「金利が上がるので、できるだけ借りないほうがいいですよね」
社長からそう聞かれたとき、僕の中には、いつもひとつ別の物差しがあります。金利の上下は、誰にも予測できない。だからこそ備える、という話をします。
「金利が上がるので、借りないほうがいいですよね」と言われて
先日、スポット相談で、こんな言葉をいただきました。
年商数億円規模の中小企業の社長です。
「金利、上がってきましたよね。うちはこれ以上、借りないほうがいいですよね」
僕は、いったんその言葉を受け止めました。
「うんうん、たしかに金利、上がってきましたもんね」
そのうえで、ひと呼吸おいて、社長の目を見てから、本気で返しました。
「ただ、 余計なおカネを持つことが、会社の備えになる という側面もあるんですよ。利息を払ってでも持つ、という姿勢は、銀行との関係を強くする材料にもなったりするんですよ」
社長は、ちょっと意外そうな顔をされていました。
「金利が上がってるのに、それでも借りるんですか」と。
その表情を見ながら、僕の中に、もういちど確かめておきたい問いが浮かびました。
「上がるから借りる」も「上がるから借りない」も、 どちらも金利の予測で動いているのではないか 、と。
予測の上で動くと、予測が外れた瞬間に、判断ごと足元から崩れます。
だとすれば、別の入り口があるはずなのですね。
本記事では、この社長との会話を入り口に、 「予測しない」という姿勢からはじまる備えのかたち を、いっしょに考えてみたいとおもいます。
先に本記事の要点からいうと…
- 「金利が上がるから、借りない」は半分正論で、半分は違うかもしれない。動くなら、別の物差しがあったほうがいい
- 金利の上下は、専門家でも予測しきれないもの。予測の上で動くと、予測が外れた瞬間に判断ごと崩れてしまう
- 平時の備えとは、 「いつ金利が上がっても揺れない」 状態を、ふだんから整えておくこと
金利の上下は、誰にも予測できない
ここでひとつ、僕がふだん感じていることを、お話しさせてください。
金利の動きを、ピタリと言い当てられる人。
これは、専門家でも、なかなかむずかしいのではないでしょうか。
エコノミストやアナリストの予測も、よく見ていると、ぜんぶ当たっているわけではありません。
「来年は上がる」と言われたのに横ばいだった年もあれば、「もう打ち止め」と言われた直後に上がった年もあります。
これは、専門家を批判したい、という話ではありません。
金利は、国内の景気、海外の金利、為替、政策判断、いろいろな要素が絡みあって動きます。だから、 「これだけ見れば当たる」という物差しは、たぶん、存在しないのですね 。
そこで、社長の判断に話を戻してみます。
「金利が上がるから、借りない」
これは、上がる、という予測の上で動いている判断です。
ですが、もし金利が上がらなかったとしたら?
あるいは、いったん上がっても、しばらくして下がっていったとしたら?
予測の上で組み立てた判断は、予測が外れた瞬間に、土台ごと崩れます。
「あのとき、借りておけばよかった」
そういう声を、僕は、これまで何度か聞いてきました。
だから、僕の中ではこう整理しています。
予測の上で動くのではなく、 予測しないでも揺れない状態を、ふだんから整えておく 。
これが、平時の備えの本質なのではないか、と。
「上がる/下がる」のニュースに反応するクセそのものを、いちど横に置いてみる。
そこから見えてくる景色が、たしかにあるのですね。
「上がる前に借りる」と「平時に備える」は、似て非なるもの
ここで、正直に書いておきたいことがあります。
僕自身も、ふだんから「金利が上がる前に、借りておいたほうがいい」とお伝えすることはある。
過去のブログでも、そう書いてきました。
「いやいや、それって結局、金利の予測で動いてるじゃない?」
そうおもわれる方もいらっしゃるかもしれません。
僕の中では、ここに線が引いてあります。
「金利が上がるから借りる」
「金利が下がっているから借りない」
これはいうなれば、「予測駆動の判断」です。
いっぽうで、僕がふだんお伝えしているのはこうです。
「金利の上下に関係なく、借りられるときに借りられるだけ借りておく」
これは、予測駆動ではありません。
平時の備えの、ひとつのかたちとして位置づけているものなのですね。
金利が上がる局面で「上がる前に借りる」をお勧めすることはあります。
ですが、それは「上がる前」だから借りるのではなく、 「いま、借りられる状態だから借りておく」 という、平時の備えの延長としてです。
ことばヅラでは、似ています。
ですが、土台がちがう。
たとえてみると、こういうことなのですね。
雨が降ってきてから、コンビニに駆け込んでビニール傘を買う。これはこれで、ひとつの方法ではあります。
ですが、毎回そうしていたら、出費も手間もかかりますし、大雨の日にはコンビニから売り切れている、ということも起こりうるのです。
いっぽうで、毎朝、鞄の中に折りたたみ傘を入れておく。
こちらは、 天気予報に依存していません 。降っても、降らなくても、いつも変わらず、ただ鞄の中に入っている。
だから、雨が降ってきたときに、慌てないですむ。それだけのことなのです。
「金利が上がるから借りる」は、雨が降ってからコンビニに走るやり方に、すこし近いのかもしれません。
「金利の上下に関係なく、借りられるときに借りておく」は、毎朝、鞄に折りたたみ傘を入れておくやり方に近いのですね。
