「返済の原資は、どうお考えですか」
「これから、売上をとってきます」
資金が苦しくなった社長と、そんなやりとりをしたことがあります。
「これから、売上をとってきます」
きょうは、売上の見込みをもとに、資金繰りや借入を考えている社長に向けて書きます。「この売上は、入るはず」と考えたことのあるかたへ(多くの社長が、いちどは考えたことがあるのでは…?)。
先に本記事の要点からいうと…
- 計画は、当てるためではなく、実際との 「ズレの距離」 をはかるために立てる
- ズレをはかれるのは、見込みを控えて、実際と比べているから。外れたら失敗、とおもっていると、その控えが続かない
- 見込みに置いておくと、外れたときに、何が抜けたのかがすぐにわかる。寄りかかっている売上も、先に見えてくる
税理士事務所に勤めていたころの話です。
不動産業の社長が、融資を受けたいとおっしゃいました。資金が苦しくなっていた時期です。
返済の原資について聞くと、答えは「これから売上をとってくる」でした。
当時の僕は、融資の支援をしていませんでした。だから、それ以上は何も言わず、かかわりもしなかった。
社長は、じぶんで銀行に相談するとおっしゃって、結局、融資は受けられなかったと聞いています。
銀行の判断の中身までは、わかりません。ただ、返済の原資が「まだ取れていない売上」だけだと、銀行は判断しにくい傾向があります。
これから取ってくる売上から生まれるおカネも、返済の原資になりえます。ただし、その売上が取れなかったときにどうなるか。そこまで見えている必要があります。
いまの僕なら、あのとき何を聞いたか。
その前に、そもそも計画とは何のためにあるのか、から考えてみます。
計画は、占いではない
売上の計画や予測を、当たるもの、当てるものと考えている社長に、ときどきお会いします。
当てるつもりで立てた計画は、だんだん「決まったこと」に見えてきます。
来月はこれだけ入る。だから、この支払いは大丈夫。この借入も、返していける。
先々の売上を、アテにしすぎてしまうわけです。
でも、計画は 「占い」 ではありません。
当てることを前提にしない。むしろ、外れることを前提にする。
それでも立てるのは、実際との 「ズレの距離」 をはかるためです。
計画があるから、実際とのズレがわかる。ズレがわかれば、直しやすくなる。
計画は、先を当てる道具ではなく、いまの位置をはかる物差しに近いのです。
当たるはずだとおもいこむほど、計画は役に立たなくなります。
では、計画が外れたとき、そこから何が見えるのでしょうか。
外れた数字を、そのまま残しておけるか
不動産業の社長の話に戻ります。
いまの僕なら、まず、資金が苦しくなった経緯を、あらためて整理します。
いつごろから、何が、どれくらい想定とちがっていたのか。
社長にも、いまの 「真の問題」 を見てもらうためです。
ここでいう真の問題は、資金難そのものではありません。資金難は、結果です。真の問題は、そこに至った原因のほうにあります。
原因が見えないまま、「これから売上をとってくる」と言っても、その売上がなぜ足りなかったのかには、答えていないことになります。
それに、売上が見込みどおりに入っても、その全部を返済に回せるわけではありません。仕入れや経費の支払いもあります。さらに、すでにある借入の返済もあります。
売上が取れることと、借入を返せることは、別の話なのです。
そして、経緯を整理するというのは、 あとからズレの距離をはかる作業 です。
本当はいくら入るはずだったのか。実際は、いくらだったのか。その差は、どこで開いたのか。
計画が先にあれば、この作業を、資金が苦しくなってからではなく、毎月できます。
ただし、条件がひとつあります。立てたときの見込みを、控えておくことです。
当てるつもりで立てた計画でも、控えてあれば、差ははかれます。逆に、外れる前提で立てても、毎月上書きしてしまえば、比べる元が残りません。
それでも僕が「外れる前提で」と言うのは、そのほうが控えが続くからです。
外れたら失敗、とおもっていると、外れた数字は書き換えたくなる。見返したくも、なくなります。外れて当たり前だとおもえば、外れた数字も、そのまま並べておけます。
