決算書を見て、「交際費、多いですね。減らしましょう」と言われたことはないでしょうか。
ありがちな指摘ですが、それは社長の状況によって、まったく意味が変わります。
おカネの使い方は、外からものさしを当てるものではなく、社長の文脈で見るもの。今回は、そんな話をします。
「交際費、多いですね」と言われたら
決算書ができあがったあと、税理士から「交際費が多いですね。少し減らしましょう」と言われた経験はないでしょうか。
数字だけを見れば、たしかにそのとおりに見えます。
利益が削れていくのが目に見えますし、銀行から「使いすぎでは」と思われそうな雰囲気もあります。
ですが、いつもそれが正解なのかというと、僕の現場感覚はちがいます。
先に、本記事の要点からいうと、こうなります。
- 同じ「交際費が多い」でも、ある社長にとっては戦略、ある社長にとっては痛みになります
- どちらに当てはまるかを決めているのは、金額の大小ではなく、社長の文脈です
- 一般論で「減らしましょう」と言うと、社長の戦略まで一緒に削ってしまうことがあります
「交際費は減らしたほうがいい」というのは、一見、もっともらしい話。
でも、それを社長の手元に、ぽんと置きにいく前に、ひとつ立ち止まりたい場面があります。
戦略になっている交際費、痛みになっている交際費
ふだんから社長のおカネの使い方を横で見ていると、おなじ「交際費が多い」でも、まったく性格が違うケースに出会います。
ひとつは、 戦略になっている交際費 。
会食、ゴルフ、飲み会。
外から見ると遊んでいるように映ります。
でも、そこから新しい仕事の話が出てきます。
「あの席で紹介してもらった会社と、こんな案件になった」
「ゴルフで一緒だった社長から、また相談がきた」
そういう話を、いくつもいくつも聞いてきました。
その社長にとって、交際費は、ただの遊びではありません。
そこは商談の場で、信頼を積む場で、ひとつのマーケティングです。
もうひとつは、 痛みになっている交際費 。
金額としてはおなじくらいなのに、仕事には、あまりつながっていません。
本人もうすうす気づいていて、それでも、なかなか止められない。
誘われると、断り切れない。
そういう場合は、おカネが出ていくだけになっています。
キャッシュが薄くなり、社長自身のカラダの疲れにもつながっていきます。
おなじ「交際費が多い」でも、性格はぜんぜんちがう。
これが、決算書の数字だけでは見えないところです。
外からものさしを当てると、どうなるか
ここで、ありがちなのが「とにかく交際費は減らしましょう」という一般論です。
たしかに、痛みになっている社長には、それで効くかもしれません。
ですが、戦略として使っている社長に同じことを言うと、どうなるか。
仕事が、減ります。
その社長にとっての商談の場、信頼を積む場、つまりマーケティングの場を、根っこから削ってしまうことになります。
しかも、こわいのはここからで。
外からものさしを当てられた社長は、たいてい、すぐには反論しません。
「そうですよね」と受け止めて、それから少しずつ、税理士と距離を置きはじめます。
「この人は、ウチの事情を見ていないな」
そう感じた瞬間に、相談される回数が静かに減っていく。
そういう景色を、僕は同業の現場でも、何度か見てきました。
数字だけ見て一般論を当てるのは、たぶん、 「半分の仕事」 で止まっているのですね。
AIに数字を見せても、文脈までは見えない
最近では、AIで数字をチェックする仕組みも、少しずつ増えてきました。
仕訳の異常検知、勘定科目ごとの一般的な目安との比較、前月や前年との変動アラート。
便利な部分は、たしかにあります。
ですが、ここでも、構造はおなじだとおもうのです。
AIは、決算書の数字を読みます。
そして、世の中の一般的な目安と比べて、はみ出した数字に、アラートを鳴らします。
「交際費の比率が、業種平均より高くなっています」
「先月と比べて、急増しています」
そういうものが、画面の右上に、ぽこぽこと出てきます。
でも、AIには、その裏にある社長の思いや、これまで積み上げてきた文脈までは、見えないのですね。