予測駆動の判断は、予測が外れた瞬間に崩れます。
平時の備えは、金利が上がっても、下がっても、横ばいでも、 会社の足元におカネが残る という事実だけが残ります。
似て非なるもの、というのは、こういうことです。
「余計なお金」は、無駄じゃなくて備え
「とはいえ、必要以上におカネを借りたら、利息がかかってしまいます」
そうおもわれるのも、当然のことです。
社長視点で見ると、たしかに、利息は減らしたいコストです。
余計なおカネを持っていれば、その分、毎月の利息も増えていきます。
だから「余計なおカネは持たないほうがいい」
これは、社長の合理として、ひとつの筋が通っています。
ですが、いちど立場を変えて、銀行のほうから眺めてみると、見え方がぐるりと変わるのですね。
銀行が見ているのは、いまの利益だけではありません。
ほんとうに見ているのは、 手元資金の厚み です。
万が一のときに、ちゃんと返せる原資が、社長の会社にどれだけ残っているか。
ここが薄いほど、銀行は不安を感じます。
ここが厚いほど、銀行は安心して付き合えます。
つまり、社長視点では「余計なおカネ」に見えるものが、銀行視点では「会社の体力」として見えている、ということなのです。
体力には、維持コストがかかります。
人間でも、ジムに通えばおカネがかかりますし、毎日歩くにも時間がかかります。
それでも、 体力を維持しておくこと自体に意味がある 、と僕たちは知っているはずです。
会社のおカネも、同じなのですね。
利息は、体力の維持コスト。
払うからこそ、いざというときに動ける足が、ちゃんと残ります。
社長から見れば、「余計なおカネ」。
でも、銀行から見れば、「余白のおカネ」。
その余白が、会社を、ちゃんと守ってくれることがあるのですね。
「余計なおカネ」は、無駄ではなくて、 会社の余白 なのです。
金利を払ってでも持つ姿勢が、銀行との関係を強くする
もうひとつ、社長にお伝えしておきたい話があります。
利息を払ってでも、手元資金を厚く保っておく。
この姿勢を、銀行員は、ちゃんと見ています。
「目先の利息より、いざというときの備えを優先している社長だ」
「資金繰りを、長い目で組み立てている社長だ」
こういう見立ては、数字だけで決まるものではありません。
社長の姿勢から、立ち上がってくるものなのですね。
そして、こうした姿勢は、銀行の中で、稟議の温度に効いてきます。
銀行の中で、「この会社なら、前向きに考えたい」とおもってもらいやすくなる、ということなのですね。
いざ追加の融資が必要になったとき、「あの社長なら」と前向きに動いてもらえる確率が、たぶん、変わってきます。
もうひとつ、忘れたくないのは。これは、精神論だけの話ではない、ということです。
銀行にとって、利息をちゃんと払ってくれる会社は、立派なお客さまです。
関係性が強くなるのは、姿勢の見立てだけではなく、 おたがいが商売としてつながっている という、それだけシンプルな事実でもあるのですね。
「借りられるときに借りられるだけ借りておく」
僕じしん、お客さまには、ふだんからこのスタンスをお伝えしています。
もちろん、これは「無計画に、いくらでも借りればいい」という話ではありません。
返済原資が見えていること。
毎月の返済が、資金繰りを圧迫しすぎないこと。
借りたおカネを使い切るのではなく、手元資金として残しておく前提であること。
このあたりを外してしまうと、備えのための借入が、かえって会社を苦しくすることもあるのですね。
だからこそ大事なのは、「金利が上がるか下がるか」ではなく、 いまの会社に、どれくらいの手元資金があれば揺れにくいのか を見ておくこと、なのです。
社長視点だけで見ると、暴論に聞こえるかもしれません。
じぶん自身も、ときどき「言い過ぎかな」とおもう瞬間が、なくはないのです。
ですが、銀行の物差しに乗せた瞬間に、この姿勢は、 「揺れない会社をつくるための、いちばん地に足ついた備え」 に変わります。
予測しない、ということは、何もしない、ということではありません。
むしろ、予測しないからこそ、平時にちゃんと整えておく。
そういう、静かな備え方なのですね。
まとめ
きょうは、「金利が上がるなら、借りないほうがいいですよね」という社長の問いを入り口に、 「予測しない」という姿勢からはじまる備え について、書いてきました。
要点を、3つにまとめておきます。
- 金利の上下は、誰にも予測できない。予測の上で動くと、外れた瞬間に判断が崩れる
- 「上がる前に借りる」は予測駆動ではなく、平時の備えの一環としてはじめて意味を持つ
- 「余計なおカネ」は無駄ではなく、会社の体力。金利を払ってでも持つ姿勢が、銀行との関係を強くする
最初の1歩
いまの会社の手元資金(現預金)が、月商の何か月分にあたるか。いちど、ノートに書き出してみていただきたいとおもいます。
「これだけあれば、何か月は生き延びられる」
そう言える数字が手元にあるだけで、金利のニュースに反応する温度が、すこし変わるのではないでしょうか。
「うちは、借りたほうがいいのか。借りないほうがいいのか」
そう迷ったときに、まず見ておきたいのは、手元資金と返済の重さなのかもしれません。
その整理から、いっしょにはじめたい社長へ、無料メール講座 『銀行融資ラボ』 をお届けしています。
「予測しない、という備え」を、ふだんの判断にどう落としていくか。
ラボの中でも、地続きで考えてみたいテーマです。
よかったら、入口として使ってみてください。

