「大丈夫そうですか?」
月次の打ち合わせで資金繰り表を開くと、社長にそう聞かれます。
頼りにされている合図だと、はじめはおもっていました。
その資金繰り表を、社長はどう見ているでしょうか
きょうは、顧問先の資金繰りを支援している税理士のかたに向けて書きます。
先に本記事の要点からいうと…
- 資金繰りの理解は「表」からではなく、「表を作る手間」から来ていることがある
- 作成を代行すると、社長は判断まで預けてくることがある
- 代行するなら、渡すのは答えではなく判断の材料
ある顧問先の話です。
その社長は、じぶんで資金繰り表をつけていました。手書きです。数字の抜けもありますし、フォーマットもきれいではありません。
こちらで引き受けましょうか、と伝えたことがありました。毎月の入出金はこちらで見ているのですから、そのほうが早いですし、正確です。
社長も、「助かります」と。
それから、月次の打ち合わせで、こちらが作った資金繰り表を開くようになりました。
そのとき、社長がこう言うのです。
「大丈夫そうですか?」
引っかかったのは、あとになってからでした。
手書きでつけていたころ、この社長は、だれに聞いていたのだろうか、ということです。
手を動かしていたころは、じぶんで考えていた
だれにも聞いていません。作りながら、じぶんで考えていたはずです。
資金繰り表を手でつくるとき、社長のアタマのなかでは何が起きているか。
先月の残高を書き写す。来月の入金を思い出す。支払いを並べる。
その途中で、いやでも目に入るものがあります。
「あれ、ここ、預金が少なくなるな」
作りおえてから気づくのではありません。作っている途中で気づく。というより、気づくまで手がすすみません。わからない数字が出てくれば、そこで止まるしかないわけです。
つまり、あの手間は、理解のための工程でもあったということです。
いまも、手書きでつけようとしている社長がいます。その社長は、表を持ってくると、こちらが何か言う前に「来月これ、キツいですよね」と先に言います。打ち手のほうまで、じぶんで考えていることもあります。
いっぽうで、こちらで作って打ち出した表は、きれいです。罫線もそろっていますし、計算も合っています。
ただ、そのきれいさが、リアリティを奪っているように見えるときがあります。ぱっと見て、大きな問題がなさそうなら、そこでおわってしまうのですね。
作ってあげるほど、社長は数字を見なくなる 。そういう面はあるとおもいます。
親切のつもりで、考える手間のほうを取り上げていたのかもしれません。
いちばん危ないのは、丸投げではありません
社長と資金繰り表の距離を見ていると、だいたい3つあるようにおもいます。
- 理解:手も、アタマも動いている。わからない数字が出たら、そこで止まれる
- 作業化:手は動いているが、アタマは止まっている。数字を写しているだけ
- 丸投げ:手も、アタマも止まっている。作ってもらったものを、受け取るだけ
いちばん危ないのは、3つめではありません。見つけにくいという意味では、実は、2つめの 「作業化」 です。
丸投げには、自覚があります。見ていないことを、社長自身が知っている。だからこちらが説明をはじめれば、聞く姿勢にもなります。
作業化は、そうなりません。手を動かした記憶が、確認した記憶にすり替わります。見たつもりになっている。
そして厄介なのは、作業化した表と、丸投げの表は、見た目が同じだということです。月次の打ち合わせの机の上では、どちらも同じ紙です。
代行しても、判断は受け取らない
ここまで書くと、「じゃあ代行はやめよう」という話に見えるかもしれません。
そうではありません。作成は、代行していいとおもっています。
正直にいうと、こちらで作るほうがラクです。早いですし、正確ですし、喜ばれる。社長が手書きでつけるのを待つより、打ち合わせもすすみます。
受け取らないようにしているのは、作業ではなく判断のほうです 。
作業の席と、考える席は別だということです。作業の席は代わってもいい。ただ、考える席には座らない。
「大丈夫そうですか?」と聞かれて、「大丈夫です」と答えてしまうと、そこに座ってしまいます。
渡すのは、答えではなく判断の材料
では、何を渡すか。
僕が渡しているのは、「判断の材料」です。言い方を変えると、「行動の動機」になるものです。
たとえば、預金残高の見方があります。
預金残高は、金額そのものより、平均月商の何か月分あるかで見ると、資金繰りの厳しさがつかみやすくなります。まず、この見方のほうを伝える。
そのうえで、いまの残高が何か月分なのかを渡します。
僕は、平均月商の2か月分を切る前に動くことを勧めています。残高が減ってからでは、選べる打ち手が少なくなるからです。1か月分を切ってしまうと、融資も極端に受けづらくなる傾向があります(金融機関や会社の状況によって変わりうるので、目安として)。
もう1つ渡すのは、これから沈む予定です。
3か月後に納税がある。賞与の支払いもある。だから、いまの残高はここから減ります。
この2つを渡すと、社長は「いま動くかどうか」を、じぶんで考えはじめます。
答えではありません。 材料です 。「だから、どうするか」の一段は、社長のところに残してあります。
選択肢まで並べるのは、必要になったときだけ
打ち手のほうを、こちらで並べて渡す形もあります。
いま借りる、支払いの時期を調整する、設備投資を後ろに倒す。3つ並べて、それぞれの効きと副作用まで説明する。
これは、必要になったときにはやります。社長が迷って動けなくなっていて、その理由が「選択肢が見えていないこと」なら、並べたほうが早いでしょう。
ただ、これを最初からやってしまうと、たぶん、また同じことが起きます。
きれいに整った選択肢は、きれいに整った資金繰り表と同じです。読んで、納得して、おわる。
手書きでつけていた社長が通っていたのは、その手前の道でした。「預金が少なくなるな」と気づいて、「どうしよう」と考える。あの区間です。
だから、摩擦を全部は取りません。どこかに1つ残しておく。
僕の場合は、それが「だから、どうするか」の一段だということです。
まとめ|作業は代わる。考える席には座らない
きょうは、資金繰り表の代行について書いてきました。
要点を、3つにまとめておきます。
- 資金繰りの理解は「表」からではなく「表を作る手間」から来ていることがある。手間を取り除くと、成果物は同じでも理解のほうが消えることがある
- 丸投げより見つけにくいのが、手は動いてアタマが止まっている「作業化」。見たつもりになるため
- 代行するなら、渡すのは答えではなく判断の材料。「だから、どうするか」の一段は残しておく
最初の1歩
- 次の打ち合わせで、資金繰り表を渡す前に「いまの残高は、平均月商の何か月分か」を1つだけ口に出してみる
社長から「大丈夫そうですか」と聞かれたとき、あなたが渡しているのは、答えでしょうか。それとも、材料でしょうか。
顧問先の資金繰り表を、代わりに作っているかたへ。
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