事業性融資推進法で変わること、20年以上変わらないこと

事業性融資推進法で変わること、20年以上変わらないこと

2026年5月25日、事業性融資推進法が施行されます。
新しい融資の選択肢として注目されてはいるものの、いまの段階では、まだ社長の現場には届いていない印象です。
新しい制度に目を向けるのは大事。ただそれ以上に、変わらない本質のほうこそ見ておきたい、という話をします。

目次

5月25日施行。でも、まだ社長の現場には届いていない

事業性融資推進法によって、「企業価値担保権」という新しい仕組みが使えるようになります。
不動産担保や経営者保証に過度に依存せず、事業の将来性に着目した融資を後押しするための制度です。

ただ、これは突然あらわれた新制度ではありません。
20年以上続いてきた「事業を見て融資する」という流れの、いちばん新しいピースです。

だから、新しい制度の中身に入る前に、いま起きている「情報の空白」のほうから、先に見ておきたいとおもいます。

先に本記事の要点からいうと…

  • 事業性融資推進法(企業価値担保権)の施行は2026年5月25日。ただ、税理士・社長・銀行ともにまだ準備段階で、情報が行き届いていない
  • これから施行が近づくにつれ、必要以上の煽りも混ざってくる可能性がある
  • だからこそ、まず「制度の何が変わって、何が変わらないのか」を社長みずから整理しておきたい

事業性融資推進法。
名前を聞いたことのある社長は、まだそれほど多くないかもしれません。

僕も、顧問先の社長にこの制度の話をしてみたことがあります。
返ってきたのは、「で、それ、うちに関係あるんですか?」という反応でした。
いまはまだ、そういう温度感です。

理由のひとつは、伝える側の問題でもあります。
税理士のあいだでも、この制度の中身まで理解している人は、それほど多くないでしょう。
わからないから伝えない。伝わらないから、社長にも届かない。そういう連鎖になっているのですね。

銀行側もまだ準備段階にあるものとおもわれます。
営業店レベルでは「これから」という現場が多く、社長の側から聞いても、踏み込んだ説明はなかなか返ってこない、という状況です。

いま出ている情報は、金融庁や法務系の解説が中心で、社長が自社に引き寄せて考えられる情報は、まだ多くありません。
ただ、施行日が近づくにつれて、情報そのものは確実に増えていくはずです。
そのなかには、必要以上の煽りも、たぶん混ざってきます。

だからこそ、いまのうちに、社長みずから 本質 を押さえておきましょう。
新しい制度に踊らされない準備、と言ってもいいかもしれません。

正直なところ、僕自身もこの制度を顧問先にどこまで深く伝えていくか、まだ決めかねているところがあります。
それでも、こうして書いているのは、本質の話だけは早めに共有しておきたいからです。

事業性融資推進法とは何か

ここで、制度の中身を最低限だけ確認しておきます。

事業性融資推進法は、2026年5月25日に施行される法律です。
この法律に基づいて、「企業価値担保権」という新しい仕組みが使えるようになります。

ざっくり言うと、不動産担保や経営者の個人保証に過度に依存するのではなく、会社の事業全体を見て融資を受けやすくするための仕組みです。

企業価値担保権の担保目的財産は、 会社の総財産 です。
その評価にあたっては、ノウハウや顧客基盤、ブランドや知的財産、将来キャッシュフローといった、これまで見えにくかった事業の価値も見られていくことになります。

対象は、株式会社や持分会社。個人事業主は対象外です。

と、ここまでが概要。
このあと、何が変わって、何が変わらないのかを、順に見ていきます。

何が「変わる」のか

変わることは、大きく3つです。

1つめは、融資の選択肢が1つ増えること。
これまで、中小企業の融資といえば、不動産担保+個人保証というかたちが中心でした。そこに、事業全体を担保にする道が、新しく加わります。

2つめは、無形資産が担保評価の対象になること。
ノウハウ、顧客基盤、ブランド、知的財産。これまでは「あるけど評価されにくかったもの」が、評価の対象として位置づけられるようになります。

3つめは、 経営者保証に頼らない融資につながる可能性 があること。
企業価値担保権を活用する場合、粉飾などの例外を除いて、経営者保証の利用は制限される仕組みになっています。
事業承継のたびに後継者が個人保証を背負ってきた、という構図に対しても、ひとつの選択肢になりうるわけですね。

ここだけ見ると、たしかに大きな変化です。
ただ、変わらない部分のほうも、ちゃんと見ておきましょう。

何が「変わらない」のか

変わらない部分のほうが、実は大事です。

1つめ。
銀行が「事業を見て判断する」という構造そのものは、変わりません。
担保のかたちが変わるだけで、銀行が見るのはやはり、その会社の事業がどう回っていて、これからどう伸びていくのか、というところです。

2つめ。
社長が「自社を語れる」必要があること。
担保が事業全体になるということは、事業の中身を説明できないと、評価のしようがないということでもあります。むしろ、語る力はこれまで以上に問われます。

