「借りられるときに借りられるだけ借りたほうがいい」という話があり、「いちど借りたら借り続けたほうがいい」という話があります。それらは下品だとの意見があるので深堀りします。
たしかに下品かもしれない
会社の銀行融資について。僕はふだんから、「借りられるときに借りられるだけ借りたほうがいい」という話をしています。また、「いちど借りたら借り続けたほうがいい(完済しない)」という話もしています。
これらは僕だけが言っているわけではなく、ちまたでも見聞きする「ひとつの考え方」です。その考え方に対しては、「下品だ」といった意見もあるようで、実際に僕自身がそう言われることもあります。
たしかに、「借りられるときに借りられるだけ借りたほうがいい」というのは、表現として下品なところがあるかもしれません。「いちど借りたら借り続けたほうがいい」というのも、「借りたら返すな」みたいな表現もあって、いっそう下品だとの感覚も理解はできます。
なので僕も、「もうちょっとよい言い方はないものか?」と思案をしているのが正直なところです。ただし、「下品=間違い」だとは考えておらず、「借りられるときに借りられるだけ借りる」のも、「いちど借りたら借り続ける」のも、中小企業の有意義な財務戦略だとの考えは変わりません。
また、「下品だ」とする意見のなかには、的を外しているとおもわれる意見もあります。そのあたりもふまえて、「借りたほうがいい(借りよ)」の真意をこのあと深堀りしてみましょう。
ただし的外れな指摘もある
冒頭、「借りられるときに借りられるだけ借りたほうがいい」との考え方を紹介しました。これを下品だとする(=非難・反対する)意見として、「借りることが目的化してしまう」との指摘があります。平たくいうと、「借りるために借りる、ただ借りるのは問題だ」ということです。
たしかに、ひたすら借りて散財すればタイヘンなことになるでしょう。ところが、借りること自体を真の目的として、「借りられるときに借りられるだけ借りよ」と推奨している人を、僕は寡聞にして知りません。では、借りることの真の目的は何なのか?
預金残高の最大化です(利益で預金を増やすだけでは最大化はできない)。目的は借りること(借りるために借りる)ではなく、手元のおカネを増やすのが一番の目的ということでおおむね合致している、というのが僕の理解です。少なくとも、僕はそれが目的だと考えて「借りられるときに借りられるだけ借りる」ことをおすすめしています。
なので、「借りることが目的化する」との指摘は、ちょっと的を外しているのではないか、とおもうわけです。とはいえ、そのようなご指摘を責める意図はありません。むしろ、とてもよいご指摘として受け止めています。
なぜなら、数々の指摘を受けることで注目されれば、より多くの方々の目に触れることとなり、その方々が借入について各々に考える「きっかけができる」からです。
いくら「借りられるときに借りられるだけ借りたほうがいい」とおすすめをしたところで、それを強制できるわけもなく、さいごに決断するのは社長にほかなりません。借りるも借りぬも、そこに絶対的な正誤や良否はありません。だからこそ、社長自身が決断するための材料をお伝えしたくて、僕は発信を続けています。
実践するのもラクではない
「借りよ」の目的は、預金残高の最大化だといいました。それが大事であるのは、預金が尽きたら会社は潰れるからです。この点、実際に潰れそうになったら、多くの社長は「銀行借入できないか?」を考えます。ですが、潰れそうになっている会社に融資をするような銀行などないので、対応策として「借りられるときに借りられるだけ借りたほうがいい」とお伝えしているのです。
ちなみに、「返済するには利益が必要になるではないか?」との疑問については、「そうでもない」とのアンサー記事を以前に書きました。疑問であれば、そちらもご覧いただければとおもいます。
いっぽうで、「借りられるときに借りられるだけ借りる」というのも、ラクではありません。実践するのは難しい。なぜなら、中小企業が「借りられるとき」は限られているからです。大企業のようにいつでも借りれるわけではありません。借りられるときとはおもに、利益が多いとき・預金が多いときだといってよいでしょう。
事業は山あり谷ありなので、「利益が多いとき・預金が多いとき」というのも限定的です。そのタイミングを逃すことなく借りられるかに難しさがあります。もっとも、難しくしている一番の原因は「過度な借入嫌い」であり、社長の考え方しだいです。借入できるのにしない社長もいます。
それこそ、「借入の目的=借入(つまり、借金が増える)」との考えだと、タイミングを逃すことになるでしょう。借入を増やしたくない、だから借入はできるだけしない。これは、「いちど借りたら借り続ける(完済しない)」という話についても同じことです。過度な借入嫌いの場合、とにかく完済を目指してしまうことがあります。
ところが、預金が尽きたらおしまいであり、多くの中小企業の預金は過小です。だとすれば、借りてでも預金を持つことが、「ひとまず」の財務戦略になります。借入を減らすのは預金が充分に増えてから(目安は年間売上高の半分ていど)でも遅くはありません。借りたおカネを温存している限り、実質的には無借金なのです。
いざおカネが必要になってからでは遅いと考えて、「借りられるときに借りられるだけ借りる」「いちど借りたら借り続ける(預金が充分に増えるまで)」のはどうでしょうか。
まとめ
「借りられるときに借りられるだけ借りたほうがいい」という話があり、「いちど借りたら借り続けたほうがいい」という話があります。それらは下品だとの意見があるので深堀りしてみました。
たしかに、表現として下品なところはあるものの、本質的には「中小企業の有意義な財務戦略」を語るものであり、単なる下品として切り捨てるには惜しいものがあります。どうするかをさいごに決めるのは社長ですが、「借入の目的=預金残高の最大化」も決断の材料に加えていただければとおもいます。