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「銀行のために作った書類」と、社長が感じるとき

融資の計画書を、銀行に伝わるかたちに整える。税理士が手伝うことができる仕事のひとつです。
ただ、整えれば整えるほど、社長の気持ちが書類から離れていくことがあります。
銀行に合わせることと、社長の熱を守ることは、両立できるのか。考えてみました。

目次

「銀行のために作った書類」

きょうは、顧問先の融資で、計画書や説明資料づくりを手伝っている税理士のかたに向けて、書いてみます。

先に本記事の要点からいうと…

  • 銀行に合わせるのは形であって、中身ではない。ただ、内容や表現を選ぶ段階で、社長の熱まで落としてしまいやすい
  • 熱は、消さずに置き場所を変える。期待感はデータに、入れ込みは「なぜいま、なぜ自社が」に置き換える
  • その置き場所は、社長と一緒に決める。そうしないと、どれだけ整っていても社長のものではなくなる

個別相談で、ある社長から、ほかのコンサルタントが作った書類について、不満をうかがったことがあります。

「銀行のために作った。そういう感じがする」というのです。

社長の会社の書類なのに、社長のものになっていない。ここでは、これを 「銀行のために作った書類」 と呼んでみます。

銀行向けにきれいに整った書類ほど、社長の声が聞こえにくくなることがあります。

もちろん、作った側に悪気はないはずです。融資を通してあげたい。そのために、銀行に伝わりやすいかたちへ整える。むしろ、社長のためをおもっての仕事だとおもいます。

まちがっているのは、善意ではない。

だとすると、どこでずれたのでしょうか。

合わせるのは形で、中身ではない

銀行に合わせる、と聞くと、どこか「迎合」のような響きがあります。

社長の言いたいことを引っこめて、銀行が喜ぶことだけを書く。そんなイメージです。

でも、僕の考えは少しちがいます。

変えるのは、「形」のほうです。「中身」は、社長のもの。

社長が言いたいことを、銀行が審査で見るかたちに変えられないか。いつも考えているのは、そこです。

たとえば、新しい事業の話になると、社長はその事業の社会的な意義や目新しさを、熱をこめて話してくださいます。

いっぽうで、銀行が審査で見るのは、その事業が採算に合うのか。資金繰りや返済にどう影響するのか。

この2つは、そのままではかみ合いません。

だから、あいだをつなぐ。数字をもとに、社長の話から銀行の見るところへ、橋をかけられないかを考えます。

ここまでは、多くの税理士のかたも、やっていることだとおもいます。

気をつけたいのは、その途中です。

銀行に伝わるかたちを探しているうちに、 どの内容を残すか、どんな言葉で書くかの段階で、社長の熱まで落としてしまう 。

目新しさの話は、審査に関係なさそうだから外す。社長の言い回しは、硬い言葉に置き換える。ひとつひとつは、もっともな判断です。

でも、積み重なると、社長が読んでもじぶんの言葉が見つからない書類ができあがります。

その整え方、社長の熱まで消していないでしょうか。

熱は、置き場所を変えて残す

では、熱を残すとは、どういうことか。

前に、新しい事業に賭けたい社長の話を書きました(→ 社長の合理を、銀行の合理へ翻訳する)。

似たような場面は、ほかにもあります。

新しい事業への思いを、社長が前面に出して語ろうとしていた計画書で、僕は構成を組み直しました。

まずは、いまの事業の話から入る。

銀行が最初に知りたいのは、「いまの事業」がどうなっているか、だからです。

いまの事業の現状を整理する。そのうえで、課題を挙げる。そして、その課題の解決に結びつく流れで、新しい事業に触れる。

新しい事業を消したわけではありません。 いまの事業を補う位置へ、置き場所を動かした わけです。

どうしてもつなげられないものは、優先順位を下げて、補足に回します。

このとき、補足は口で伝えずに、紙に書いて渡すようにしています。

会話で出すと、話が長くなります。下手をすると、補足のほうがメインのように聞こえてしまう。紙なら、どちらが本題で、どちらが補足か、並び順で見せられます。

ただ、置き場所を変えるだけでは、熱はまだ審査の材料になりにくいのです。

期待感にはデータを、入れ込みには「なぜいま、なぜ自社が」を

新しい事業に対して、社長はたいてい、「期待感」や「入れ込み」を持っています。

それ自体は、事業を始める人として当然のことだとおもいます。

ただ、そのままでは、銀行は判断のしようがない。だから、熱をできるだけ客観的な材料に置き換えて伝えるように気を配っています。