ゴルフの席で何が動いていたのか、会食で誰とどんな話をしたのか、その関係がこれからどんな仕事につながっていくのか。
そこは、数字だけを見せたAIには、まだ見えてこないところです。
ですから、アラートが鳴ること自体は、たぶん、悪いことではない。
「ちょっと、見てみようかな」と気づくきっかけにはなります。
ただし、そのアラートを、そのまま「減らしましょう」に直結させてしまうと、結局、外からものさしを当てているのと、おなじことになってしまいます。
AIのアラートは、 結論ではなく、入口 。
そこから、社長の文脈で翻訳する作業が、まだ残っているわけです。
そして、その翻訳役は、ぜんぶ自動化される類の仕事ではないとおもっています。
社長が、まず言葉にしたいこと
税理士や銀行から「交際費、減らしましょう」と言われたとき、社長もすぐに「そうですね」と受け止める必要はないとおもうのです。
その「多い」が、自社にとって何なのかは、社長にしか、わかりません。
戦略になっているのか、痛みになっているのか。
それを決めているのは、決算書の数字ではなく、社長の文脈のほうです。
正直に言うと、僕自身も、以前は「減らしましょう」を反射的に言いそうになっていた時期がありました。
決算書のページをめくっているとき、交際費の数字に指が止まる。
顧問料をいただいているから、何か気のきいたことを言わなきゃ、という気持ちもあったのです。
でも、そこで言葉を、いちど飲み込むようになってから、わかったことがあります。
社長は、聞かれれば、整理できる。
聞かれないと、整理する場が、ないだけだ、と。
ですから、税理士や銀行から評価を渡される前に、社長のほうから、こんなふうに問い直してみる。
- そのおカネを、何のために使っているのか
- その先に、どんな仕事や関係がつながっているのか
- いまの使い方に、じぶんなりの納得感はあるのか
数字に当てるのは、ものさしではなく、社長自身の言葉。
そのほうが、結果として、社長の手元に残るものが変わってきます。
「減らしましょう」を、文脈の話に変える
聞いていくと、社長自身が、整理されてくる場面があります。
戦略として効いているとわかれば、「では、その流れをもっと活かしましょう」という話になります。
逆に、噛み合っていないとわかれば、社長のほうから「ちょっと、見直したいかもしれません」と言ってくれることもあります。
そのとき、僕が言うのは、「交際費は減らしましょう」ではありません。
「いまの社長の状況と、ちょっと噛み合わなくなってきているのかもしれませんね」
そういう言い方になります。
減らすか・減らさないかを、外から決めるのではなく、社長の文脈の中で、自然と次の一歩が見えてくる状態をつくる。
社長は、案外、じぶんで気づきます。
聞いてもらえれば、整理してもらえれば、ちゃんと判断できます。
税理士の仕事は、答えを置きにいくことではなく、その判断ができる状態を、横で整えることなのかもしれません。
まとめ
社長のおカネの使い方に、外からものさしを当てないこと。
それが、ふだんから現場で感じてきた、僕なりの作法です。
要点をまとめると、こうなります。
- 同じ「交際費が多い」でも、戦略になっている社長と、痛みになっている社長がいる
- どちらかを決めているのは、金額の大小ではなく、社長の文脈
- 「減らしましょう」と外から言う前に、社長の言葉を聞いてから、いっしょに整理していく
戦略か、物語か。
そういう二択で測れるほど、社長のおカネの使い方は、薄っぺらいものではありません。
最初の1歩
今度、税理士や銀行から「この支出、減らしたほうがいい」と言われたら、すぐに「そうですね」と受けずに、その支出が仕事につながっているのか・じぶんが納得して使えているのかを、いちど、じぶんの言葉にしてみる。
そこから、本当の見直しが始まるのではないかとおもいます。
おカネの使い方や資金繰りについて、もう少し深く整理してみたい方は、よろしければ個別相談ものぞいてみてください。
社長の文脈を、いっしょに見ていく時間にできたらとおもいます。

