社長がじぶんで事業計画書をつくることは、めずらしくなくなりました。
文章は整っている。中身も、間違ってはいない。それでも、銀行にはうまく届かないことがあります。
きれいすぎる、とおもった
きょうは、これから銀行に事業計画書を出そうとしている社長に向けて、書いてみます。
先に本記事の要点からいうと…
- 計画書で引っかかるのは、中身の正しさよりも「言葉の向き」
- よく見せようとして書いたところほど、銀行は静かに読み飛ばす
- 直しかたは、書き直しではなく、向け直し
(守秘義務は守りつつ、言葉も少し変えて…)少し前の話をします。
ある社長から、事業計画書を見せていただきました。銀行に提出する前の、事前確認です。
社長がじぶんでつくったもの、ということでした。
読んでみると、よくできています。項目は埋まっていて、日本語も整っている。中身が間違っているわけでもありません。
ただ、なんというか、きれいすぎるのですね。
この整いかたは、どこかで見たことがあるな、とはおもいました。AIを使って書いたものかどうかは、聞いていません。
聞かなかったのは、そこが問題ではなかったからです。
引っかかったのは、数字ではありませんでした。方針を語る項目です。
そこだけ、二度読みました。
よく見せようとすると、3つの方向に伸びる
なにが引っかかったのか。しばらく考えて、3つに分けられそうだとおもいました。
1つめは、遠くを見せることです。
「世界市場へ」「海外への展開を目指す」。まだ先の話が、前のほうに出てくる。
2つめは、大きく見せることです。
「大型の案件にも柔軟に対応できます」。できることの幅を、広く書く。
3つめが、かっこよく見せること。
編集力、提案力、ブランド力。耳ざわりのいい言葉が、強みの欄に並びます。
どれも、嘘ではありません。実際にできることを書いています。
ただ、並べてみると、共通するものが見えてきます。ぜんぶ、じぶんの会社を、より大きく見せる方向の言葉なのですね。
つまり、相手ではなく、じぶんを向いている。
強みの欄が、いちばん引っかかる
なかでも気になったのが、2つめでした。
「大型の案件にも柔軟に対応できます」
強みとして、書きたくなるところではあります。
ただ、銀行がこれを読むと、別のことを考えます。
大型の案件を受けるということは、それだけ先におカネが出ていくということです。材料を仕入れて、人を動かして、入金は数か月先。手元の資金は、いったん薄くなります。
無理をしていないか。そちらを、確かめたくなるものです。
だから、こう直しました。
「案件の内容や規模に応じて、外部と連携する。固定費を抑えながら、無理のない受注の体制を整えている」
書いてある事実は、ほとんど変わっていません。変えたのは、どちらを向いて書くか。それだけです。
いちばん強みとして書いたところが、銀行には、いちばん引っかかるところだった 。
よく見せようとして書いたところほど、銀行は静かに読み飛ばします。あるいは、そこで手が止まる。どちらにしても、狙っていたのとは逆に効いてしまうのです。
銀行が先に読みたいのは、これからじゃない
ここまでを、ひとことでまとめるなら、こうなります。
社長が書いていたのは「これから何になるか」。
銀行が先に読みたいのは「いま、何ができるか」。
未来を書くな、という話ではありません。事業計画書なのですから、これからのことは当然書きます。海外に出る計画があるのなら、それも書けばいい。
順番の話です。
足元がどうなっているかが先にあって、そのうえで、これからの話が乗る 。この順番でないと、銀行は読み進められません。返せるかどうかを判断するための材料が、先に要るからです。
そして、大きく見せたぶんのツケを払うのは、銀行ではありません。社長です。
計画は、あとで実績と突き合わされます。大きく書いておいて届かなかったとき、説明をするのは社長のほう。しかも銀行は、次に出てくる数字を、少し割り引いて読むようになります。
一回きりの提出物ではないのですね。付き合いは、そのあとも続いていきます。
渡していなかったのは、宛先だった
では、なぜ言葉は、じぶんを向いてしまうのでしょうか。
AIが悪い、という話をしたいわけではありません。むしろ、文章を整えるところでは、よく働いてくれます。
事業のことは、社長がいちばんわかっています。何をやってきて、いま何ができるのか。そこは社長にしか出せません。文章にするところは、AIに手伝ってもらえばいい。
ただ、手伝ってもらうときに、渡しそこねやすいものがあります。
誰に向けて書くのか 、です。
宛先を渡さなければ、AIは無難なところに寄せます。いちばん無難なのは、誰が読んでも、それなりによく見える言葉。ただ、それは、銀行に向けた言葉ではありません。
実をいうと、これは僕にも起きます。
ブログの文章を相棒(AI)に整えてもらうと、いつのまにか、じぶんをよく見せる言い回しに変わっていることがある。読み返して、これは僕の言葉ではないな、と戻すわけです。
たいてい、そういうときは、こちらが宛先を渡していません。
削るのではなく、向け直す
では、どう直すか。
書き直しではありません。向け直しです。
さきほどの一文も、削ったわけではないのですね。「大型の案件にも対応できる」という事実は残っています。同じことを、銀行の側から見て書き直しただけです。
やることは、ひとつだけ。
方針を書いた欄を、もういちど読んでみる。そこに並んでいる言葉が、誰に向けられているかを見ます。
投資家に向けた言葉になっていないか。お客さまに向けた言葉になっていないか。読んでいるのは、返せるかどうかを見ている人です。
前述の社長には、直した理由をお伝えしました。銀行は、大きさよりも、無理をしていないかを見ていること。だから、こう書いたほうが伝わるということ。
すんなり、受け入れていただけました。
考えてみれば、当然だったのかもしれません。よく見えるように書くことと、銀行に伝わるように書くこと。その向きが、少しずれていただけだからです。
だとすれば、必要だったのは注意ではなく、宛先だったのでしょう。
まとめ|その言葉は、誰のほうを向いているか
きょうは、事業計画書の「言葉の向き」について書いてきました。
要点を、3つにまとめておきます。
- 計画書で引っかかるのは、中身の正しさよりも、言葉が誰のほうを向いているか
- 社長が書きたいのは「これから何になるか」、銀行が先に読みたいのは「いま、何ができるか」
- 大きく見せたぶんのツケを払うのは、銀行ではなく社長。計画は、あとで実績と突き合わされる
最初の1歩
事業計画書のなかから、方針を書いた欄だけを、もういちど読んでみる。
そこにある言葉が、誰に向けて書かれたものかを見てみてください。宛先がずれていれば、たいていは、その欄に出ています。
書きかたを直す前に、銀行がどこを見ているのかを知っておく。そのあたりのことは、無料メール講座 『銀行融資ラボ』 でも、ひとつずつお話ししています。
その計画書は、誰のほうを向いているか。よかったら、のぞいてみてください。

