「軸を掛け合わせる」は、キャリアの戦略として、よく語られる話です。でも、僕にとっての掛け算は、勝つための戦略ではありません。
目標は降ろしたのに、走り方だけが残っていた。そのことに気づいたあとで、必要になったものだったのです。
「税務」だけでは、あまたいる税理士のなかに埋もれる
きょうは、税理士として発信を続けている方、これから発信をはじめたい士業の方に向けて書いてみます。
先に本記事の要点からいうと…
- 一本の軸で戦うと、あまたいる同業のなかに埋もれる。ここまでは、よくある話
- でも僕にとっての「軸の掛け算」は、勝つためではなくて、落ちないためのもの
- 1番の走り方で消耗した過去があるからこそ、いまは軸を重ねて、走り方そのものを組み替えている
僕がまだ独立したばかりのころの話です。
税理士としてブログを書きはじめて、いちばん最初に取り組んでいたのは「税務」でした。税金の話、節税の話、経理の話。税理士なのだから、税務に関するテーマで発信するのは、いってみれば自然な選択です。
ですが、続けているうちに、じわじわと気づいてきたことがありました。
「税務」というテーマは、あまりにも大きな川 なのです。
大きな川で泳ぐと、上流には有名な税理士の方がずらりと並んでいます。書籍を出している人、テレビに出ている人、税理士会で名前が知られている人。そのなかで、独立したての僕がひとり同じテーマで書いても、静かに流されていく…
書きながら、なんだか、ふしぎな感覚がありました。
がんばって書けば書くほど、あまたいる税理士の1人としての解像度が下がっていく感じ、とでもいうのでしょうか。
「税務」で書き続ける限り、この川では埋もれ続けるのだろうな、とおもったわけです。
そのとき、ひとつだけ、はっきりしたことがありました。
同じ場所で、同じテーマで戦っても、いつまでも先頭には出られない。もう少し違う場所、違う軸の重ね方を、じぶんで探してみるしかないのだ、ということです。
これが、僕にとっての「本当の意味」での出発点でした。
N=1を降ろしたのに、走り方は残っていた
「唯一の存在(N=1)になれ」という言葉を、このごろよく見かけます。AI時代に生き残るには、たったひとりの、代わりのいない人材を目指せ、と。
言っていることは、正論だとおもいます。
ですが、正直にいうと、僕は、そこに手を上げられません。「唯一の存在」というのは、口で言うほど、たやすくないからです。
だから、僕は「N=1」を降りました。狙うのは、その分野で上位5人くらいに入る「N=5」でいい、と。
このくらいのポジションなら、税理士として食べていける。書きたいものを書ける。やりたいこともやれる。
早々に、そう決めていたつもりでした。
ところが、です。
そう決めていたはずなのに、去年、いちど倒れました。体調を崩して、3か月ほど、発信のすべてが止まったのです。
止まってからしばらく経って、ようやく見えてきたことがあります。
目標は「N=5でいい」に、ちゃんと降ろしていた。でも走り方は、「N=1狙い」のまま、置き去りだった 、と。
毎日更新、全力、とにかく量。前を走る人を、追い抜くつもりで書いていた。
頭では「5番手でいい」と考えていたはずなのに、キーボードを叩く指だけは、まだ、1番を追っていたのですね。
このズレも、倒れた理由のひとつだったのだとおもいます。
目標は、いさぎよく降ろしていた。走り方は、そのまま残っていた。この組み合わせが、いちばん消耗するものだったのだと、いまはおもうのです。
掛け算は、勝つためじゃなくて、落ちないためだった
そこで、僕はもう一歩、考えを進めることになりました。
軸の掛け合わせ、という話は、キャリア論として、よく語られます。「複数の分野を掛け合わせて、レアな組み合わせで勝つ」というかたちで、です。
戦略の話としては、なるほど、と聞いていたのです。
ですが、倒れたあとの僕がたどりついた掛け算は、少しちがう文脈のものでした。
掛け算は、勝つためではなくて、落ちないためのものだった 。というか、僕にとっては、そうだったのです。
理屈は、こういうことです。
一本の軸で「上位5人」に食い込もうとすると、その一本で全力を出し続けるしかありません。ですが、一本の軸を全力で走らせつづけると、けっきょくは1番狙いの走り方に戻ってしまう。目標は降ろしたはずなのに、走り方は元のまま、というやつなのですね。
いっぽうで、軸を2本、3本と重ねていくと、一本にかかる負荷が、すこしずつ分散されます。
このテーマは、こちらの媒体で。あのテーマは、別の媒体で。今日はこっちを書いて、明日は別の場所を回す。掛け算のなかを、こまごまと歩いていく感じ、とでもいうのでしょうか。
一本の軸で全力疾走するかわりに、複数の軸を、ゆっくり歩き回る。
そうすると、面白いことに、掛け算の交差点そのものは、じぶんの立ち位置として、じわじわと立ち上がっていく。すくなくとも、僕の場合は、そうだったのです。
