創業融資のとき、銀行員は通帳の「いくらあるか」を見ている。そうおもわれがちですが、ほんとうに見られているのは、すこし別のところかもしれません。信用と信頼、というちがいから、融資を考えてみます。
銀行は、通帳の「どこ」を見ているか
創業融資の相談を受けていると、通帳を見せてもらう場面があります。そのとき、僕が自然と目で追っているところの話を、先にしておきます。
先に、この記事の要点から。
- 銀行が見ているのは、残高(いくらあるか)だけではない
- 同じ自己資金でも、コツコツ貯めたおカネと、開業直前に入ったおカネは、別物として受け取られることがある
- その差は「信用」と「信頼」のちがい。そして、これは通帳だけの話ではない
言葉を、ひとつだけ整理させてください。
この記事でいう「信用」は、いま見える数字。「信頼」は、これまで積み重ねてきたふるまい。
そんなふうに分けて、読んでみてください。
たとえば、毎月のお給料から、すこしずつ。月末ごとに、残高がじわりと増えている通帳。
それをめくっていると、ああ、この社長はコツコツ貯めてきた人なんだな、と伝わってきます。数字そのものより、その増え方のほうに、人柄がにじむ。
いっぽうで、こういう通帳もあります。
ふだんはほとんど残高が動いていないのに、開業の直前になって、まとまったおカネがぽんと入っている。
そういうときは、その場でお聞きすることになります。「これは、どういうおカネですか」と。
多いのは、親や配偶者からの借入。あるいは退職金。知人から借りたおカネ、ということもあります。
銀行員も、それ自体を否定するわけではありません。だれにでも事情はありますし、退職金だって立派な原資です。
ただし、見られるのは「説明できるおカネか」どうか、です。どこから来たおカネで、返す必要があるのかないのか。そこが整理できていれば、銀行も受け止めやすくなります。
とはいえ、純然たる自己資金がうすいこと自体は、多かれ少なかれ、気にされるところではあります。
だから僕も、こういうときは、あらかじめ社長にお伝えしておきます。融資が受けにくくなったり、希望より額がおさえられたりすることも、ないとは言えません、と。
もちろん、親から借りることが、悪いわけではありません。
ただ、同じ100万円でも、銀行から見ると、別のおカネに見えることがある。ここだけは、知っておいて損はないとおもうのですね。
残高は、その瞬間の数字です。いま、いくらあるか。一目でわかります。
でも、貯め方は、ちがう。何か月も、何年もかけて、積み重ねてきたふるまいです。一目では、わからない。
この「その瞬間の数字」と「積み重ねたふるまい」のちがい。これが、信用と信頼のちがいなのだと、僕は考えています。
でもこれは、通帳だけの話じゃない
信用と信頼。さっき、ざっくり分けましたが、もうすこしだけ並べてみます。
信用というのは、その瞬間に測れるもの。数字にできて、一目でわかります。あの通帳でいえば、「残高」がそれにあたります。
いっぽうの信頼は、時間をかけて積み重ねてきたふるまいのほうです。すぐには測れないし、数字にもなりにくい。通帳でいえば、「貯め方」のことですね。
どちらが大事か、という話ではありません。「残高(信用)」がしっかりしているのは、それだけで強いことです。そのうえで、「貯め方(信頼)」も見られている。そういうことなのですね。
で、ここからが、今回いちばんお伝えしたいことです。
残高と貯め方というのは、信用と信頼の、ひとつの例にすぎません。
いちど「信用と信頼」というものさしを手にして、銀行とのつきあいを見渡してみると、あちこちで、同じ構造が顔を出してきます。
まさに、 一事が万事 。
たとえば、利益と、おカネの使い方。決算書と、ふだんのつきあい方。どれも、片方は信用で、もう片方は信頼なのです。
ひとつずつ、見ていきましょう。
利益は信用、おカネの使い方は信頼
1つめは、利益と、おカネの使い方です。
利益は、信用です。決算書に「これだけ儲かりました」と表れる、一年間の結果。わかりやすい数字ですし、もちろん、利益が出ていることは大事です。
ただ、銀行が見ているのは、利益の金額だけではありません。
その利益で得たおカネを、社長がどう使ってきたか。ここにも、目がいきます。
