「資金が回っているうちは、借りない」
金利が上がったいま、筋の通った考えに聞こえます。
ただ、この「回っている」には、いつまで、が書いてありません。
「回っているうちは、借りない」
きょうは、金利が上がって利息が増え、「しばらくは借りずに、返して減らしていこう」と考えている社長に向けて書きます。
先に本記事の要点からいうと…
- 「回っているうちは借りない」の「回る」は、いまの話でしかない
- 「回っている」は、2本のものさしで言う。利息を利益でまかなえているか、1年後の預金が月商の何か月分か
- 同じ「借りる」でも、余裕があるうちは備え、なくなってからは博打になる
金利が上がって、利息の支払いが、目に見えて増えてきました。
「資金が回っているうちは、借りない。いまは、借入の残高を減らしていく」
こういう考え方を、見聞きすることが増えています。
利息を減らしたいのは、社長として当たり前の感覚です。払わなくていいものなら、払いたくない。僕も、そうおもいます。
ただ、ひとつ気になる言葉があります。
「回っている」です。
ギリギリで回っている会社も、余裕を持って回っている会社も、どちらも「回っている」と言えます。今月の支払いが、ちゃんと済んだ。その意味なら、どちらも同じです。
「回っている」は、いちばん安心できる言葉で、いちばん中身の決まっていない言葉かもしれません。
もうひとつ、この言葉には、期間が書いてありません。
今月、回っているのか。来月もなのか。1年後も、なのか。
「減らしていきたい」と相談されたとき、僕がまずやるのは、この期間を伸ばしてみることです。
1年後まで並べたら、預金が減っていた
ある社長から、こう相談されたことがあります(守秘義務は守りつつ)。
「利息が増えたので、しばらくは借りないで、返して減らしていきたいんです」
僕は、こう返しました。
「いったん、1年後の資金繰りまでみて、預金残高の水準を確認してみましょう」
目先の金利と、いまの預金残高だけで決めない。やったのは、それだけです。
並べてみると、見えてきたものがありました。
借りないということは、この先1年、返済だけが続くということです。
毎月、決まった額が口座から出ていく。いっぽうで、新しく入ってくる借入はない。商売で増えるおカネより返済のほうが大きければ、その差の分だけ、預金は減っていきます。この社長の会社は、そちらでした。
しかも、元本の返済は費用ではないので、利益からは見えません。損益計算書だけを眺めていると、この減り方は、なかなか実感できないものです。
並べた資金繰りの、いちばん右の列。そこにあった1年後の預金残高を見て、「やっぱり、借りておこう」という話になりました。
その日のうちに、金利の見通しが変わったわけではありません。会社の中身が変わったわけでもない。
変わったのは、見る期間を、今月から1年後まで伸ばしたことだけです。
「回っている」は、今月の話でした。1年後まで並べてはじめて、その「回っている」が、どちらの「回っている」なのかが見えてきたわけです。
ただ、この話をすると、ときどき返ってくる言葉があります。
「1年後なんて、分からないですよ」
「1年後なんて分からない」という社長には
スポット相談で、そう言われたことがあります。
たしかに、そのとおりです。売上がどう動くか、仕入れがどうなるか。1年先を言い当てられる社長は、いないでしょう。
僕は、こう返しました。
「だったら逆に、借りておくという考え方もありますよね」
見えないことも、借りておく理由になりうる、ということです。
以前、金利の先行きは予測しない、という話を書きました(→ 予測しない、という備え)。金利の上がり下がりは、専門家でも読み切れない。だから予測に賭けずに、平時に備えておく。
1年後の資金繰りも、似たところがあります。
見にいけるなら、見にいく。見えないなら、見えないなりに、手元を厚くしておく。
どちらに転んでも、「回っているから、借りない」とは、結論が逆になるわけです。
正直に書いておくと、この返し方には、スポット相談ならではの事情もありました。
その場で、1年分の資金繰り表を一緒につくることはできません。数字を並べて確かめられないぶん、考え方として手渡すしかなかった。そういう限界も込みの、ひと言でした。
ただ、ここまで読んで、「結局、借りろという話か」と感じた社長もいるかもしれません。
そうではありません。借りておくには、条件があります。
「回っている」を、2本のものさしで言う
僕の考えは、こうです。
金利が上がったいまこそ、「回っている」を、感覚ではなく、ものさしで言う。
そのうえで、手元に余裕を持っておくかどうかを決める。ものさしは、2本あります。
1本目は、利息を、利益でまかなえているかどうか。
