「資金繰り表、あったほうがいいですよ」
顧問先の社長に、そう伝えたことがあります。20年ほど前のことです。
その資金繰り表は、結局、つくられなかったようです。
資金繰り表の話は、した
きょうは、顧問先の資金繰りや融資に、もっと関わりたい。でも、どこまで手を出していいのか迷っている、という税理士のかたに向けて書きます。
先に本記事の要点からいうと…
- 情報を渡しただけでは、支援は顧問先の机の上で止まることがある
- 手を貸すには時間がかかり、時間には値段が要る。本音(報酬)は、建前(顧問先のため)を実現するための条件
- 手を貸せないなら、貸せないと言う。それも支援のうち
顧問先の社長に、「資金繰り表、あったほうがいいですよ」と伝えたことはありますか。
僕は、あります。
税理士事務所に勤めていたころ、20年ほど前の話です。
融資の話が出ていた顧問先で、資金繰り表が要りそうだった。だから、その話をしました。
税理士として、まちがったことは言っていません。必要なことを、必要なタイミングで伝えています。
ただ、そこで止めたのです。
情報を渡したら、支援はおわりなのか。
いまの僕なら、この問いには、すぐに首を横に振ります。
あのとき、僕が言わなかった一言があるからです。
手を貸す話は、しなかった
言わなかったのは、「つくるのを、こちらで手伝いましょうか」の一言でした。
社長がじぶんでつくるのは、難しいだろう。
そう、わかっていました。わかっていた、というより、確信に近かったとおもいます。
それでも、言わなかった。
理由は、正直に書くと、本音のほうでした。
手伝っても、顧問料の範囲でしょ、と受け取られそうだった。仮に報酬をいただけたとしても、勤めている僕の給料が変わるわけではない。ただでさえ残業が続いていたのに、それがもう1つ増えるだけ。
建前は、「必要なことは、ちゃんと伝えた」。
本音は、「手を出せば、じぶんがきつくなる」。
その両方が、「話はした。手は貸さなかった」という形に、きれいにおさまっていたのです。
少し、イヤな言い方をします。
「話はした」は、税理士にとって、いちばん安心できる置き場所 でもあります。
言ったという事実は、残る。あとで何かあっても、「お伝えしましたよね」と言える。でも、手は少しも動いていない。
そう書いている僕が、まさにそこにいました。
かっこわるい話です。
そして、その話には、続きがあります。
情報は、顧問先の机の上で止まる
その資金繰り表は、結局、つくられなかったようです。
(社長がなぜつくらなかったのか、くわしく聞いたわけではありません。忙しかったのかもしれないし、つくり方がわからなかったのかもしれない。ここは、推測です)
ただ、ひとつ言えることがあります。
僕は、情報を 「渡した」 のではなく、社長の机の上に 「置いてきた」 だけだった、ということです。
置かれた情報は、だれかが手に取らないと動きません。
そして、手に取れないとわかっている人の机に置いてきたのは、ほかでもない僕でした。
資金繰り表がなかったせいで、その会社がどうなったのか。そこまでは、わかりません。何事もなく過ぎたのかもしれません。
それでも、資金繰り表があれば見えていたものは、あったはずです。来月、再来月のおカネの出入り。銀行に、いつ、何を話しに行けばいいのか。
もし、それが見えないままになったのだとしたら。足りなかったのは、情報ではなかったのだとおもいます。
では、何が足りなかったのか。
持続的でなければ、支援はできない
手を貸すには、時間がかかります。
資金繰り表なら、社長から話を聞いて、数字を集めて、形にする。しかも、1回つくったらおわり、ではありません。
資金繰り表は、毎月更新して、はじめて効くものです。つくっただけなら、意味は半減してしまう。
だとすれば、1回だけタダで手伝っても、続きません。2か月目、3か月目と更新が止まった時点で、資金繰り表は、ただの紙に戻っていきます。
社長がじぶんで更新できるように手伝う、という形もあるでしょう。それでも、そこまでの時間はかかります。
顧問先にとって大事なのは、 資金繰り表が、使われ続けること です。
どの形で手を貸すにしても、その時間に見合う報酬が要ります。
ここで、本音と建前の関係が、ひっくり返ります。
建前は、顧問先の資金繰りを良くすること。
本音は、それを報酬のある仕事にすること。
この2つは、ぶつかるものだと考えられがちです。報酬の話をすると、顧問先のためではなく、じぶんのためにやっているように見えるからです。
ですが、20年前の僕を振り返ると、逆でした。本音を設計しなかったから、建前まで果たせなかった。
本音は、建前を実現するための条件 なのだとおもいます。
持続的でなければ、支援はできない。
きれいごとに聞こえるかもしれません。ですが、僕にとっては、一度、手を離したところから出てきた言葉です。
もちろん、報酬を取らずに、顧問先のために動いている税理士のかたもいるはずです。そこを否定したいわけではありません。ただ、それが2年、3年と続くかどうか。そこは一度、考えてみてもいいのではないでしょうか。
とはいえ、すべての顧問先に、手を貸せるわけでもありません。
手を貸せないなら、そう言うのも支援のうち
いま振り返って、いちばん中途半端だったのは、手を貸さなかったことよりも、 情報だけ置いて、黙っていたこと だとおもっています。
手を貸すなら、費用がかかります、と言う。
手を貸せないなら、こちらではできません、と言う。
どちらを言っても、社長は次を選べます。費用をかけて頼むのか。じぶんでやるのか。ほかの人を探すのか。
黙っていると、社長は、頼んでいいのかどうかもわかりません。顧問料の範囲なのか、別料金なのか、そもそも税理士に頼むことなのか。わからないから、だれにも頼まない。そして、資金繰り表はつくられないまま、ということもあるでしょう。
だから、いまの僕は、 「メニュー」 をつくって、見せるようにしています。
メニューがあるから、社長は、頼めるのかどうか、頼むかどうかを判断できる。税理士の側も、「顧問料の範囲でしょ」と受け取られる前に、線を引いておけます。
では、そのメニューには、何を載せるのか。顧問料との線は、どこで引くのか。顧問先に、どう見せるのか。
ここから先は、記事1本ではお話ししきれないところです。
11月に、顧問税理士のかた向けのセミナーをひらきます。
顧問先の資金繰りを良くする、という建前と、それを報酬のある仕事にする、という本音。その両方を、同じテーブルに出して考える時間にするつもりです。
「話はした」で止まっている顧問先がある。手を貸したいけれど、どう切り出せばいいかわからない。そんな税理士のかたと、メニューのつくり方から、いっしょに考えられたらうれしいです。
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まとめ|その情報は、いま、どこにあるか
きょうは、顧問先の資金繰りや融資に、もっと関わりたい税理士のかたに向けて書いてきました。
要点を、3つにまとめておきます。
- 情報を渡しただけでは、支援は顧問先の机の上で止まることがある
- 手を貸すには時間がかかり、時間には値段が要る。本音は、建前を実現するための条件
- 手を貸せないなら、そう言うのも支援のうち。メニューがあるから、社長は判断できる
最初の1歩
顧問先に「あったほうがいいですよ」と伝えたまま、その後を聞いていない話を、1つおもい出してみてください。
その情報は、いま、顧問先のどこにあるでしょうか。

