスムーズに受けるためのひとつの目安となります 。

いっぽうで、1か月分を下回ると「危険水域」と見なされることが多いので注意が必要です 。

残高(ストック)だけじゃない!取引(フロー)も増やそう

融資を引き寄せるには、預金残高(ストック)だけでなく、日々の入出金(フロー)を増やすことも重要です。これは、銀行との関係をより強固にするための戦略的な行動といえます。

銀行を「儲けさせる」という視点を持つ

現金払いをやめて振込取引を増やすと、銀行は振込手数料を得ることができます。銀行にとっての収入増加は、その取引先を支援する動機となり、結果として融資が受けやすくなるのです

会社の「透明性」を高める効果

振込取引がある銀行は、その口座から取引内容を把握できます。これにより、会社の業績や資金繰りの検証がしやすくなり、銀行はより柔軟に融資を検討できるようになります

具体的に増やすべき「預金取引」とは

では、具体的にどのような行動をとればよいのでしょうか。

  1. 現金払いをやめる: 経費の支払いは、クレジットカード決済や振込に切り替えましょう。
  2. 入出金口座の集約 売上代金の入金口座や、仕入・経費の支払口座を、融資を受けたい銀行(メインバンク)に集約します 。
  3. 給与振込口座に指定する: 社員の給与振込口座に指定することも、銀行との関係性を強化するうえで有効です。銀行にとっては、社員個人の口座獲得にもつながるからです 。

まとめ

銀行融資のために預金を増やすとは、単に決算日の残高を大きく見せることではありません。

日々の取引をとおして「平均残高」を安定させる(ストック)こと、さらに売上入金や経費支払などの「取引」そのもの(フロー)を増やすことが重要です。

これは、会社の安全性をアピールすると同時に、銀行との信頼関係を築くためのコミュニケーションにほかなりません。

預金の「ストック」と「フロー」の両面から銀行との関係を深めること。それこそが、いざというときに頼れる関係性を築き、融資を受けやすい強い会社をつくるための鍵となるのです。

この記事を書いた人

1975年生まれ、横浜在住。税理士、発信者、習慣家。2016年に独立以来、きょうまでブログは毎日更新中。近年は、銀行融資支援を得意な仕事にしている。借りれるうちに借りれるだけ借りよ、が口グセ
現在は1日1万歩以上、ひと月150kmほど走る。趣味は、コーヒーとサウナ、読書、散歩、アニメ。スタバでMacがマジカッコいい!と思い続けてる
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