年間返済額と3つの目安

年間返済額と3つの目安

自社が1年間に返済している借入金の総額はいくらでしょうか?その「年間返済額」を起点にすることで、会社に必要な利益額、必要な借入額、そして危険な返済スピードが見えてきます。

目次

すべての起点となる「年間返済額」

社長は、自社が1年間に返済している銀行借入の総額(年間返済額)を、即答できるでしょうか?

多くの場合、社長が意識しているのは「月々の返済額」かもしれません。しかし、会社の資金繰り状況をより長い視点で捉え、銀行融資を戦略的に活用するためには、「年間返済額」という数字を起点として考えることが役立ちます。

なぜなら、この「年間返済額」という一つの数字から、

  • 会社が最低限稼がなければいけない「必要な利益額」
  • 会社が年間に調達すべき「必要な借入額」
  • 会社の資金繰りを圧迫する「返済スピード」

といった、経営における3つの重要な目安を導き出すことができるからです。

本記事では、この「年間返済額」を起点とした、会社の分析と目標の設定方法について解説していきます。この記事を読めば、自社の現状を客観的に把握して、銀行に対しても自信を持って説明できるようになるはずです。

この記事のポイントは以下のとおりとなります。

  • 目安1:必要な利益額
  • 目安2:必要な借入額
  • 目安3:返済スピード

「年間返済額」から見える3つの目安

それでは、具体的な3つの目安について、その計算方法と、そこから何が読み取れるのかを見ていきましょう。まずは、自社の年間返済額を計算するところから始めてみてください。

たとえば、月々の返済額が100万円なら、12倍の年間返済額は1,200万円です。

目安1:必要な利益額

考え方

銀行借入の返済は、どこから行うのでしょうか? それは、会社が稼いだ「利益」からです。より正確に言うと、税金を支払った後の利益に、実際のおカネの支出を伴わない費用である減価償却費を加えた「簡易キャッシュ・フロー」が、返済の原資となります。

簡易キャッシュ・フロー = 税引後利益 + 減価償却費

したがって、会社の「年間返済額」は、この「簡易キャッシュ・フロー」の範囲内に収まっていなければならない、というのが大原則です。

見るべきポイント

年間返済額 ≦ 簡易キャッシュ・フロー

この関係が成り立っていれば、会社は自力で返済ができている健全な状態です。

逆になっていれば(年間返済額 > 簡易キャッシュ・フロー)、それは利益から返済しきれず、会社に貯めてあった預金を取り崩しながら返済している危険な状態を意味します。

この計算をすることで、自社が「最低限稼がなければいけない利益額」、つまり、利益目標が明確になります。

目安2:必要な借入額

考え方

ここで言う「必要な借入額」とは、会社の借入総額の上限の話ではありません。「今年1年間で、あらたにいくら借りるのが理想的か」という、より戦略的な視点での話です。

このとき、「期首に、その1年間の返済予定額と同額を、あらかじめ銀行から借りておく」という考え方があります。

見るべきポイント

年間の必要借入額 = 年間返済額

たとえば、年間返済額が1,200万円の会社であれば、期首(決算月の翌月)に、銀行からあらたに1,200万円の融資を受けます。

これを実行できると、どうなるでしょうか? その年の借入返済に充てるおカネを、すべて年初に確保できることになります。

これにより、社長は「利益がトントンでも資金繰りが回る」と考えることができ、資金繰りの不安から解放されるので、安心して事業活動(経営)に専念することができます。1年分の返済原資は、すでに手元にあるのですから。

銀行にとっても、この融資は明確な意味を持ちます。年間の返済によって減少する手元資金を元に戻すためのいわゆる「復元資金」という位置づけであり、融資希望額と年間返済額が同額であることから、妥当性のある融資額とみられやすいのです。

したがって、財務状況が良好な会社であれば、銀行も前向きに検討できる計画的な借り方と言えます。

目安3:返済スピード

考え方

さいごに、会社の借金をすべて返しおわるのに、実質的に何年かかっているのか、という「返済スピード」を測ってみましょう。これは、個々の借入の契約期間とは別に、会社全体としての返済ペースを見るための重要な指標です。

見るべきポイント

実質的な返済スピード(年) = 借入金総額 ÷ 年間返済額

この計算結果が、もし「3年未満」になっているようであれば、それは危険信号です。

なぜなら、会社全体として、わずか3年足らずで借入総額を返すような、極めて速いペースで返済してしまっていることを意味するからです。これは、マラソンを短距離走のペースで走っているようなもので、会社の資金繰りを過度に圧迫し、体力を消耗させてしまいます。

このような状況は、返済期間の短い借入を複数重ねている場合に陥りがちです。個々の契約期間は5年や7年でも、それらが重なることで、会社全体としての返済負担が雪だるま式に膨れ上がってしまうのです。

もし自社の返済スピードが3年未満になっている場合は、返済ペースを緩やかにするために、複数の借入を長期の融資にまとめる「一本化(借り換え)」を銀行に相談する、といった対策も検討すべきでしょう。

まとめ

自社の「年間返済額」を把握していますか? この一つの数字を起点にすることで、会社の財務状況を多角的に分析することができます。

  1. 必要な利益額: 年間返済額は、簡易キャッシュ・フローの範囲内に収まっているか?
  2. 必要な借入額: 期首に年間返済額と同額を借りられているか?
  3. 返済スピード: 借入金総額 ÷ 年間返済額 が、3年未満になっていないか?

これらの目安と自社の現状を比較することで、社長は「もっと利益を出す必要がある」「計画的に追加融資を受けよう」「返済ペースが速すぎるかもしれない」といった、具体的な次の行動を考えることができます。

まずは、自社の年間返済額を計算するところから、始めてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

1975年生まれ、横浜在住。税理士、発信者、習慣家。2016年に独立以来、きょうまでブログは毎日更新中。近年は、銀行融資支援を得意な仕事にしている。借りれるうちに借りれるだけ借りよ、が口グセ
現在は1日1万歩以上、ひと月150kmほど走る。趣味は、コーヒーとサウナ、読書、散歩、アニメ。スタバでMacがマジカッコいい!と思い続けてる
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