「おかげさまで、資金繰りの悩みも小さくなりました」
ある社長から、そう言っていただいたことがあります。うれしい言葉です。ただ、その社長の話をよく聞くと、悩みは小さくなっていませんでした。
「おかげさまで、悩みも小さくなりました」
きょうは、資金繰りが心配で、つい経費を削ることばかり考えてしまう、という社長に向けて書きます。
先に本記事の要点からいうと…
- 社長の悩みは、小さくならない。 「距離」 が変わる
- 距離を変えるのは、先を見る道具と、先に手当てしたおカネ
- いまの悩みが1年前と同じ距離なら、距離を変える手がまだ打てていないのかもしれない。遠くなっていれば、前に進んでいる
冒頭の言葉は、融資の相談でお付き合いのある社長から、いただいたものです。正確には、「以前は資金繰りで悩んでいたのに、おかげさまで、いまはその悩みも小さくなりました」でした。
ただ、その社長が、いま何の話をしているかを聞くと、悩んでいないわけではありません。
むしろ、考えることは増えているように見えます。
では、 小さくなったのは、ほんとうに悩みだったのでしょうか。
小さくなったのではなく、向きが変わっていた
その社長の、「前」と「いま」を並べてみます。
「前」は、目の前の資金繰りに不安がありました。
今月の支払いが回るか。来月は大丈夫か。そこにアタマが向いているので、投資の判断ができずにいたのです。
関心事は、いつも「経費をどう抑えるか」でした。
「いま」は、ちがいます。
新しく始めた事業を、どう軌道に乗せるか。設備も要る事業なので、採算を検討しながら、投資にも積極的です。
悩んでいないわけではありません。採算は合うのか、設備はいつ入れるのか。考えることは、むしろ多い。
悩んでいる量は、たぶん、あまり変わっていません(と、推測します)。
変わったのは、 悩みの「量」ではなく、「いつのこと」を悩んでいるか です。
「前」は、今月のことを悩んでいた。「いま」は、1年先のことを悩んでいる。
それでも本人には、「小さくなった」と感じられるのです。今月の支払いの心配は、たしかに消えているからです。
だから、「小さくなりました」という、量の言葉で出てくる。
では、その「いつのこと」とは、何なのか。
悩みには「距離」がある
ここでは、これを悩みの 「距離」 と呼んでみます。
同じ「資金繰りの悩み」でも、距離がちがうのです。
- 近い悩み:今月の支払いが回るか
- 中くらいの悩み:数か月先の、納税や賞与などのまとまった支払い
- 遠い悩み:1年先の備えや、新しい事業への投資
どれが正しい、という話ではありません。どの会社にも、近い悩みがある時期はあります。
ただ、距離によって、打てる手が変わります。
近い悩みばかり見ていると、打てる手も「削る」ことに偏りがちです。今月の支払いを乗り切ることが、何より優先されるからです。
いっぽうで、距離が遠くなると、「備える」「仕込む」という手が打てるようになります。
少し、耳の痛い話をします。
経費を削ることで悩みを小さくしようとするほど、目に入るのは今月のことだけになり、 悩みの距離は、近いまま固まっていきます。
不安なときに、まず経費から手をつける。それは、自然なことです。そこを責めたいわけではありません。
ただ、削っても削っても悩みが減らない、と感じているなら、悩みの大きさではなく、距離のほうを見てみてもいいのかもしれません。
では、その社長は、どうやって距離を変えたのでしょうか。
距離を変えたのは、1年先までの資金繰り表と、先に手当てしたおカネ
その社長がやったことは、ふたつです。
1つめは、1年先までの資金繰り表をつくったこと。この先のおカネの出入りを、長い目で見るようにしたのです(資金繰り表については → その資金繰り表、社長はどこで考えていますか)。
2つめは、足りなくなる前に、先に資金を手当てしたこと。借入を組み替えたり、新しく融資を受けたりしながら、手元のおカネを厚くしていきました(→ 「回っているうちは借りない」の「回る」には、中身がない)。
ここで、順番に目を向けてみてください。
目の前の不安が消えたから、遠くを見られるようになった、のではありません。
遠くを見て、先に手を打ったから、目の前の不安が片づいた のです。
今月の支払いの心配は、今月のことだけを見ていても、なかなか消えません。1年先まで見通して、必要なおカネを先に手当てしてあるから、今月の支払いに追われずに済むようになる。
そうして空いたアタマに、新しい事業の悩みが入ってきた。
悩みは、減ったのではありません。入れ替わったのです。
悩みを小さくするより、距離を変える
悩みを小さくしたい。できれば、なくしたい。
社長がそう願うのは、当然のことだとおもいます。
ですが、僕の考えは少しちがいます。
悩みは、小さくしなくていい。距離を変える。
遠くなっても、悩みはあります。新しい事業が軌道に乗るのか、設備の投資は回収できるのか。むしろ、近い悩みより答えが出にくいかもしれません。
ただ、遠い悩みは、前に進んでいる会社の悩みです。
今月の支払いを悩んでいるとき、会社はその場で踏ん張っています。1年先の投資を悩んでいるとき、会社は前に向かって動いています。
同じ「悩んでいる」でも、ずいぶんちがうわけです。
だとすれば、目指すのは「悩みのない会社」ではなく、 「遠い悩みを持てる会社」 なのではないでしょうか。
ところが、ここにひとつ、やっかいなことがあります。
距離が変わったことは、本人には見えにくい
冒頭の社長も、「小さくなりました」と言っていました。
距離が変わった、とは言っていません。
渦中にいると、悩みの距離が変わったことは、見えにくいのです。毎日、なにかしら悩んでいる。その実感は変わらない。だから「まだ悩んでいる」とも感じるし、うまくいっている日は「小さくなった」とも感じる。
3年日記、というものがあります。
同じページに、3年ぶんの同じ日を書きこんでいく日記です。きょうを書くとき、1年前と2年前の、同じ日が目に入る。
変化は、並べたときに、はじめて見えるのです。
悩みも、同じではないでしょうか。
1年前に悩んでいたことと、いま悩んでいることを、並べてみる。
同じ距離のままなら、距離を変える手が、まだ打てていないのかもしれません。遠くなっていれば、悩みが消えていなくても、前に進んでいます。
(ちなみに、社長の悩みを時系列で残しておいて、ときどき一緒に並べてみる。これを、支援のなかに入れてみようと、いまおもっているところです)
まとめ|悩みは、遠くなればいい
きょうは、資金繰りが心配で、つい経費を削ることばかり考えてしまう、という社長に向けて書いてきました。
要点を、3つにまとめておきます。
- 社長の悩みは、小さくならない。 「距離」 が変わる
- 距離を変えるのは、1年先までの資金繰り表と、先に手当てしたおカネ
- いまの悩みが1年前と同じ距離なら、距離を変える手がまだ打てていないのかもしれない。遠くなっていれば、前に進んでいる
最初の1歩
いま、いちばん気になっている悩みに、「これは、いつの話か」を書き添えてみてください。
今月の話なのか、数か月先の話なのか、1年先の話なのか。
書き添えてみると、悩みの大きさとは別のものが見えてきます。
社長がいま悩んでいるのは、いつのことでしょうか。
悩みの距離を遠くする、その入口として、借りないまま1年たつと、預金がどう減っていくか。その減り方を、社長ご自身の会社で眺めてみる回を、無料メール講座 『銀行融資ラボ』 の第1回に置いています。
よかったら、のぞいてみてください。

