税理士は、融資相談が来てから動くだけでいいのか

税理士は、融資相談が来てから動くだけでいいのか

顧問先の数字を、毎月見ている。それなのに融資の話は「相談が来てから」。
実は、そこに税理士にしかできない動き方があるのではないか。という話をします。

目次

相談が来たときには、すでに遅いことがある

税理士が顧問先の融資相談に関わるとき、その動き出しがいつになるかで、結果はずいぶん変わってきます。そのことについて、あらためて整理してみます。

先に本記事の要点からいうと…

  • 社長が「融資を受けたい」と駆け込んできたときには、すでに遅いことがある。融資には時間がかかるから
  • 会社が急ぎであればあるほど、銀行は貸したくなくなる。これはひとつの傾向として押さえておきたい
  • 税理士は、顧問先の数字を継続的に見ている。だからこそ、社長より先に「シグナル」に気づける立場にある

こんな場面があります。

ある顧問先の社長から、ふいに融資相談を受けた日がありました。

話を聞いてみると、あと1〜2か月で資金ショートが見える状態。「とにかく、すぐに借りたい」という相談です。

ただ、すぐに借りるというのは、そう簡単ではありません。
銀行に書類を出して、審査があって、決裁があって、実行があって…
スムーズにいっても数週間から1か月、場合によってはそれ以上かかることもめずらしくない。

このときは、資金繰り表と経営計画書を急ぎで作って、銀行に説明に上がりました。
書類を抱えて支店の応接室に足を踏み入れたときの、あの静まりかえった空気は、今でも忘れられません。

結果として、借りることはできました。

でものちに、この社長に僕がお伝えしたのは、 「運が良かった」 ということ。
そして取り組み始める前には、「借りられないかもしれません」という話も、先にしていました。

間に合ったのは、たまたまです。

正直なところ、安堵より先に「もっと早く動けた話だったのではないか」という後味の悪さが残りました。

会社が急いでいるほど、銀行は貸したくなくなる

ここで、もうひとつ押さえておきたい話があります。

会社が急ぎであればあるほど、銀行は貸したくなくなる

銀行の立場になって考えてみれば、そうなるものです。

手元のおカネが薄くなりかけている会社。
あと1〜2か月で資金ショートが見えている会社。

そういう相手に「今すぐ貸してください」と言われたら、銀行はどう見るでしょうか。
「いま貸して、本当に返ってくるのだろうか」という目で見ても、おかしくありません。

社長の側の感覚と、銀行の側の感覚は、どうしても逆向きに動きやすいものです。
社長は「急ぎだから貸してほしい」、銀行は「急ぎだから貸しにくい」。

実は、社長の側には、もうひとつ誤解が入り込んでいます。

「借りる → 返済負担が増える → より苦しくなる → だから借りない」。
この筋道を、あたりまえのように持っている社長は少なくありません。

でも、本質は逆なのですね。

おカネに余裕があるうちに借りておけば、アタマが空きます。
資金繰りに追われる時間が減れば、経営に集中しやすくなる。その結果として、事業を立て直す余地も生まれます。
借入は、苦しくなるための選択ではなく、社長が本業に戻るための最初の一手になりうるものです。

ただ、この話を社長がみずから気づいていないこともあります。
おカネが潤沢にあるときに、借入のことを考える社長は多くないのですね。

だからこそ、誰かが先に言ってあげる必要があります。

税理士は、誰より早くシグナルを知っている

では、誰が先に言うのか。

顧問先にもっとも近い位置で、会社の数字を継続的に見ている人。
それは、税理士ではないでしょうか。

月次の試算表を見ていれば、預金残高がどう動いているかは、すぐにわかるものです。
借入残高もわかる。売上の傾向も、利益の動きも、目の前にある。

社長よりも早く「このままだと、半年先には手元が薄くなりそうだな」という気配をつかめるのは、税理士の立場ならではだとおもいます。

シグナルは、そんなにむずかしくありません。

  • 預金残高が、月を追うごとに目減りしている
  • 借入がほとんどない、あるいはその残高が少ない
  • 季節要因や設備更新など、先々で大きな支出が見えている

こういう兆しが見えたとき、社長自身はまだ気づいていないことが多いもの。
なぜなら、社長は目先の預金残高に目を奪われているから。将来の預金残高に目を向けづらいのです。