3つめ。
精度の高い利益計画と、それに連動した資金繰り計画が土台になること。
これは新しい話ではありません。融資の場面で、ずっと言われてきたことです。

そして、これがいちばん大切なのですが。
日常の融資、つまりプロパー融資や保証協会付きの融資といった融資の基本構造は、企業価値担保権ができたからといって、置き換わるわけではありません。

中小企業にとって、 ふだん使う融資が劇的に変わる、という話ではない のですね。

つまり、企業価値担保権は「これからの融資の全部」ではありません。
あくまで、事業の将来性に基づく融資を後押しするための、新しい選択肢のひとつです。

だからといって、無視していい話でもありません。
新しい制度ができたという事実そのものより、その背景にある「変わらない本質」のほうを、社長は見ておきましょう。

本質は「事業性評価」。20年以上前から変わっていない

ここで、少し時間軸を広げてみます。

企業価値担保権は、突然ふってわいた制度ではありません。
20年以上続いてきた流れの、いちばん新しいピースです。

ざっと並べてみます。

  • 2003年:リレーションシップバンキング(リレバン)の提唱
  • 2014年:経営者保証ガイドラインの適用開始
  • 2014年:事業性評価に基づく融資の推進
  • 2026年:企業価値担保権の施行

並べてみると、見えてくるものがあります。

一貫しているのは、「決算書や担保ありきではなく、事業の将来性を見ようとする」という方向性です。
これを 事業性評価 と呼びます。

不動産担保や個人保証に依存した融資から、もう少し事業そのものを見にいく融資へ。
この方向に、20年以上かけて少しずつ動いてきた。その延長線上に、企業価値担保権があるわけです。

ということは、です。

企業価値担保権が出てきたから、急に「事業を見られる」ようになるわけではない。
逆に言うと、いままで事業性評価に向き合えていなかった会社は、企業価値担保権ができたところで、急に評価が変わるわけでもない。

本質はずっと、 「事業を見られているか」「事業を語れているか」 のところにあります。
ここを押さえておくと、これから出てくる情報や煽りに、踊らされにくくなるとおもいます。

社長がいまからやるべきこと

では、本質に立ったうえで、社長は何をすればいいのか。

新しい制度のための準備、というよりも、これまでも本来やるべきだったことに、しっかり向き合う、ということだとおもいます。
具体的に、3つあげてみます。

1つめは、過去3〜5年を振り返ること。
売上、利益、キャッシュフロー、借入残高。数字の動きを並べてみて、どこで何が起きていたのかを、じぶんの言葉で振り返ってみる。手鏡(指標)を持つ、というイメージですね。

2つめは、自社の価値を社長みずからが考えること。
担保や決算書ではなく、事業そのものに、どんな価値があるのか。これを考えるのは、コンサルタントでも税理士でもなく、まずは社長の役割です。

3つめは、事業を「だれに・なにを・どのように、売るか」で言葉にしてみること。つまり、自社の事業をあきらかにします。

  • だれに(選択戦略)
  • なにを(集中戦略)
  • どのように(差別化戦略)

ここが言葉になっているかどうかは、事業性評価の良し悪しに、そのままつながっていきます。
逆に、ここを語れない社長は、企業価値担保権の活用以前に、銀行から相手にされにくくなるかもしれません。

新しい制度のための準備、ではなく。
ふだんの融資のためにも、本来必要だったことです。

そう考えると、企業価値担保権の施行は、社長にとって「自社の事業性評価を見直す、ひとつの入口」として位置づけてもいいのかもしれません。

まとめ

事業性融資推進法と企業価値担保権について、書いてきました。
要点をまとめてみます。

  • 大きく変わるのは「制度」のほう。融資の選択肢が1つ増え、無形資産も担保評価の対象になり、経営者保証に頼らない融資につながる可能性がある
  • いっぽうで、変わらないことのほうが大切。「事業を見て判断する」という銀行の構造、社長が「自社を語れる」必要があること、利益計画と資金繰り計画が土台であること、日常融資の基本構造
  • 本質は「事業性評価」。20年以上前から、ずっと同じ方向に動いてきた。ここを押さえておくと、これから出てくる情報や煽りに踊らされにくくなる

最初の1歩

  • 過去3〜5年の数字(売上・利益・キャッシュフロー・借入残高)を紙に並べ、そのうえで自社の事業を「だれに・なにを・どのように、売るか」で語ってみる

新しい制度ができるのを待ってから動くのではなく、いまの自社の事業を、いまのじぶんの言葉で見直してみる。
そんな入口として、5月25日をきっかけにしてみるのも、ひとつの手かもしれません。

もし、じぶんひとりでは事業の語り方や将来計画の見方に迷うようでしたら、個別相談ものぞいてみてください。
ご一緒に、社長の言葉で自社を語れるところまで、整えていけたらとおもいます。

この記事を書いた人

1975年生まれ、横浜在住。税理士、発信者、習慣家。2016年に独立以来、きょうまでブログは毎日更新中。近年は、銀行融資支援を得意な仕事にしている。借りれるうちに借りれるだけ借りよ、が口グセ
現在は1日1万歩以上、ひと月150kmほど走る。趣味は、コーヒーとサウナ、読書、散歩、アニメ。スタバでMacがマジカッコいい!と思い続けてる
くわしいプロフィールはこちら

目次