つまり、軸を掛け合わせるのは、勝つための半径を広げるためではなくて、走り続けるための体力を守るため。
これが、僕がたどりついた「掛け算」の中身です。
僕の掛け算は、こう重ねてきた
具体的に、いまの僕が、どんな軸を持っているか。書き出してみると、こんな感じになります。
- 銀行融資支援というテーマ
- 顧問税理士向けにも発信するという届け先の選び方
- ソロ税理士という立場
- 多媒体で10年続けてきた発信の幅と厚み
ひとつずつ、正直に見ていきます。
「銀行融資支援」というテーマだけで見れば、僕より詳しい税理士、コンサルタントの方は、ほかにいらっしゃいます。
「顧問税理士向けの発信」も、同じような発信をされている税理士の方は、いっぽうで、ちゃんといらっしゃる。
「ソロ税理士」というスタンスも、いまや、それほど珍しいものではなくなってきました。
「10年、多媒体で続けている発信」も、それだけで「唯一」を名乗れるほどのものではありません。もっと長く、もっと多くの媒体で発信している方は、ちゃんといらっしゃいます。
ひとつずつ見ていくと、どれも、それぞれの分野に、もっとすごい方がいらっしゃるのですね。
ですが、この4つが同時に交差する場所に立ってみると、一本の軸で戦っていたころよりも、あまたいる税理士の同じ場所にいる感覚は、かなり薄くなりました。
「銀行融資支援」×「顧問税理士向け発信」×「ソロ税理士」×「多媒体で10年発信」。
この掛け算のなかにいると、じぶんの立ち位置が、ぐっと見つけてもらいやすくなった気がしています。
特に、いちばん最後の「多媒体」の軸は、今年になって、さらに厚くなりました。
もともと、ブログ、メルマガ、Podcast、YouTubeと、複数の媒体で発信を続けてきました。そこに今年、Substack「モロトメジョーの独白」の連載が加わり、noteでも新しいシリーズを動かしはじめています。Kindle本も、今年になって2冊、新たに出しました。
たくさん出したい、というより、 1媒体で毎日全力で走るかわりに、複数の媒体でペース配分をしたい 、という気持ちのほうが強いのです。
このテーマは、こちらで。あの気持ちは、あそこで。毎日ぜんぶを、ひとつの場所に注ぎこまなくていい。
これが、僕にとっての「落ちないための掛け算」の、いちばん具体的な形なのですね。
じぶんの掛け算は、勝つため?落ちないため?
ここまで書いてきて、いちばん伝えたかったのは、こういうことです。
軸の掛け合わせ、という話をするとき、たいていは「勝つため」の文脈で語られます。ですが、税理士や士業として、長く発信を続けようとしている方にこそ、もうひとつの掛け算の使い方を、置いておきたかったのです。
それは、勝つための掛け算ではなくて、落ちないための掛け算。
じぶんの掛け算を、いちど書き出してみると、案外、じぶんだけの場所が見えてくることがあります。
たとえば、こんな軸があるかもしれません。
- 得意なテーマ(税務のなかでも、どのジャンル)
- 届けたい相手(社長?士業?特定の業種?)
- じぶんの立場(ソロ?大手所属?副業?)
- 積み重ねてきたもの(発信年数、実務経験、資格、地域)
これを掛け合わせてみると、案外、じぶんだけの交差点が見えてくるものです。
そこで、もうひとつだけ、じぶんに問うてみてほしいのですね。
じぶんはいま、その掛け算を、勝つために使いたいのか。それとも、落ちないために使いたいのか。
ここが、意外と、走り方を変える分かれ道になったりします。
まとめ
きょうは、税理士として発信を続けるうえでの「掛け算」という考え方について書いてきました。ふつうによく語られる、勝つための掛け算ではなくて、落ちないための掛け算として、です。
要点を、3つにまとめておきます。
- 「N=1(唯一の存在)」を降ろしたつもりでも、走り方が1番狙いのままだと、けっきょくは消耗する
- 掛け算は、勝つ半径を広げるためではなく、走り続けるための体力を守るためのもの、でもある
- 一本の軸で全力疾走するかわりに、複数の軸をゆっくり歩き回る。掛け算の交差点は、じぶんの立ち位置として、じわじわと立ち上がってくる
最初の1歩
いま、じぶんが立っている軸を、紙に書き出してみる。
得意なテーマ、届けたい相手、じぶんの立場、積み重ねてきたもの。ひとつずつ挙げてみると、案外、じぶんだけの交差点が見えてくるかもしれません。
その交差点を、勝つために使いたいのか、落ちないために使いたいのか。そこも、いちど、じぶんに問うてみるといいのでしょう。
僕は、こういう「軸を重ねながら、長く発信を続ける」という考え方を、無料メルマガ 『発信LAB』 で、もうすこし深く続けて書いています。
じぶんの掛け算を、どう見つけて、どう深めていくか。発信LABでも、引き続き考えていきます。よかったら、のぞいてみてください。