これを見る指標のひとつに、インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)があります。計算のしかたにはいくつか流儀がありますが、僕はここでは、「(営業利益+受取利息)÷支払利息」で見ています。
受取利息はわずかなことが多いので、ざっくりいえば、営業利益が支払利息の何倍あるか。僕は、最低でも2倍以上を、ひとつの目安にしています(→ 金利が上がると利益がもっと大事になる)。
金利が上がるほど、この指標は注目されやすくなります。
利息が増えても、利益でちゃんと吸収できているなら、利息そのものは問題になりにくい。「利息が増えた」と「利息が重すぎる」は、別の話です。
ただ、ICRで見えるのは、利息だけです。元本の返済は、ここには出てきません。
そこで2本目。1年後の預金残高が、平均月商の何か月分あるか。
冒頭の社長が見たのは、まさにこの数字でした。元本の返済は、手元に置いたおカネから出ていきます。だから、置いたおカネがどこまで減るのかを、1年後の時点で確かめておく。
1年後だけでなく、途中の月も。納税や賞与の月に、いちばん低くなることもあるからです。
僕は実務のうえで、平均月商の2か月分を切る前に動くことを、おすすめしています(→ 借りられるうちに、の「うち」はいつまでか)。
利息は利益でまかなえている。この1年、預金が月商の2か月分を下回らない。
2本とも問題がなければ、僕は、借りられるうちに借りられるだけ借りて、手元に置いておくことをおすすめしています。利息は利益で吸収し、元本は手元から返していく。
1本だけだと、どちらかが抜け落ちます。ICRだけなら、元本で預金が細っていくのが見えない。預金だけなら、利息が利益を食っていても気づけない。
逆にいうと、この2本から外れた「借りる」は、同じ「借りる」でも、まったく別のものになります。
同じ「借りる」でも、博打になるとき
備えとしての借入と、博打としての借入があります。
備えは、余裕があるうちに借りて、手元に置いておくこと。返済は、手元のおカネと利益でまかないます。
博打は、余裕がなくなってから、今日を越すために借りること。返すアテは、「なんとかなる」です。
行動は同じ「借りる」なのに、意味は正反対です。
博打の側にいる社長に、僕は「借りてはいけません」とだけ言うことは、しません。借りる前に、やることを出します。
長い目で見るなら、利益の改善。いま、この瞬間の資金繰りがまずいなら、新しく借りる前に、銀行へ返済条件の変更を相談する。リスケです。
なぜ、借りるより先にリスケなのか。
借りた直後に「返済できません」となると、銀行からは「返せないとわかっていて、借りたのではないか」と映りうるからです。
リスケは、いずれは返してもらえる、という前提があってはじめて成り立つものです。その前提が崩れてしまうと、銀行は支える側ではなく、回収する側に回らざるをえなくなることもある。僕は、そう見ています。
リスケが断られてしまう会社の特徴は、以前にまとめました(→ できるはずのリスケも銀行から断られる会社とは?)。「借りた直後」は、そこに加えておきたい4つめです。
博打で失うのは、おカネだけではありません。 次に打てるはずだったリスケまで、打ちにくくなりかねません。
まとめ|「回っている」は、1年後まで見て言う
きょうは、「回っているうちは借りない」の「回る」について書いてきました。
要点を、3つにまとめておきます。
- 「回っているうちは借りない」の「回る」は、いまの話でしかない。1年後まで並べると、見えるものが変わる
- 「回っている」は、2本のものさしで言う。利息を利益でまかなえているか、1年後の預金が月商の何か月分か
- 同じ「借りる」でも、余裕があるうちは備え、なくなってからは博打になる
最初の1歩
電卓で、2回だけ計算してみてください。
1回目は、いまの預金残高を、平均月商で割る。いまの預金が、月商の何か月分あるかが出ます。2か月分を切る前に、相談を始めておきたいところです。
2回目は、これから1年分の返済額を、いまの預金残高で割る。たとえば0.6なら、いまの預金の6割にあたる返済が、この1年にある、ということです。こちらは、合格ラインのある数字ではありません。返済の重さに気づくための数字です。
そのうえで、1年分の資金繰りを月ごとに並べてみる。預金が月商の2か月分を切る月があるかどうか。そこが、「回っている」の期限です。
いまの「回っている」は、1年後も、回っているでしょうか。
借りないまま1年たつと、「回っている」ように見えるあいだにも、預金は、じんわりと減っていきます。その減り方を、社長ご自身の会社で眺めてみる回を、無料メール講座 『銀行融資ラボ』 の第1回に置いています。
よかったら、のぞいてみてください。