では、外れる前提で置いておくと、何が変わるのか。最近、それが目の前で起きました。
五分五分の案件を、予想に入れていた会社
ある顧問先の話です(守秘義務は守りつつ)。
その会社では、毎月、年間の売上の予想を見直しています。
とある9月の時点で、その予想に、プレゼン待ちの新規案件が入っていました。決まれば、下半期の景色がかなり変わる規模の案件です。
見込みは、五分五分。
決まっていない案件を、予想に入れておく。それ自体は、まちがいではありません。
10月のはじめ、プレゼンの結果が出ました。
負けでした。
10月の面談で予想を開くと、社長は、その案件をじぶんで予想から消していました。
外れたこと自体は、残念です。でも、予想に置いてあったから、どこから何が抜けたのかが、すぐにわかる。
その面談では、予想を案件ごとに控えておくことにもしました。翌月、控えと実際を並べて、差を見るためです。
しかも、置いておくことの効きは、外れたときだけではありませんでした。
置いておくと、寄りかかり具合が見える
その会社では、いま、別の大きな案件の提案が進んでいます。
予想を見直すと、いまの年間の見込みは、その1件が決まる前提でできていました。見込みの利益の、半分以上をその1件が占めています。
逆に言えば、その1件が落ちたとき、どうなるかも見えます。
利益から生まれるおカネと、借入の返済が、ほぼトントンになる。
ここまで見えていると、決まる前から、次の手を考えられます。どこまで値引きの交渉に応じるか。落ちたときに、どこで埋めるか。
ところで、この会社の話を書こうとして、僕自身、ひとつ、気づいたことがあります。
見る側の僕も、五分五分を7割で覚えていた
この記事を書く前、僕は、9月にプレゼンを控えていた案件を「7割くらいで受注できそうな話」として覚えていました。
ところが、面談の記録を見返したら、書いてあったのは「五分五分」でした。
僕のほうが、アテにしていたのです。
税理士として、計画と実際のズレを見る側にいるはずの僕もまた、気づいたら、見込みを少し盛って覚えていた。
人の記憶は、見込みを盛る方向にズレることがあります。決まってほしい案件ほど、そうなのかもしれません。
だから、記憶ではなく、控えておいた数字と比べる。
外れる前提の計画は、どうつくるか
むずかしいことは、ありません。
- 売上の見込みを、案件ごとに書き出す
- 決まったものと、まだ決まっていないものを分ける
- まだ決まっていないものには、見込みの強さを一言そえる(五分五分、など)
これを、毎月の時点で控えておきます。
そして翌月、控えと実際を並べる。ズレていたら、どこが、どれくらいズレたのかを見る。
ポイントは、当たったかどうかを採点しないことです。外れて当たり前の数字なので、見るのはズレの距離だけです。
もうひとつ。まだ決まっていない案件が、年間の見込みの何割を占めているか。そこも、ときどき眺めておくと、寄りかかり具合が見えてきます。
まとめ|その売上は、いま、何割の見込みですか
きょうは、売上の見込みをもとに、資金繰りや借入を考えている社長に向けて書いてきました。
要点を、3つにまとめておきます。
- 計画は、当てるためではなく、実際との「ズレの距離」をはかるために立てる
- ズレをはかれるのは、見込みを控えて、実際と比べているから。外れたら失敗、とおもっていると、その控えが続かない
- 見込みに置いておくと、外れたときに、何が抜けたのかがすぐにわかる。寄りかかっている売上も、先に見えてくる
最初の1歩
来月までの売上の見込みを、案件ごとに1枚に書き出してみましょう。
まだ決まっていない案件には、見込みの強さを一言。そのまま、控えておきます。
その売上は、いま、何割の見込みでしょうか。
ズレの距離が見えてくると、次は、外れたときにどう備えるか、という話になります。借入も、その備えのひとつです。いつ、どれくらい借りておくか。その判断の順番を、無料メール講座 『銀行融資ラボ』 でお話ししています。
よかったら、のぞいてみてください。

