個人事業主が銀行融資で気をつけるべきポイント

「個人事業主は会社よりも融資が受けにくい」といったハナシもあるようです。そこで、個人事業主が銀行融資で気をつけるべきポイントをまとめます。

目次

会社と個人事業主の違いはどこにあるのか?

銀行融資について、「会社が融資を受ける場合と、個人事業主の違いは?」と聞かれることがあります。この点、「個人事業主は会社よりも融資が受けにくい」といったハナシもあるようです。

ある銀行員の方から、「会社に比べると個人事業主の融資は少なく、不慣れな一面はある」と聞いたことがあります。そういう意味での融資の受けにくさもあるのでしょう。

以上をふまえた結論として、会社と個人事業主の違いを押さえていれば、個人事業主の融資が受けにくくなることはない。僕は、そのように考えています。実際にも、個人事業主の方をご支援するなかで、会社と比べて融資が受けにくいということはありません。

では、銀行融資を考えるうえで、会社と個人事業主の違いはどこにあるのか?おもなところでは、次の3点です。

  • 所得
  • 元入金
  • 科目明細

これらは、個人事業主が銀行融資で気をつけるべきポイントでもあります。理解することで、個人事業主であっても、より融資が受けやすくなるはずです。このあと順番に解説をしていきます。

個人事業主が融資で気をつけるべきポイント

じぶんは個人事業主なのだから、会社のことなど知らずともよい。そのような考えでいると、銀行融資が受けにくくなることがあります。会社と個人事業主の違いが、個人事業主が融資で気をつけるべきポイントになるものと心得ておきましょう。

所得

個人事業主が融資で気をつけるべきポイント、1つめは「所得」です。

会社では「利益」と呼ばれるものが、個人事業主では「所得」と呼ばれます。会社であれば、「収入−費用=利益」であり、個人事業主であれば「収入−経費=所得」です。といえば、「利益=所得」とおもわれるかもしれませんが、それは間違いだといえます。

利益が「社長の給与(役員報酬)を差し引いたあと」なのに対して、所得は「個人事業主の給与(生活費)を差し引く前」という違いがあるからです。

借入の返済原資は「利益」だといわれます。よって、会社の場合には「利益>返済」の状態にあるかどうかが銀行の関心事です。その状態であれば利益で返済ができる、返済が滞ることはないものと考えられるからです。

では、個人事業主の場合、「所得>返済」であればよいのでしょうか?前述した、所得は「個人事業主の給与(生活費)を差し引く前」との話を思い出せば、「所得>返済」であればよいわけではないことに気づけます。

個人事業主は、所得から生活費をまかなわなければならず、だとすれば、会社でいうところの利益は「所得−生活費」であることはわかるはずです。つまり、「所得−生活費>返済」の状態であることが求めらるわけです。

にもかかわらず、「所得>返済」でよいと考えていると、銀行との見方にギャップが生じて融資が受けられなかったり、融資が受けにくくなったりしてしまいます。気をつけましょう。

元入金

個人事業主が融資で気をつけるべきポイント、2つめは「元入金」です。

会社では「純資産(資本)」と呼ばれるものが、個人事業主では「元入金」と呼ばれます。会社であれば、「資産−負債=純資産」であり、個人事業主であれば「資産−負債=元入金」です。

会社の場合には、純資産がマイナスになる(債務超過になる)と銀行の評価が下がり、極端に融資が受けにくくなります。「資産<負債」の状態ですから、銀行が融資を躊躇するのも当然です。なお、純資産がマイナスになるのは、赤字(利益がマイナス)が積み重なることに依ります。

個人事業主でも赤字(所得がマイナス)になれば、元入金が減ってマイナスに近づきますが、そのようなことはあまりないでしょうし、あってはいけません。前述したとおり、個人事業主は所得から生活費をまかなわなければならず、所得がマイナスでは生活が成り立たないからです。

そのうえで、個人事業主が気をつけるべきポイントは「事業主貸」にあります。事業主貸とは、事業のおカネをプライベートで使った場合(たとえば、事業用預金を生活費として引き出した)に生じる勘定科目です。

詳しい説明は省きますが、個人事業主の経理のしくみ上、事業主貸が増えた分だけ元入金が減ります。なので、個人事業で利益(所得)が出たことで元入金が増えても、それ以上に事業用預金を生活費として引き出したりすると元入金は減るのです。結果として、融資が受けにくくなることがあります。

個人事業主は、損益計算書の所得は見ていても、貸借対照表の元入金は見ていないケースが少なくありません。銀行融資を考えるのであれば、元入金の動きにも注意しましょう。元入金は、少ないほど融資が受けにくくなり、多いほど融資が受けやすくなります。

科目明細

個人事業主が融資で気をつけるべきポイント、3つめは「科目明細」です。

会社の決算書には、「勘定科目内訳明細書」という書類が付属しています。その名のとおり、各勘定科目の内訳明細が記載された書類です。たとえば、売掛金や買掛金、棚卸資産などの内訳明細が記載されます。これにより、銀行は決算書をさらに細かく把握・分析することが可能です。

いっぽうで、個人事業主の決算書にそのような書類は付属しません。よって、銀行からすれば、個人事業主の決算書だけでは、会社の決算書ほどにはよくわからないのです。つまり、個人事業主の決算書は、銀行が融資審査をするうえでの情報が不足していることになります。

であれば、こちらから自主的に情報を補足して伝えればよいとわかるでしょう。会社の決算書に付属する「勘定科目内訳明細書」と同じように、別途、勘定科目の内訳明細をまとめます。それを、決算書とあわせて銀行に提出することで、銀行はより細かく把握・分析することが可能です。結果として融資の検討がしやすくなり、ひいては融資が受けやすくなることが期待できます。

勘定科目内訳明細書は、ネットで検索すれば様式をダウンロードできますし、税理士に相談できるようであれば尋ねてみるのもよいでしょう。

というように、個人事業主の場合には、会社に比べると情報が不足しがちです。さきほど、「生活費」という話もしましたが、銀行からしてみれば個人事業主個々の生活費などわかりません。だとしたら、生活費についてもこちらから情報提供するのがよいとわかるでしょう。

まとめ

「個人事業主は会社よりも融資が受けにくい」といったハナシもあるようです。しかし、会社と個人事業主の違いを押さえていれば、個人事業主の融資が受けにくくなることはないものと考えます。その違いをお伝えしました。

  • 所得
  • 元入金
  • 科目明細

これらは、個人事業主が銀行融資で気をつけるべきポイントでもあります。理解することで、個人事業主であっても、より融資が受けやすくなるはずです。

この記事を書いた人

1975年生まれ、横浜在住。税理士、発信者、習慣家。2016年に独立以来、きょうまでブログは毎日更新中。近年は、銀行融資支援を得意な仕事にしている。借りれるうちに借りれるだけ借りよ、が口グセ
現在は1日1万歩以上、ひと月150kmほど走る。趣味は、コーヒーとサウナ、読書、散歩、アニメ。スタバでMacがマジカッコいい!と思い続けてる
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