社長には、借りられるうちに借りておきましょう、とお伝えしてきました。ただ、その「うち」がいつまでなのかは、どこにも書いてありません。
書いてある期限は、調べればわかります。やっかいなのは、書いていないほうです。
「制度はあります」とだけ、伝えていた
きょうは、いまのところ資金には困っていない。だから融資はまだ先の話だ、とおもっている社長に向けて書いてみます。
先に本記事の要点からいうと…
- 期限には、書いてあるものと、書いていないものがある
- 融資でいちばん効くのは、書いていないほう
- 見分けかたは、一問だけ。「その期限は、誰が作ったのか」
(守秘義務は守りつつ…)ずいぶん前の話をします。
融資支援をはじめるより前、僕が会社勤めをしていたころのことです。
これから創業する、というかたがいました。
僕はその社長に、こうお伝えしました。
「創業融資という制度があります」
伝えたのは、それだけです。
しばらく考えて、返ってきたのがこの言葉でした。
「できるだけ、自己資金でやっていきます」
堅実な判断だとおもいました。実際、そのときの僕には、それ以上お伝えできることもありませんでした。
いまおもえば、僕が渡したのは「制度」です。「期限」は、渡していません。
期限には、3つある
世の中には、いろいろな「期限」があります。
まず、目につきやすいのが、売り手が作る期限です。
「残りわずか」「本日まで」。ところが翌週になると、また同じ表示が出ている。ああいうものですね。急がせるために置かれているだけで、実のところ期限ではありません。
次に、制度が決める期限。申請の締切、補助金の公募期間。こちらは本物です。しかも、調べればわかります。書いてあるからです。
問題は、3つめ。
構造が作る期限であり、 どこにも書いていない期限 です。
誰かが決めたわけでもなく、書類に載っているわけでもない。それでも、たしかにある。
いちばん見落とされるのが、この3つめです。書いていないのだから、見落とすのも当然でしょう。
だから僕は、こう考えるようにしています。
「その期限は、誰が作ったのか?」
売り手が作ったものなら、急ぐ必要はありません。制度が作ったものなら、調べれば出てきます。
やっかいなのは、誰も作っていないように見えるものです。融資でいえば、期限を作っているのは、実は銀行ではありません。会社の数字そのもの です。
誰の都合でもない。だから、煽りようもないのです。
あのとき、閉まりかけていたドア
さきほどの創業の話に戻ります。
創業融資にも、書いていない期限があります。「実際に開業する前」です。
開業したあとでも、創業融資を受けることはできます。ただ、そこまでの「実績」を見られることになります。
開業して数か月。おもったように売上が伸びていない。その状態で申し込めば、断られる可能性も出てきます。
いっぽうで、開業する前なら、実績はまだありません。良いも悪いもない。これまでの「実績」ではなく、これからの「計画」のほうを中心に見てもらえます。
開いている時期が決まっている、ドアのようなもの です。
前述の社長が手放したのは、「自己資金でやるという堅実さ」ではありませんでした。計画のほうを中心に見てもらえる、一回きりのドアです。
そして当時の僕は、そのドアがあることを知りませんでした。
遠慮したのではありません。言いにくかったのでもない。知らなかったから、伝えられなかった。それだけです。
制度を知っていることと、期限を知っていることは、別の知識だったということです。
しかも、書いていない期限は、あることすら見えません。知らないものは、知らないとわからないものです。
いまでも、あのときのやりとりをおもいだすことがあります。
もうひとつの、書いていない期限
創業のときだけの話ではありません。会社が続いていくなかにも、書いていない期限があります。
僕はスポット相談もお受けしていて、預金が細ってから相談に来られる社長は、実際にいらっしゃいます。
正直なところ、もう少し早ければ、と感じることもあります。ただ、それを申し上げたところで、どうにもならないのですね。
ここで少し、銀行が見ているものを分けておきます。
業績が下がってくれば、銀行は貸しづらくなる。これはわかりやすい話だとおもいます。
ただ、銀行が見ているのは、利益の金額だけではありません。預金残高もまた、会社の状態をあらわす数字 です。
返済の原資として見られるからです。だとすれば、決算が黒字であったとしても、預金が細っていれば、銀行はやはり貸しづらくなります。
つまり、本当の期限は「業績が落ちきる前」ではなく、もう少し手前にあります。
預金残高が、減りはじめる前です。
もう少し具体的にいうと、僕は実務のうえで、平均月商の2か月分を切る前に動くことをお勧めしています。
そして、平均月商の1か月分を切ってしまうと、融資は極端に受けづらくなる。少なくとも、僕が見てきた範囲では、そういうケースが少なくありません。
だから僕は、「平均月商1か月分の預金残高」を、ひとつの「書いていない期限」として見ています。
どこにも書いてありません。銀行から通知が届くわけでもない。それでも、実際には、たしかにあります。
以前、預金残高には、もう使い道が決まっているおカネが含まれている、という話を書きました。あれは、残高の「中身」の話です。きょうのは、その残高が「減っていく途中」の話になります。
失うのは、おカネではない
余裕があるうちに動いた社長と、細ってから動いた社長。なにが違うのか。
余裕があるうちは、選択肢が増えます。
たとえば、信用保証協会の保証を付けずに、銀行がじぶんのリスクで貸すかたち(プロパー融資と呼ばれます)。これで受けられる可能性が高まります。
金利についても、低くなる可能性が出てきます。なにより、交渉がしやすくなります。
いっぽうで、細ってからだと、そうはいきません。
とにかく借りることが最優先になります。条件がどうこうと言っている場合ではなくなる。示されたものを、受け入れるしかなくなります。
だとすれば、失っているのはおカネではないのですね。条件を選ぶ余地のほう です。
これは、創業のときのドアと同じ形です。開業前なら、計画のほうを見てもらえた。細る前なら、条件を選べた。
どちらも、閉まったあとでは戻せません。
もっとも、間に合わなかった社長に、銀行が意地悪をしているわけではありません。返せるかどうかを見ている。それだけのことです。
だからこそ、開いているうちに動く。そういう順番になります。
いまも、見えていない期限があるはず
こういう話を書いていますが、僕が偉そうに言える立場かというと、そうでもありません。
創業融資のときの僕は、制度を知っていて、期限を知りませんでした。
そして、いまの僕にも、まだ見えていない期限があるはずです。やっかいなのは、見えていないということ自体が、見えないところです。
制度のことなら、いまは調べればすぐに出てきます。AIに聞けば、要点まで整理してくれるでしょう。ただ、書いていないものは、こちらが問いを立てないかぎり、出てきません。
そこは、いまも、じぶんの宿題だとおもっています。
まとめ|その期限は、誰が作ったのか
きょうは、書いていない期限について書いてきました。
要点を、3つにまとめておきます。
- 期限には、書いてあるものと、書いていないものがある。融資で効くのは、書いていないほう
- 銀行が見ているのは、利益だけではない。黒字であっても、預金が細ってくれば貸しづらくなる
- 細ってから失うのは、おカネではなく、条件を選ぶ余地
最初の1歩
直近の平均月商を出して、いまの預金残高が何か月分にあたるかを、計算してみる。
2か月分を上回っているのなら、まだ、選べる側にいます。
ドアが開いているうちに、なにを考えておくか。無料メール講座 『銀行融資ラボ』 でも、そのあたりは順番にお伝えしています。
借りられるうちに、の「うち」は、まだ開いているか。よかったら、のぞいてみてください。

