「やったことがない」と前置きするのは、誰のためか

「その件は、やったことはないのですが……」
相談のはじめに、そう前置きしなくなって、5年くらいになります。
いつからだったのかは、はっきりおぼえていません。

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「やったことはないのですが」と言わなくなった

きょうは、相談を受けている、あるいはこれから受けようとしている税理士のかたに向けて書きます。融資にかぎらず、「この相談、受けていいのかな」と迷ったことのあるかたへ。

先に本記事の要点からいうと…

  • 「やったことがない」の前置きも、「お返しできなければ、おカネはいただかない」も、外したときの、じぶんの保険
  • 線は、相談の場ではなく、日々の発信で先に引いておく
  • 来た相談は、入口の言葉で判断せず、一度は話を聞く

相談を受けるとき、こう前置きしたくなることはありませんか。

「その件は、やったことはないのですが……」

正直に言っておいたほうが、誠実な気がする。あとで期待を外しても、「最初に言いましたよね」と言える。

僕も、以前はそうでした。

いまは、言いません。たぶん、5年くらい前からです(あまり、自信はない…)。

そのかわりに、と言っていいのかわかりませんが、じぶんの中で決めていることがありました。

相談で、お返しできるものがなかったら、おカネはいただかない。

これまで、実際にそうなったことは一度もありません。それでも、そう決めておくことで、筋は通しているつもりでいました。

前置きはしない。外したら、おカネはいただかない。

これで誠実になった、とおもっていたのです。

返金も、保険だった

ところが、この記事のために考えをまとめていて、気づいたことがあります。

相談するかたは、結果を期待して依頼しています。

悩みや不安が晴れることを期待して、時間をつくって、話をしに来てくれている。

もし、その悩みが解決しなかったら。

おカネをお返ししたとしても、残るのは「解決しなかった」という不満です。相談にかけた時間も、戻ってきません。

返せるのは、おカネだけなのです。

そう考えると、返金は、相手を納得させる理由にはなりません。こちらの自己満足か、逃げ。そう言われても、しかたがないとおもいます。

しかも、僕はこの線を、相談者に伝えていません。案内にも書いていないし、申込みのときにも言わない。

「相手が知らない線」 です。

相手に見えていないなら、それは相手のためというより、じぶんの気持ちを落ち着かせるための線だった、ということになります。

並べてみると、こうなります。

  • 「やったことはないのですが」と前置きする
  • 「お返しできなければ、おカネはいただかない」と決めておく

どちらも、外したときの、じぶんの保険 だということです。

前置きのほうはやめたのに、返金のほうで、同じことをしていたわけです。

少しだけ付け加えると、返金に意味がないとまでは、おもっていません。誠実さの最低ラインではあります。でも、相手が納得する理由にはならない。

では、じぶんを守るためではなく、相手が選ぶための線は、どこに引けばいいのでしょうか。

線は、相談の前に引いておく

僕がやっているのは、日々の発信です。

じぶんがチカラになれそうな部分を、ふだんから示しておく。

逆に、チカラになれそうにないことは、背伸びして発信しない。

線を、相談の場ではなく、その手前で引いておくわけです。「ここなら、チカラになれます」という 「看板」 を、先に出しておく感覚に近いかもしれません。

看板が先に出ていれば、相談の場で「やったことはないのですが」と言う必要は、そもそも少なくなります。

実際、僕のところに来る相談のうち、対応できるかわからないものは、体感で1割にも満たない程度です。

ただ、ここは正直に書いておきます。

線が効いているのかどうかは、よくわかりません。

きちんと線を引けていれば、受けにくい相談は、そもそも来なくなる。来なかった相談は、見えません。だから、線のおかげなのか、たまたまなのか、確かめようがないのです。

1割に満たない、という数字を見ると、効いているのかもしれない。いまは、そのくらいに受け止めています。

それでも、その1割は、来ます。

入口の言葉では、線を引かない

最近、ある融資制度についての相談がありました。

正直に言うと、対応できるかわからない側の相談でした。

だから、事前に調べられることは調べました。制度の内容はもちろん、実際の利用状況や使い勝手、よくある疑問まで。

ところが、当日、満足していただけたのは、制度の話ではありませんでした。

話を聞いていくうちに、その制度を利用する手前に、課題が見つかったのです。そこへのアドバイスで、「相談してよかった」と言っていただけました。

その課題は、制度を調べたから見つかったわけではありません。話を聞いてみたら、見えてきたものでした。

相談の入口と、本当の相談は、ズレていることがあります。

「〇〇制度について聞きたい」は、 「入口の言葉」 です。その奥に、本人もまだ言葉にしていない悩みがあることは、めずらしくありません。

ここで、「やったことはないのですが」に戻ります。

この前置きは、入口の言葉に対して言っているのです。

「その制度は、やったことがない」。そう言って線を引くと、入口で止まってしまう。本当の相談まで、たどり着けません。

もちろん、経験があるかどうかが、相手にとって大事な判断材料になる相談もあります。そのときは、話を聞いたうえで、正直に伝えればいい。

僕がやめたのは、入口で先に言っておくことのほうです。

「やったことがない」は、謙虚に聞こえます。でも、ほんとうは相手ではなく、じぶんを守っている言葉なのかもしれません。

だから、線は先に発信で引いておく。そのうえで、来た相談は、入口の言葉で判断しない。

一度は、話を聞く。

おカネの線も、先に示しておく

線を先に引いておく、という話は、相談の中身だけにかぎりません。

顧問先から、融資の相談を受けたときも同じです。

どこから、おカネをいただくのか。

これも、相談の場で決めようとすると、言い出しにくくなります。

そして、その場で引いた線は、また保険になりがちです。「今回は、ここまでは顧問料の範囲で」と、じぶんを納得させるための線に。

先に示しておけば、相手は、頼むかどうかを判断できます。こちらも、その場でじぶんを守る線を引かずに済みます。

では、その線を、どこに引くのか。何を、先に示しておくのか。

その線の引き方は、記事1本では書ききれないところです。

11月に、顧問税理士のかた向けのセミナーをひらきます。

顧問先の融資の相談には乗っている。でも、どこからおカネをいただけばいいのか、線を引けずにいる。そんな税理士のかたと、その線を「先に示す」ところから、いっしょに考えられたらうれしいです。


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まとめ|その相談の入口の奥に、何があったか

きょうは、相談を受けている、あるいはこれから受けようとしている税理士のかたに向けて書いてきました。

要点を、3つにまとめておきます。

  • 「やったことがない」の前置きも、「お返しできなければ、おカネはいただかない」も、外したときの、じぶんの保険
  • 線は、相談の場ではなく、日々の発信で先に引いておく。効いているかは見えにくいけれど
  • 来た相談は、入口の言葉で判断しない。入口と本当の相談は、ズレていることがある

最初の1歩

最近、「やったことはないのですが」と言いかけた相談を、1つおもい出してみましょう。

その入口の言葉の奥に、何があったでしょうか。

この記事を書いた人

1975年生まれ、横浜在住。税理士、発信者、習慣家。2016年に独立以来、きょうまでブログは毎日更新中。近年は、銀行融資支援を得意な仕事にしている。借りれるうちに借りれるだけ借りよ、が口グセ
現在は1日1万歩以上、ひと月150kmほど走る。趣味は、コーヒーとサウナ、読書、散歩、アニメ。スタバでMacがマジカッコいい!と思い続けてる
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