会社を継がせる準備というと、株式の移転や、相続税の試算を思い浮かべるかもしれません。ですが、継ぐ側がいちばん見ているのは、もっと別のところだったりします。
「無借金」の会社なのに、後継者から「継ぐのが不安だ」と言われた。そんな話をします。
継ぐのをためらう後継者、その正体は「不安」
きょうは、そろそろ会社を誰かに継がせることを、頭の片隅で考えはじめた社長に向けて書いてみます。
先に本記事の要点からいうと…
- 後継者が継ぐのをためらうとき、その正体は、たいてい「不安」
- 無借金でも、後継者の目には「手元の薄さ」が映る。継ぐための備えは、平時に手元を厚くしておくこと
- 経営者保証は「頼むね」のお願いではなく、外せるかどうかの検討も含めて「わかる状態」をつくる
事業承継のご相談をお受けしていると、こんな場面に出会うことがあります。
継がせたい社長のほうは、準備を進めたい。でも、継ぐ側の後継者が、なんとなく二の足を踏んでいる。
後継者が渋る理由を「やる気がない」と受け取ってしまう社長も、いらっしゃいます。ですが、掘っていくと、たいていは「不安」なのですね。
会社の数字がよくわからない。借金や保証がどうなっているのかわからない。この先、じぶんでやっていけるのかもわからない。
わからないことだらけの状態で、「継いでくれ」と言われている。それは、後継者からすると、けっこう怖いことです。
継がせる準備というと、株や税金の話になりがちです。ですが、その手前に、後継者の「不安」をどう減らしていくか。ここが、意外と抜けやすいところだとおもいます。
きょうは、その「不安」を、2つの角度から見ていきます。手元のおカネと、経営者保証。実際のご相談で見えてきた景色を、順にお話しします。
無借金なのに「危ない」? 後継者の目に映るもの
まず、手元のおカネの話です。ここが、きょう、いちばんお伝えしたいところです。
あるご相談で、こんなことがありました。
その会社は、借入がほとんどありません。いわゆる「無借金」に近い、堅実な経営です。ふつうに考えれば、継ぐ側にとっても、安心材料のはずです。
ところが、後継者の方は、逆の受け取り方をしていました。
決算書と、日々の試算表。その預金残高の欄で、後継者の視線が、ふと止まる。手元に残っているおカネが、おもっていたより、ずっと薄かったのです。
「ウチの会社、実は危ないのでは?」
借入がないことよりも、預金が少ないこと。後継者の心に残ったのは、そちらのほうでした。
ここに、ひとつのズレがあります。
世間の常識でいえば、無借金は「健全」の証です。借金がない、立派だ、と。ですが、継ぐ側の目に実際に映るのは、借入の少なさではなくて、 手元の薄さ のほうだったりします。
言ってしまえば、 無借金は、社長の勲章にはなっても、継ぐ相手の安心には、そのまま直結しないことがあります 。
もちろん、借入を抑えて堅実にやってきたこと自体は、社長の誠実さのあらわれです。それを否定したいわけでは、まったくありません。ただ、「継ぐ」という場面では、少しだけ見え方が変わる、ということなのです。
正直にいうと、僕自身、昔は「無借金=堅実で立派」と、素直にそう思っていた時期があります。ですが、いくつもの会社を見てくるうちに、考えが変わってきました。
会社を潰すのは、赤字そのものではありません。手元のおカネが尽きること、つまりキャッシュ切れです。これは、僕がずっとお伝えしてきたことでもあります。
その「手元のおカネ」を、継ぐ側は、案外シビアに見ている。ここは、覚えておいて損はないはずです。
継ぐための備えは、平時に手元を厚くしておくこと
では、どうするか。
答えは、シンプルです。継がせる前に、 手元のおカネを厚くしておく 。それだけで、後継者に映る景色は、だいぶ変わってきます。
「借りられるときに借りて、手元を厚くしておく」。僕がふだんからお伝えしている考え方ですが、これは、継ぐための備えとしても、そのまま効いてきます。
継ぐ、というのは、バトンを渡すようなものです。
そのバトンが、握りやすいかどうか。手元におカネの余裕があって、会社の体力が見える状態なら、後継者は、安心してバトンを受け取れます。いっぽうで、手元がカツカツのバトンだと、受け取る手も、つい引っ込んでしまう。
もうひとつ、平時にやっておきたいのが、銀行との関係を整えておくことです。
