「いまは預金が十分にあるので、借りる必要はない」。決算説明の場で、社長からそんなお返事をいただくことがあります。
ただ、その預金には、これから出ていくぶんが含まれています。数字は動いていないのに、見え方だけが変わる。そんな話をします。
「預金は十分にあるので、借りません」
きょうは、決算が黒字で、預金もそれなりにある。だからいまは融資を考えていない、という社長に向けて書いてみます。
先に本記事の要点からいうと…
- 決算書に載っている預金残高には、もう使い道が決まっているおカネが含まれている
- いちばん見ているものが、いちばん誤解を招く。通帳は、社長がひとりで見るから
- 残高は「いまの点」、資金繰り表は「これからの線」。判断ができるのは、線のほう
(守秘義務は守りつつ…)ある顧問先の決算説明で、こんな場面がありました。
その期は黒字でした。利益も出ている。だから僕から、銀行融資を受けることも検討してみてはどうか、という話をしました。
返ってきたのが、この言葉です。
「いまは預金が十分にあるし、借りる必要はない」
もっともなお返事だとおもいます。手元におカネがある。だから借りない。筋は通っています。
ただ、この「十分にある」の中身が、少しやっかいなのです。
借金がキライな社長では、なかった
先に書いておくと、この社長は、借金がキライなタイプではありません。必要があるとおもえば借りる。そういう判断ができるかたです。
だからあのお返事は、感情から出たものではありませんでした。手元にある数字を見て、そこから導かれた結論です。
ここが、この話のこわいところだとおもっています。
借金への好き嫌いの話であれば、まだわかりやすい。ところが実際には、数字をきちんと見て、落ち着いて考えた結果として、ずれてしまうことがあります。
ずれたのは、判断ではありません。読み方でした 。
だとすれば、これは誰にでも起こりうることです。
その残高には、もう名前が書いてある
決算書に載っている、預金の残高。
あの数字には、もう行き先の決まっているおカネが混ざっています。
たとえば、税金です。利益が出ているのなら、法人税を納めることになります。消費税の納付も控えているかもしれません。
それから、賞与。夏や冬に支給されるのなら、その原資も、いまの残高に含まれています。
さらに、借入の返済。設備の入れ替えなど。
たとえば、4,000万あるとおもっていたら、実質2,000万だったわけです。
数字は、1円も動いていません。動いたのは、見え方だけです 。
これは、「勘定合って銭足らず」になる前の話です。払ったあとではなく、いま見えている残高の読み方のことを言っています。
しかも、もうひとつあります。
その期が黒字だったのなら、納める税金は増えます。利益が出ているのは、もちろん良いこと。ただ、それはこれから出ていくおカネも決まる、ということでもあります。
黒字であることと、手元が厚いことは、そのままイコールではありません 。
同じ数字を見ていても、社長は「4,000万ある」と見ます。僕は「そのうち、いくら残るのか」を見ます。ずれが生まれるのは、たいていここからです。
いちばん見ているものが、いちばん誤解を招く
社長が会社のおカネを見るとき、目にするものは、だいたい3つあります。
決算書。試算表。そして、通帳。
決算書と試算表には、たいてい税理士が挟まります。説明の機会もありますから、読み方がずれていれば、そこで直せる可能性はあるでしょう。
ところが通帳は、社長がひとりで見ます。
しかも、いちばん新しくて、いちばん正確です。銀行が記録している数字そのものですから、疑いようがない。
だから信じてしまう。
これは、どんぶり勘定の社長の話ではありません。数字を見ている社長ほど、通帳を信じてしまう 。
正確であることと、判断に使えることは、べつのことです。通帳が教えてくれるのは、きょうまでの結果。これから出ていくぶんは、どこにも書いてありません。
口で言っても、人は動かない
さきほどの決算説明の場面に戻ります。
僕はそのとき、こう伝えました。
「たしかに、いまの預金はあります。ただ、ここから法人税や消費税を支払って、近々賞与の支払いもあることを考えると、必ずしも盤石とは言えません」
正しいことを言ったつもりです。ですが、これで社長が動いたわけではありませんでした。
その言葉は、説き伏せるためのものではなかったのです。資金繰り表に目を向けていただくための、きっかけ。それだけでした。
僕は決算説明のときに、資金繰り表もいっしょにお持ちしています。作るのには、それなりの手間がかかります。
それでもセットにしているのは、口で説明するだけでは届かないことを、何度か経験してきたからです。
数字の話は、耳から入れるよりも、目で見ていただくほうが早い。少なくとも、僕の場合はそうでした。
残高ではなく、推移を見る
その場で、資金繰り表を開きました。
向こう1年、預金の残高がどう動いていくか。月ごとに並べた表です。
すると、残高が細くなる時期が、はっきり見えました。
社長の様子が変わったのは、ここです。僕が口で説明していたときではなく、表の数字を目で追ったときでした。
そのあと融資の検討に入り、実際に借りることになりました。
残高は、「点」です。いまの一点だけを写したもの。
資金繰り表は、「線」です。これから先、どう動いていくかを並べたもの。
そして、判断ができるのは、「線」のほうなのです。
もちろん、借りましょうと決めつけたいわけではありません。借りない、という判断もあります。ただ、判断をする前に、材料がそろっているかどうか。そこは分けて考えたいとおもっています。
まとめ|「いくらある」より「いくら残るか」
きょうは、預金残高の読み方について書いてきました。
要点を、3つにまとめておきます。
- 決算書の預金残高には、もう使い道が決まっているおカネが含まれている。数字は動かなくても、見え方は変わる
- 通帳は、社長がひとりで見る。いちばん正確に見えるものが、いちばん誤解を招きやすい
- 残高は点、資金繰り表は線。判断ができるのは、線のほう
最初の1歩
向こう1年のあいだに出ていく大きな支出(税金・賞与・設備の入れ替えなど)を書き出して、いまの預金残高から、いちど引いてみる。
引いたあとの数字が、ほんとうに使えるおカネです。おもっていたより細ければ、それは、いま気づけたということでもあります。
引いたあとの数字が細いとわかったとき、そこからどうするか。無料メール講座 『銀行融資ラボ』 では、そのあたりも順番にお伝えしています。
いくらあるか、ではなく、いくら残るか。よかったら、のぞいてみてください。

