「決算書はお渡ししてますよ」。その一言のうしろで、黒字の要因を、まだ伝えきれていないかもしれません。
黒字も赤字も、社長の口から。察させてしまうと、判断が、社長にとって不利な方向へ振れていく、という話をします。
「黒字の要因、なんと伝えていますか?」と聞いたら、言葉が止まった
きょうは、銀行との関係を、これから整えていきたい社長に向けて書いてみます。
先に本記事の要点からいうと…
- 決算書だけでは、銀行に「黒字の要因」までは伝わらない
- 察させると、黒字は「まぐれ」に、赤字は「改善する気なし」に読まれかねない
- 銀行に渡したいのは、①社長の口からの利益要因 と ②向こう1年の資金繰り表
先日、ある社長からのご相談で、こんな場面がありました。
年商1億円くらいの、サービス業を営む社長です。会社の業績は、ちゃんと黒字。ご本人も、それを不安に感じているわけではなさそうでした。
ただ、ふと気になって、僕からこう尋ねてみたのです。
「社長、いまの黒字って、なんで黒字になっているんですか?」
社長は、少し、言葉が止まりました。
ぼんやりしているわけではなく、むしろ真剣に考えようとしている表情で、です。
その様子を見ながら、僕の中に、ひとつの気配が立ち上がりました。
(もしかして、この社長は、銀行にも同じことを伝えていないのではないか)
そのまま、もう一段お尋ねしてみました。
「銀行の担当者さんには、黒字の要因って、どう説明されてますか?」
社長からの答えは、というと…
「決算書を、お渡ししてます」
その一言で、輪郭がはっきりしました。
決算書は渡している。でも、黒字がどこから来ているのかは、まだ、伝わっていない。
このパターンは、実は、相談の場面でとても多いのです。
察させると、黒字は「まぐれ」になる
決算書を渡している。数字は届いている。だから、あとは銀行のほうで見て、判断してもらえるはず。
これは、社長の合理としては、じゅうぶん筋が通っています。
ただ、銀行の側の物差しに乗せてみると、少し違う景色が見えてきます。
決算書に載っているのは、「結果」です。売上、粗利、営業利益、経常利益。数字は並んでいます。ですが、その黒字が どんな要因で立ち上がったか は、決算書だけでは、なかなか伝わりません。
そうなると、銀行の側は、要因を「推し量る」しかなくなります。
推し量る、ということは、判断材料が欠けたまま、なにか答えを出さないといけない、ということです。銀行の側もリスクは取りにくい。だから、材料が欠けたときは、悪いほうに振れやすいところがあります。
- 黒字を察させる → まぐれかもしれない
- 赤字を察させる → 改善する気がないのかもしれない
どちらに転んでも、社長にとって不利な方向に振れてしまう。 判断材料の欠落は、中立ではなくて、マイナスに近い のです。
これは、銀行員が冷たいから、というわけではありません。
判断材料が手元にないと、リスクを取りにくいのが銀行の側、というだけの構造の話です。
だから、社長の側で、そこを埋めていく。それだけで、景色は静かに変わりはじめます。
社長の口から、黒字の要因を
銀行に渡したい1つめは、 「利益の要因」を、社長の口から です。
黒字であれば、なぜ黒字なのか。
- どんな構造で黒字になっているのか
- 一時的な要因なのか、続きそうなのか
- 来期以降も、同じかたちで再現できそうか
赤字であれば、なぜ赤字なのか。
- 一過性の要因なのか、それとも構造の問題か
- 改善策として、なにをどこまで進めているのか
- どのタイミングで、どのくらいの回復を見込んでいるのか
数字だけを見せて、判断は向こうにお任せ、ではなく。要因の見立てを、社長のことばで添えていく。ここが、いちばん大切なところだと考えています。
さきほどの相談の続きです。
社長には、「黒字の要因を、いっしょに言葉にしてみましょうか」とお伝えしました。
社長ひとりで話そうとすると難しく感じていたことも、いっしょに整理しはじめると、意外なほどスラスラと言葉が出てきました。
- 主要な取引先が、今期は動きが良かった
- ある新規サービスが、想定より早く回りはじめた
- 一部の外注費を、内製に切り替えていた
- 経費のかかり方に、ちょっとした工夫が入っていた
こうして要因を並べていくと、黒字が「たまたま」ではなくて、社長の判断や現場の動きから、ちゃんと立ち上がってきていることが、目に見える形になっていきます。
