数字を整える前に、自社のことを言葉にしているか。銀行員に「うちはこういう会社です」を、届けられているか。事業性評価や企業価値担保権の流れの中で、いま大事になっているのは、案外ここなのかもしれません。
銀行は「数字だけ」でなく「事業」も見はじめている
銀行は、社長の会社を、どう見ているか。今回はそこから整理してみます。
ここ数年、銀行の融資の世界で、ひとつの方向が見えてきました。
「数字を見る」だけではなく、「事業を見る」ほうへ。
2014年に適用が始まった経営者保証ガイドライン。
同じく2014年から動き出した、事業性評価に基づく融資の推進。
そして、2026年5月25日に施行される企業価値担保権。
つながっているのは、「会社の事業を、もう1歩踏み込んで見る」という方向です。
そこに、銀行のAI導入のニュースも重なってきました。
銀行員が、資料の整理ではなく、社長との対話に時間を使えるようになる。
そんな見立ても、すでに広がっています。
この流れの中で、社長として、いま何をしておけばよいのか。
先に本記事の要点からいうと…
- 銀行が見ているのは、数字だけではない。会社の「事業そのもの」が問われはじめている
- 「だれに・なにを・どのように、売っているか」を言葉にできているか。さらに「なぜ」まで届くと、見え方が変わる
- 数字を整える前に、「事業を言葉にする」という、もうひとつの融資支援がある
数字を整えるのも、もちろん大事です。
ただ、それと同じくらい、いや、それよりも先に、やっておきたいことがあります。
うちの会社は、「だれに・なにを・どのように」売っているのか。
それを、銀行員に届く言葉にできているか。
まずは、僕じしんの過去の話から入らせてください。
「なにを」は語れる。「だれに・どのように」は意外と語れない
正直にいうと、独立してしばらくのころまで、僕には、顧問先のビジネスモデルを語る視点がありませんでした。
試算表は見ていました。
決算書も読めました。
売上の内訳も、利益率も、把握していたつもりでした。
でも、いま振り返ると、それは「数字を見ていた」だけだったわけです。
「どうやって稼いでいる会社か」を、じぶんの言葉で語れたかというと、あやしかった。
きちんと理解できるようになったのは、融資支援を本格的にはじめてからのことです。
ビジネスモデルが理由で融資が受けられなかったり、受けにくくなったりする事例にぶつかってからでした。
ここで「ビジネスモデル」と言っているのは、シンプルに、
だれに、なにを、どのように、売っているか
ということです。
社長ご自身に「うちのビジネスモデルは?」と聞くと、こんな答えが返ってきます。
「うちは、〇〇という商品を売っています」
「なにを」は、たいてい語れます。
当然です。じぶんで決めて、じぶんで売っているわけですから。
ただ、その先に「だれに」「どのように」と入っていくと、言葉が止まる場面が、案外多いものです。
- どんな業種・規模・地域の顧客が中心なのか
- どんなチャネル・経路で売っているのか
- それぞれの割合は、どれくらいか
ここに具体性を持って答えられる社長ばかりでもないでしょう。
僕自身、税理士事務所の一担当者だったころは、ここを聞く発想すらありませんでした。
数字は見ていた。
事業は、見ていなかった。
これが、ふだんは意外と見落とされやすい構造なのだと考えています。
語れていても、伝わっていない
もうひとつ、現場でよく出会う場面があります。
「いやいや、うちの会社のことは、銀行員もわかっているはずですよ」
長く取引のある銀行であれば、なおさらそう感じやすい。
気持ちは、わかります。
ただ、ここに、少し落とし穴があります。
銀行員は、ひとりで何十社、ときに百社以上を担当していることになります。
そのなかで、ひとつひとつの会社の事業を、深く知っていられるかというと、現実はなかなかむずかしいものです。
「あの会社は、製造業」
「あの会社は、卸売業」
そのていどの整理で止まっているケースは、けして少なくありません。
なので、社長としては、語っているつもりでも、伝わっていない。
伝わっているつもりでも、整理されたかたちでは届いていない。