いざ継ぐ、というときに、銀行との関係が不安定だと、それだけで後継者の不安が増します。逆に、ふだんから銀行と良い関係を築けていれば、それ自体が、継ぐ側にとっての安心材料になります。(このあたりは、以前の記事でも触れました)
派手さはありませんが、手元を厚くしておくことは、後継者の「不安」を、静かに減らしてくれます。
経営者保証は、「頼むね」ではなく「わかる状態」から
もうひとつの不安が、経営者保証です。
いま社長個人が背負っている経営者保証。これを継ぐ、というのは、後継者にとって、なかなか重い話です。
「会社を継ぐ」だけでも大きな決断なのに、そこに「借入の保証人になる」がくっついてくる。じぶんの家や、家族の生活まで、担保に差し出すような感覚を持つ方も、いらっしゃいます。
ここで、社長が「まあ、頼むよ」とだけ言って渡してしまうと、後継者の不安は、そのまま残ります。中身がわからないまま、重いものだけを受け取る格好になるからです。
あるご相談では、社長が、こんな進め方をされていました。
後継者に、経営者保証を「そのまま引き受けてくれ」とお願いするのではなく、まず、後継者を育てるための時間を、継続的に取ったのです。具体的には、定期的な1on1でした。
そのなかで、会社の数字の見方を、少しずつ共有していく。いま、どれくらいの借入があって、どういう条件で、どう返しているのか。そして、その保証は、そもそも外せる余地はないのか。ここまで含めて、いっしょに検討していきました。
いまは、経営者保証に頼りすぎない融資に向けて、制度や金融行政の側も動いてきています。
たとえば、「経営者保証に関するガイドライン」では、法人と個人のおカネの分離、財務基盤の強化、銀行への適時適切な情報開示、といった要件が示されています。これらを満たしていくことで、保証を外せたり、軽くできたりする可能性があります。
また、2026年5月には、「事業性融資の推進等に関する法律」(事業性融資推進法)が施行されました。会社の事業そのものの将来性に着目した融資を、後押ししていこうという流れです。
(制度の細かい扱いや、じぶんの会社が当てはまるかどうかは、最新の公式情報や、個別の状況でご確認くださいね)
ですから、「保証を継ぐ」の前に、「その保証、そもそも要るんだっけ?」を、いちど検討してみる余地があります。
こうして1on1を重ねていくと、後継者は、保証の中身を、じぶんの言葉で理解していきます。外せるならどうするか、引き継ぐならどういう意味を持つのか。わかったうえで、判断できる。
「理解を求める」というのは、実は「理解してくれ」とお願いすることではなくて、 「理解できる状態を、いっしょにつくる」 ことなのだとおもいます。
丸呑みしてもらうのではなく、納得して継いでもらう。遠回りに見えて、ここがいちばんの近道だったりします。
まとめ
きょうは、無借金の会社なのに、後継者から「継ぐのが不安」と言われた、という話を入り口に、継ぐための備えについて書いてきました。
株や税金の準備も、もちろん大事です。ですが、後継者がいちばん最初に知りたいのは、たぶん、そこではありません。「この会社を継いで、じぶんは、やっていけるのか」。その問いに答えるのが、手元のおカネと、保証の見える化なのだとおもいます。
要点を、3つにまとめておきます。
- 後継者が継ぐのをためらう正体は、たいてい「不安」。継がせる準備は、株や税金だけの話ではない
- 無借金でも、後継者の目には「手元の薄さ」が映る。継ぐための備えは、平時に手元を厚くしておくこと
- 経営者保証は「頼むね」のお願いではなく、外せるかどうかの検討も含めて「わかる状態」をいっしょにつくる
最初の1歩
じぶんの会社を、いちど「継ぐ側の目」で眺めてみる。
いまの預金残高と、渡そうとしている保証の中身を、後継者になったつもりで見てみる。「これ、渡されたら不安かもしれないな」という箇所が、案外いくつか見つかるかもしれません。
継ぐための備えは、結局のところ、日ごろの資金繰りと、銀行との関係づくりの、延長線上にあります。
その入口として、無料メール講座 『銀行融資ラボ』 をお届けしています。
手元をどう厚くして、銀行とどう付き合っていくか。継ぐ日の、ずっと手前から、いっしょに考えていきます。よかったら、のぞいてみてください。

