「今期の利益」は言えても、自社の「利益剰余金」の額を答えられない社長は少なくありません。ですが、銀行があなたの会社の「体力」を測る際、真っ先に見るのは単年度の利益ではなく、この利益剰余金の蓄積です。
この記事では、利益剰余金がなぜ会社の命運を握るのか、そして帳簿上の数字にダマされないための「実態」の見極め方について解説します。
なぜ社長は「利益」は言えても「利益剰余金」は答えられないのか?
「今期の利益はいくらですか?」と聞けば、ほとんどの社長はすぐに答えられます。ですが、「では、利益剰余金は?」と続けた瞬間、視線が泳ぎ、不自然な沈黙が流れる。僕はその空気を、何度も感じてきました。
かくいう僕も、その昔は損益計算書(P/L)の利益ばかりを見ていたひとりです。が、利益が出ているのになぜか融資が受けられない…そんな会社を目の当たりにしてから、貸借対照表も重要なのだと痛感しました。
これは、税理士が「税務上は大丈夫ですよ」と言う言葉も、銀行は「この決算書は粉飾だ」と読み替えている事実に、そろそろ気づいたほうがいい、ということでもあります。
先に本記事の要点からいうと…
- 利益剰余金は「創業以来の通算成績」であり、銀行が会社の体力を測る指標になる
- 実態のない資産が紛れ込んでいれば、銀行には「粉飾(に近い)」と映りかねない
- 利益剰余金の金額を答えられないということは、じぶんの会社の限界を知らないのと同じ
利益剰余金は「創業以来の通算成績」。銀行がB/Sを凝視する理由
「今期は黒字だから大丈夫」
そうおもう社長の気持ちは、よくわかります。苦労して利益を出したのですから、じぶんを褒めたくなるのは当然かもしれません。ですが、銀行が社長の会社を格付け(評価)する際、損益計算書の利益以上に凝視する場所があります。
それが、貸借対照表(B/S)のさいごのほうにある 「利益剰余金」 です。
利益剰余金とは、会社が創業してからきょうまで積み上げてきた「税引後利益」の合計。いわば、会社の 「創業以来の通算成績」 だといえます。
銀行がここを重視する傾向があるのは、単年度の利益が「たまたま」かもしれないのに対し、利益剰余金は「その会社がどれだけ稼ぎ、どれだけ残してきたか」という体力の土台そのものを示すからです。
たとえば、今期1,000万円の利益を出した会社が2つあるとします。
いっぽうは、過去の蓄積(利益剰余金)が5,000万円ある会社。
もういっぽうは、過去の赤字が積み重なって利益剰余金がマイナス3,000万円の会社。
銀行がどちらに「より大きな傘(融資)」を差し出したいとおもうかは、想像に難くないでしょう。
利益剰余金という「防波堤」が厚いほど、外部環境が激変しても会社は耐えられる。銀行は、社長の会社の「今」以上に「これまで」を見ているという傾向があります。
利益剰余金がプラスでも安心できない。「見せかけ」に棲む幽霊の正体
利益剰余金は「防波堤」だと言いました。では、利益剰余金がプラスなら安心か?
残念ながら、そうとは限りません。帳簿上の利益剰余金がいくらプラスでも、その中身である「資産」がスカスカなら、銀行の評価は大きく下がりうるからです。たとえば…
- 回収のあてがない売掛金
- 倉庫で眠り続けている不良在庫
- 価値がなくなっているのに、買ったときのままの固定資産
これらが、利益剰余金の「見せかけ」に棲む 幽霊(実態のない資産) です。
帳簿はプラスでも、銀行は「実態」を見る
たとえば、貸借対照表に記載されている利益剰余金が2,000万円あったとします。
いっぽうで、回収できない売掛金が500万円、売れない在庫が300万円、償却が足りていない固定資産が400万円あったとしたら(合計で1,200万円)。
あくまで一例ですが、銀行の目には 「実態の利益剰余金は800万円」 と映りえます(2,000万円 – 1,200万円)。銀行の評価は、帳簿上の数字の半分以下だということです。
理由はどうあれ、銀行から見れば「実態よりも利益を多く見せている」と判断され、粉飾に近い印象を与えかねない。「利益剰余金がプラスだから大丈夫」という安心感は、幽霊の上に立っている安心感かもしれません。
なぜ幽霊は増えるのか
厄介なのは、幽霊が「悪意」から生まれるとは限らないことです。
むしろ多いのは、「税務上は問題ないから」「まだ使うかもしれないから」「処理すると赤字になるから」という、ごく自然な判断の積み重ねです。社長を責められる話ではない。
ですが、税務の「大丈夫」と、銀行の「大丈夫」が同じ意味だとおもっているなら、そこはいちど立ち止まったほうがいいでしょう。
幽霊を見つけるための3つの問い