そんなことが、ふつうに起こります。
「銀行員もわかっているはず」は、社長の側にとって、都合のいい思い込みになりやすい ものです。
ここは少し、立ち止まって見直しておきたいところになります。
言葉にすること。
そして、銀行員に届くかたちに整えること。
このふたつが、セットでそろってはじめて、「事業が伝わる」状態になっていきます。
「なぜ」まで言葉にできると、見え方が変わる
では、「だれに・なにを・どのように」を語れたら、それで十分なのか。
実は、もう1段あります。
それぞれに「なぜ」を一本通すと、銀行員の見え方が変わってくるはずです。
- だれに → なぜ、その顧客に選ばれているのか
- なにを → なぜ、他社商品ではなく、自社商品が選ばれているのか
- どのように → なぜ、その商流・売り方を選んでいるのか
ここまで言葉にできると、銀行員は「他社との違い」を把握しやすくなります。
他社との違いが見えると、銀行員のアタマのなかで「これは良い事業だ」という理解がしやすくなるものです。
そうすると、融資を進めたいという気持ちにも、つながりやすくなるわけですね。
逆にいうと、「なぜ」が抜けたまま「だれに・なにを・どのように」だけを並べると、ほかの会社との見分けがつきにくくなります。
銀行員のアタマには、「ふつうの会社」としか残らないことにもなりかねません。
この点、事業性評価も企業価値担保権も、根っこは同じです。
「この会社の事業は、ほかとどう違うのか」が、見える状態にしておく 。
ここが、土台になっているのです。
数字を整える前から。
ビジネスモデルを言葉にしておく。
そして、「なぜ」まで届ける。
順番としては、こうなるのだとおもうのです。
顧問税理士もまた、その言葉化を一緒にできる
ここまで、社長の視点で書いてきました。
さいごに、もうひとつだけ。
顧問税理士もまた、顧問先のビジネスモデルを理解しているに越したことはない、という話です。
なぜか。
社長と一緒に、事業や資金繰りを考えるうえで、ビジネスモデルの理解は、土台になるからです。
たとえば、「来期、設備投資をしたい」という話が出てきたとき。
ビジネスモデルが見えていれば、その投資が事業のどこに効くのか、どんな資金繰りの動きになるのかが、一緒に考えやすくなります。
「最近、売上が落ちてきた」という相談が来たとき。
顧客像と売り方がわかっていれば、何が起きているのかを、より早く一緒に整理できる。
逆に、ビジネスモデルから目を背けたままだと、どうしても、数字や税金の話に寄りがちです。
社長としても、税理士としても、もったいない時間の使い方になってしまうことが、あるかもしれません。
社長ひとりで考えなくていい。
銀行員にいきなり語らなくてもいい。
まずは、隣にいる顧問税理士と、「うちの会社って、だれに、なにを、どのように、売ってるんだっけ」を一緒に整理してみる。
そういう入口も、あっていいのだとおもうのですね。
まとめ
銀行員には、わかっているはずなのか。
今回はそのテーマで書いてきました。
要点を、もういちど。
- 銀行は「数字」だけでなく「事業」を見はじめている。事業性評価も、企業価値担保権も、AI導入も、根っこは同じ流れ
- 「なにを」は語れても、「だれに・どのように」は意外と語れていない。「銀行員もわかっているはず」は、思い込みになりやすい
- 「なぜ」まで言葉にできると、他社との違いが見えて、銀行員の見え方が変わる
最初の1歩
「だれに・なにを・どのように、売っているか」を紙に書き出し、そのうえで、それぞれに「なぜ」を1行ずつ添えてみる。
新しい時代の対策、ではありません。
本来、社長として、ふだんから言葉にしておきたかったところです。
うまく書けない箇所が出てきても、だいじょうぶです。
そこが、伸びしろであり、考えるきっかけにできれば大きな一歩となります。
書けたら、次の面談のときにでも、銀行員にも、顧問税理士にも、その紙を見てもらう。
語ろうとして言葉にならなかった、その空白こそが、これからの対話の入口になっていくはずです。
事業の言葉化や、銀行員への伝え方について、もう少し深く一緒に考えてみたいと感じた社長は、よろしければ 個別相談 もご活用ください。