たとえば、利益が出たぶんを、計画もなく使って、いつも資金繰りがギリギリの会社。
いっぽうで、利益はそれほど大きくないけれど、おカネの使い方が堅実で、手元にしっかり残している会社。
数字の上の利益は、前者のほうが大きいかもしれません。でも、信頼という意味でにじむものがあるのは、後者のほうだったりします。
利益は、その年の結果。おカネの使い方は、毎日の積み重ねです。
ここにも、信用と信頼のちがいが、顔を出すことになります。
決算書は信用、担当者とのつきあいは信頼
2つめは、決算書と、銀行担当者とのつきあい方です。
決算書は、信用です。1年にいちど、会社の成績をまとめた、いわば集大成。銀行も、まずここを見ます。
でも、決算書が映すのは、あくまで1年にいちどの、ある一点です。
その点と点のあいだに、何があったのか。そこを知っているのが、銀行の担当者でしょう。
たとえば、業績が良いときも悪いときも、定期的に状況を伝えている社長。四半期にいちどくらい、試算表を持って顔を出し、良い報告も、そうでない報告も、隠さずに話す。
こういう積み重ねは、決算書のどこにも書かれません。でも、担当者のなかには、ちゃんと残っていきます。
そして、その積み重ねが効いてくるのは、たいてい、いざというときです。
業績が一時的に落ちこんで、返済の条件を見直してほしいとき(リスケジュール)。あるいは、不測の事態で、急ぎ追加の融資をお願いしたいとき。
そういう場面で、最後に効いてくるのは、決算書の数字そのものよりも、 それまで積み重ねてきた信頼 だったりするものです。
ふだんは見えないのに、ここぞ、というときに顔を出す。信頼とは、そういうものなのだとおもいます。
信頼は、一日では積めない
ここまで、3つの例を見てきました。残高と貯め方。利益とおカネの使い方。決算書と担当者とのつきあい。
どれも、片方は信用で、もう片方は信頼でした。
そして、信頼には、ひとつやっかいな特徴があります。
1日では、積めない。
残高は、明日いきなり増やすこともできます。利益も、1年がんばれば変わってきます。でも、信頼は、そうはいきません。毎日の積み重ねでしか、育っていくことはありません。
ここで、正直に書いておきます。
僕自身は、独立するとき、自己資金がありました。会社勤めのときに貯めたおカネと、退職金。それに、税理士という資格の追い風もあった。だから、融資が受けやすかったのは、間違いありません。
そういう意味では、偉そうなことを言える立場ではないのかもしれません。
ただ、ひとつだけ言えることがあります。
いまの通帳がどうであれ、今日からの積み重ねは、だれにでも始められる、ということです。
自己資金が薄くても、それでおわり、ではありません。これから、月末ごとにすこしずつ残していく。銀行には、良いことも、そうでないことも、こまめに伝えていく。
そうやって積み重ねたものは、半年後、1年後の、信頼になっていきます。
信用は、今日の数字。信頼は、今日からの積み重ね。
そう考えると、すこし、気がラクになってきませんか。
さいごに
銀行が見ているのは、信用か、信頼か。今日の話で言えば、答えは「その両方」です。
要点を、まとめておきます。
- 銀行は、その瞬間の数字(信用)と、積み重ねたふるまい(信頼)の、両方を見ている
- 残高と貯め方、利益とおカネの使い方、決算書と担当者とのつきあい。一事が万事で、同じ構造があちこちにある
- 信用は今日の数字、信頼は今日からの積み重ね。だから、いまからでも始められる
数字を整えることは、もちろん大事です。でも、数字だけを見て一喜一憂していると、もう片方の信頼が、見えなくなってしまうことがあります。
最初の1歩。
じぶんの会社を、いちど「信用」と「信頼」の両方の目で、見てみる。数字のほうはもう見えているはずなので、もう片方の信頼、つまり、おカネの使い方や、銀行とのつきあい方を、ひとつだけ、紙に書き出してみる。
それだけで、明日からの銀行とのつきあいが、すこし変わってくるはずです。
もし、「信用と信頼、両方の目で、いちど自社の融資を見直してみたい」と感じたら。
個別相談という場も、用意しています。いまの数字をどう伝えるかだけでなく、これからどう信頼を積み重ねていくかまで、いっしょに整理していく時間です。
必要なときに、のぞいてみてください。