そのうえで、社長が銀行担当者に、じぶんの口からその要因をお伝えするようにしてもらいました。決算書だけ渡していたころと比べると、担当者の反応も、ずいぶん変わってきたようです。
じぶん自身、正直、ここまで社長に踏み込んでお尋ねするかどうか、迷う場面はあります。
ただ、この「言葉にする」までのひと手間を挟むかどうかで、黒字の受け取られ方は、けっこう変わってしまうものだとおもいます。
決算書は「過去」、資金繰り表は「未来」
銀行に渡したいもう1つの材料は、 向こう1年の資金繰り表 です。
決算書は、過去の結果です。ある一定期間、会社がどう動いたか、あとから写した写真のようなもの。
でも、銀行が本当に気にしているのは、そこよりも先。未来のほうなのです。
- 向こう1年、この会社は、おカネがちゃんと回るのか
- 途中で、資金がショートしそうな時期はないか
- 大きな入りや出があるとしたら、いつ、いくらか
なぜかというと、貸したおカネは、当然、返してもらうことになります。返してもらう原資が、これから先、ちゃんと残る見通しがあるのかどうか。ここが、貸すか貸さないかの、いちばん大事な物差しになるからです。
言いかえると、決算書は「過去」、資金繰り表は「未来」。
銀行が知りたいのは、未来のほうです。
ここまでで、銀行に渡したいものが、2つ、そろってきます。
- ①社長の口から、利益の要因
- ②向こう1年の資金繰り表
この2つが揃うと、銀行の側は「判断できる材料」を、社長からきちんと預けてもらえた状態になります。もう、要因を推し量る必要はありません。悪いほうに振れやすい、という理由も、少なくなっていくわけです。
段取りが整うと、銀行のほうから「取りに来る」
もうひとつ、僕がふだん見ている景色があるので、少しだけご紹介させてください。
銀行と話をするときに、こんな段取りまで整えている社長がいらっしゃいます。
- 現状:予実対比・分析
- 先行き:計画と、その進捗の共有
現状については、いま期の予算と実績を並べたうえで、なぜズレたのか、どこで戻せそうかを整理して持って行く。
先行きについては、今後の計画と、それがいまどこまで進んでいるかを、資料にしてお渡しする。
ここまで、ちゃんと持って行ける社長は、いっぽうで、そう多くありません。
だからこそ、銀行からの信頼の温度は、ぐっと変わってきます。
「この社長は、ちゃんと会社を見ているし、じぶんの言葉で説明できる」
「必要な材料を、こちらからお願いする前に、揃えて持ってきてくれる」
そういう見立てが、銀行員の中で、静かに積みあがっていく、ということなのですね。
結果として、こういう会社では、こんなことが起こりやすくなります。
社長のほうから追いかけて借りに行く、というよりも、 銀行のほうから「取りに来る」 ようになっていく。
「そろそろ、こんな条件でいかがですか」
「別の商品で、こういう提案があるのですが」
担当者のほうから、そんな声がかかることも、増えていきます。
「察して」の反対側にある景色、と言ってもいいかもしれません。
もちろん、いきなりここまで整えるのは、なかなか大変です。
ですが、目指す方向として、この景色を頭の隅に置いておくと、日々の銀行とのやり取りが、少しずつ変わっていくものだと感じています。
まとめ
きょうは、社長が銀行に「察させてしまう」ことの中身と、どう埋めていくかについて書いてきました。
要点を、3つにまとめておきます。
- 決算書だけ渡すと、銀行は「黒字の要因」を推し量ることになる。判断材料の欠落は、中立ではなくマイナスに振れやすい
- 察させると、黒字は「まぐれ」に、赤字は「改善する気なし」に読まれかねない。どちらに転んでも、社長に不利
- 銀行に渡したいのは、①社長の口からの利益要因 と ②向こう1年の資金繰り表。この2枚が揃うと、景色が静かに変わりはじめる
最初の1歩
いまの決算書を眺めながら、「なぜ、うちはこの数字なのか」を、社長のことばで書き出してみていただきたいとおもいます。
紙でも、メモでも、じぶん専用のノートでもかまいません。うまく書けなくても、順番がバラバラでもかまいません。ひと通り言葉にしてみると、「あ、これは伝えられていなかったな」と気づく箇所が、案外、いくつか出てくるかもしれません。
「察させないで、渡す」を、日々の銀行とのやり取りに、少しずつ入れていく。
その最初の入口として、無料メール講座 『銀行融資ラボ』 をお届けしています。
決算書と資金繰り表を、社長のことばでどう組み立てていくか。ラボの中でも、地続きで考えていきます。よかったら、のぞいてみてください。