実をいうと、僕も銀行融資支援を始める前には、同じような場面を何度か見てきました。

数字では見えていた。
預金が薄くなっていく様子も、借入が少ないことも、目の前にあった。

でも「相談が来てから動くのが税理士の仕事」だと、どこかで思い込んでいたのかもしれません。

結果として、社長が「もう借りるしかない」という状態で駆け込んできて、そこから慌てて動く。
いま思えば、もっと早い段階でひとこと伝えられていれば、社長も会社も、もっとラクだったはずです。

待つのか、言うのか

相談が来るのを待つのか。
それとも、先に言うのか。

この一歩の違いが、顧問先にとって大きな差を生むことがあります。

待つ姿勢だと、顧問先は「急ぎの融資」に追い込まれやすい。
そして、急ぎの融資は、さきほども書いたとおり、銀行からすればいちばん貸しにくい相手になります。

いっぽうで、先に言える姿勢でいれば、顧問先は「平時の融資」を選べる。
平時であれば、銀行は話を聞いてくれやすいですし、条件もそろえやすい。

同じ顧問先でも、税理士が「待つのか、言うのか」で、融資の風景はずいぶん違ってきます。

これは、特別なスキルの話ではありません。
数字は、もう見えている。
あとは、ひとこと言うかどうか、の違いです。

「いずれ借りるつもりなら、今借りましょう」

では、どう切り出すか。

僕がよく使う言い回しは、この2つです。

  • 「借りられるうちに借りましょう」
  • 「いずれ借りるつもりなら、今借りましょう」

このどちらかを、月次決算のタイミングで伝えてみる。
それだけで、社長のアタマには「融資」という選択肢が残ります。

「借りなきゃダメですよ」でも、「借りたほうがいいですよ」でもない。
「借りられるうちに借りる」「いずれ借りるなら今」という、 時間軸の話として提示する

ここがポイントだと感じています。

「借りる・借りない」の善悪の話にしてしまうと、社長は身構えるものです。
でも「いつ借りるか」の話にすれば、考えるテーブルに載せやすくなります。

社長が一度「ああ、そういう選択肢もあるのか」と感じられたら、それでじゅうぶん。
そこから先は、社長自身の決断に任せればいいのです。

だとすれば、ハードルは、実はそんなに高くありません。
税理士がひとこと、タイミングよく伝えられるかどうかの話なのです。

まとめ

税理士が先に言える立場にある、というテーマで書いてきました。

要点をまとめてみます。

  • 社長が「融資を受けたい」と駆け込んでくるときには、もう遅い場面が多い。会社が急ぎであればあるほど、銀行は貸したくなくなる
  • 税理士は、顧問先の数字を継続的に見ている。だから社長よりも先に「シグナル」に気づける立場にある
  • 切り出しは「借りられるうちに借りましょう」「いずれ借りるつもりなら今借りましょう」のひとことでじゅうぶん。善悪ではなく、時間軸の話として伝える

最初の1歩

  • 顧問先をひと社だけ思い浮かべて、次の月次決算のタイミングで「いずれ借りるつもりなら今借りましょう」と一言伝えてみる

融資相談対応は、社長から来てから動くものだとばかりおもっていた時期が、僕にもありました。

でも、数字を見ているじぶんが先に言えるのなら、顧問先はずっとラクになる。
そう感じるようになってから、融資相談対応の風景が、じぶんの中で変わっていきました。

「ひとこと伝えた先に、どう相談を受ければいいのか」まで学びたいと感じた方は、顧問税理士のための融資相談対応 実務キットをのぞいてみてください。

この記事を書いた人

1975年生まれ、横浜在住。税理士、発信者、習慣家。2016年に独立以来、きょうまでブログは毎日更新中。近年は、銀行融資支援を得意な仕事にしている。借りれるうちに借りれるだけ借りよ、が口グセ
現在は1日1万歩以上、ひと月150kmほど走る。趣味は、コーヒーとサウナ、読書、散歩、アニメ。スタバでMacがマジカッコいい!と思い続けてる
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