では、じぶんの会社の貸借対照表に幽霊が棲んでいないか。チェックの入口として、この3つを問いかけてみてください。
- 売掛金:「この取引先から、本当に入金される根拠はあるか?」
- 棚卸資産(在庫):「この在庫を、いま定価で買ってくれる相手はいるか?」
- 固定資産:「この資産を売ったら、帳簿の金額に近いおカネになるか?」
1つでも「うーん…」と口ごもるものがあれば、それが幽霊候補です。
幽霊を成仏(処分)させれば、帳簿上の利益剰余金はその分だけ減ります。ですが、その代わりに手に入るのは、 「数字の手触り感」 です。通帳の残高と貸借対照表の利益剰余金のズレが縮まり、数字は社長の実感に近づきます。
債務超過という「高い壁」、超えたら傘は借りにくくなる
決算書において、避けなければならない状態の1つ。それが 「債務超過」 です。
これは、利益剰余金のマイナスが積み重なり、純資産の部がマイナスになってしまった状態のこと(資本金<利益剰余金のマイナス)。言い換えると、会社が持っているすべての資産を売っても、借金を返しきれない状態を指します。
融資の現場において、債務超過は 「高い壁」 です。
この壁を超えてしまうと、新規の融資は極めて厳しくなる傾向があります。銀行にとって、純資産がマイナスの会社におカネを貸すのは、返済原資の裏付けがない状態でリスクを取ることになるからです。
もちろん、債務超過になったとしても、すぐに倒産するわけではありません。ですが、いちどこの状態に陥ると、信頼を取り戻すには数年単位の時間がかかることも珍しくありません。
銀行融資をスムーズに受けるためには、利益剰余金をプラスに保ち、この壁からどれだけ距離を置けているかを常に把握しておく必要があるわけです。
利益剰余金を「おカネの姿」に戻す、3つのアクション
では、どうすれば「見せかけの数字」を卒業し、本物の体力をつくれるのか?
利益剰余金を 「おカネ(キャッシュ)」 という実弾に変えるためのアクションを整理します。
幽霊資産を成仏させる
まずは、貸借対照表に棲みつく「幽霊(実態のない資産)」を特定して、成仏(処分)させることです。
利益剰余金の数字は減りますが、その分、残った数字の「純度」が上がります。銀行に対しても「ウチは実態を隠さない誠実な会社だ」というメッセージになります。
キャッシュを厚くしてから返す
利益剰余金を増やす過程において、借入を無理に減らそうとするのは逆効果になりえます。
借入を返してキャッシュを流出させるより、まずは手元に現預金を厚く持っておく。状況にもよりますが、その現預金を元手に利益を増やし、利益剰余金を積み上げていくほうが、生存確率は上がりやすい・成長しやすいと僕は考えます。
「身の丈」を再定義する
「身の丈に合った借入をしなさい」というのはよく聞く言葉ですが、この「身の丈」には2つのモノサシがあります。
ひとつは、以前の記事でも触れた「利益(P/L・損益計算書)」のモノサシ。稼いだおカネの範囲で返せるか、という基準です。そしてもうひとつが、今回のテーマである「利益剰余金(B/S・貸借対照表)」のモノサシです。
銀行が「貸せる」と判断する上限は、損益計算書の利益だけでなく、貸借対照表の利益剰余金の蓄積に基づいている傾向があります。つまり、利益剰余金という「防波堤」の範囲内で、どれだけキャッシュを回せているか。これが銀行目線の、もうひとつの「身の丈」なのですね。
この視点を持つだけで、「借りすぎかな」という漠然とした不安は、数字で測れる問いに変わります。
まとめ:数字の手触り感を取り戻そう
ここまで、利益剰余金の意味、見せかけの危険、具体的なアクションを整理してきました。
格言風にいうのなら…
「P/Lは一瞬、B/Sは一生」
今期の利益に一喜一憂するのを、きょうでおわりにしませんか。
本当に守るべきは、見せかけの利益剰余金ではなく、 「数字の手触り感(実態)」 です。
あらためて要点を3つにまとめます。
- 利益剰余金は「創業以来の通算成績」であり、銀行が会社の体力を測る重要指標
- 帳簿上はプラスでも、幽霊(実態のない資産)が紛れていれば評価は下がりうる
- 守るべきは見せかけの数字ではなく、キャッシュの厚み
最初の1歩
- 決算書を開いて「利益剰余金」の正確な金額を確認する
- 売掛金や在庫のなかに、1年以上動きがない「幽霊」がいないか点検する
- 「債務超過まであといくら余裕があるか(資本金+利益剰余金はいくらか)」を確認する
- 借入を減らすことより、手元キャッシュの厚みを維持することを優先する
じぶんの決算書を開いてみて「これ、大丈夫かな」とおもうことがあれば、個別相談ものぞいてみてください。社長のペースで、気になる数字をいっしょに確認するところから始められます。