置き換え方は、熱の種類で分けています。

期待感には、それを裏づけるデータを添える。

「これは売れるはずだ」という手応えがあるなら、その手応えがどこから来ているのか。数字で示せるものを、横に置きます。

入れ込みには、論理的なストーリーをつける。

なぜいま、このタイミングなのか。なぜ、ほかの会社ではなく自社が始める必要があるのか。社長の「どうしてもやりたい」を、この2つの問いに答える筋道に組み直します。

熱を冷ましているのではありません。熱の形を変えている。

データも、なぜいまも、なぜ自社がも、もとをたどれば社長の話のなかにあるものです。それを、銀行が読める順番に並べているだけ、ともいえます。

ただ、ここまでは技術の話です。技術だけだと、熱はやっぱり逃げてしまいます。

社長と一緒に決めないと、熱は逃げる

いちばん大事にしているのは、これを社長と一緒に決めることです。

どこに置くか。何を補足に回すか。どう置き換えるか。ひとつひとつ、社長の同意と共感を得ながら進めます。

そうしないと、社長の熱は逃げてしまうからです。

置き場所も、置き換え方も、正しかったとします。それでも、社長の知らないところで決まったものなら、社長にとっては「銀行のために作った書類」です。

冒頭の社長の不満も、書類の中身というより、ここにあったのではないか。僕は、そう推測しています。

前に、税理士が代わりに書くほど、社長は面談で説明できなくなる、という話を書きました(→ 代わりに書くほど、社長は説明できなくなる)。

あちらは、説明する力の話でした。今回は、熱の話です。

社長に理解してもらいたいのは、この作業が銀行のためではない、ということ。 社長の熱を、銀行にもっと伝わりやすくするためにやっている 。

そう受けとってもらえたとき、組み直した計画書は、社長のものになります。

変えるのは、置き場所と伝え方。それを決めるのは税理士ひとりではなく、社長と一緒に、なのだとおもいます。

それでも、削るものはある

銀行が知りたいことでなければ削る、というのも1つの考え方です。実際、言わないほうがいいことも、ゼロではありません。

それでも基本は、社長が言いたいことは言ってもらったほうがいい。

言いたいことを飲みこんだままだと、社長のなかにフラストレーションが溜まります。そして、肝心なことを伝える熱まで逃げてしまう。

面談で話すのは、税理士ではなく社長です。そのとき、社長のなかに熱が残っているかどうかは、書類の出来と同じくらい、効いてくるのではないでしょうか。

だから、削るときも、社長と一緒に決めます。

まとめ|変えるのは、置き場所と伝え方

きょうは、銀行に合わせて計画書を整えるとき、社長の熱をどう扱うかについて書いてきました。

要点を、3つにまとめておきます。

  • 銀行に合わせるのは形で、中身ではない。ただ、内容や表現を選ぶ段階で、社長の熱まで落としやすい
  • 熱は、置き場所を変えて残す。期待感にはデータを、入れ込みには「なぜいま、なぜ自社が」を
  • その置き場所は、社長と一緒に決める。そうしないと、どれだけ整っていても「銀行のために作った書類」になる

最初の1歩

次に顧問先の計画書を手伝うとき、社長が話したのに本文に入れなかったことを1つ選んで、「消した」のか「置き場所を変えた」のかを、社長に説明してみる。

その書類は、社長のものになっているでしょうか。


顧問先の融資で、社長と銀行のあいだに立っているかたへ。

社長の熱を、税理士ひとりで整えるのではなく、社長と一緒に置き場所を決める。その進め方を、融資相談の流れのなかに組みこんだ教材があります。

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たとえば、第17章の「銀行への説明を一緒に整理する」では、税理士が答えを作って渡すのではなく、社長がじぶんの言葉で話せるように準備する流れを書いています。付録10「銀行面談前の確認メモ」は、その事前の打ち合わせで、そのまま使える道具です。

社長の書類を、社長のものにしたまま、銀行に届けたい。そう感じることがあれば、よろしければ、のぞいてみてください。

この記事を書いた人

1975年生まれ、横浜在住。税理士、発信者、習慣家。2016年に独立以来、きょうまでブログは毎日更新中。近年は、銀行融資支援を得意な仕事にしている。借りれるうちに借りれるだけ借りよ、が口グセ
現在は1日1万歩以上、ひと月150kmほど走る。趣味は、コーヒーとサウナ、読書、散歩、アニメ。スタバでMacがマジカッコいい!と思い続けてる
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