「プロパー融資は難しいですね」
そう言われたとき、それが自社の実力なのか、その銀行のいまの姿勢なのか。
切り分けられるでしょうか。
「うちは、この銀行とだけ」
きょうは、銀行との取引が1行だけで、いまのところ不便を感じていない社長に向けて書いてみます。
先に本記事の要点からいうと…
- よく語られる複数行取引の理由2つは、どちらも「いざというとき」の話。だから先送りされる
- 1行しか知らないと、その銀行から言われたことを「うちの実力」だと受け取りやすい
- 2行目は、銀行を比べるために持つのではない。自社が外からどう見えているかを知るために持つ
(守秘義務は守りつつ…)以前、こういう会社がありました。
取引している銀行は、1行だけ。金利は、いま振り返れば高めでした。融資も、信用保証協会の保証がついたものばかり。銀行が直接リスクを取るプロパー融資は、出ていませんでした。
言われるままに借りて、言われるままの条件で返す。そういう状態が、しばらく続いていたわけです。
先に書いておきます。 これは、その銀行が悪かった、という話ではありません 。
銀行は、その会社に対して、その銀行なりの答えを返していただけです。悪意があったわけでもない(と、推測します)。
ただ、答えがひとつしかない状態を選んでいたのは、こちら側でした。
複数行取引の理由は、たいてい2つで語られる
銀行との取引を1行にしぼらないほうがいい。その理由として語られるのは、だいたい2つです。
ひとつは、リスク分散。
その1行が方針を変えたり、支店の担当者が代わったりして、これまでのようには借りられなくなることがあります。そのとき、ほかに頼れる先がなければ、資金繰りは一気に苦しくなるでしょう。
もうひとつは、交渉力。
ほかにも取引先がある会社と、そこしかない会社。銀行から見たとき、同じようには見えません。比べられる状態にあること自体が、条件に効いてくる傾向があります。
どちらも、そのとおりだとおもいます。僕自身、ながらくこの2つで説明してきました。
2つとも「いざというとき」の話です
ところが、この2つには共通点があります。
どちらも、未来の保険だということです 。
貸してくれなくなったとき。条件を渋られたとき。困った場面が来たときのために、いま備えておきましょう、という話です。
保険は、正しい。正しいのですけれど、いま困っていない人を動かす力は、あまり強くありません。
「たしかに、そのとおりだね」
「ただ、いまは資金繰りも回っているし」
「そのうち、考えます」
ここで止まります。否定されたわけではない。納得もしている。それでも動かない。
備えの話は、いつでも「後回し」にできてしまうのです。
3つ目の理由は、モノサシを持つため
ここに、3つ目を足したいとおもっています。
「基準(モノサシ)を持つため」です。
1行としか付き合っていないと、その銀行の対応が、そのまま「銀行とはそういうもの」になります。
相談してから回答まで3週間かかる。そういうものだとおもう。
事業計画を求められたことがない。求められないのが普通だとおもう。
金利は、この水準。高いのか安いのか、判断のしようがない。
そして、いちばん怖いのが、これです。
「プロパー融資は、難しいですね」
銀行からそう言われたとき、社長はどう受け取るでしょうか。
たいていは、会社の問題だと受け取ります。うちの数字が不十分なんだな、と。
ところが、それは支店の方針かもしれません。その年の融資姿勢かもしれない。その担当者にとっての優先順位かもしれない。
比べる相手がいないと、返ってきた答えを、ぜんぶ「自社の実力」だと受け取りかねません 。
べつの銀行なら、ちがう答えが返ってくることもあります。
ただ、銀行の良し悪しを比べたいわけではありません。
比べる対象は、銀行ではなく、自社の見え方のほうです 。
うちの会社は、外からどう見えているのか。それを知るためのモノサシが、いま1本しかない。そういう状態の話をしています。
ここが、さきほどの2つとちがうところです。
リスク分散も交渉力も、「いざというとき」の話でした。基準は、ちがいます。きょうの条件が妥当なのかどうか。それは、いま知りたいことのはずです。
つまり、動機が現在形になる。複数行を持つ理由のなかで、いちばん先送りされにくいのが、この3つ目なのだとおもいます。
2行目を持ったら、1行目が変わった
さきほどの会社の話に戻ります。
その後、別の銀行と取引を始めました。
新しい銀行からは、プロパー融資が出ました。金利も、それまでより低い水準です。
ここまでは、想像しやすい話だとおもいます。新しい取引先ができて、条件が良かった。それだけなら、めずらしくありません。
変化は、そこでおわりませんでした。
もともと取引していた銀行のほうも、変わったのです 。
それまで出ていなかったプロパー融資が出るようになり、金利も以前より下がりました。
少なくとも、「この会社にプロパー融資は難しい」という評価が、絶対ではなかったことはわかります。
もちろん、業績や時期の影響もあるでしょうから、2行目を持てば必ずこうなる、とは言えません。ただ、こういうことは起こりえます。
そのころ、社長がこんな話をしていました。
「A銀行が、B銀行のことをすごく聞いてくるんだよ」
銀行が他行のことを気にする。話としては、以前から知っていたそうです。
それでも、じぶんの会社で起きて初めて、「ほんとうにそういうものなんだね」となった。
(銀行がなぜ他行のことを聞くのかは、以前べつの記事に書きました → なぜ銀行は、他行のことばかり聞くのか)
聞いていたことと、確かめたこと。このあいだには、けっこうな距離があるものです。
そして、社長がおっしゃっていたひとことが、いまも僕の印象に残っています。
「じぶんの会社の実力を、見間違えていた」
大事なのは、銀行が態度を変えたことではないのだとおもいます。 外から見て、じぶんの会社の見積もりがずれていたことがわかった 。そういうことです。
口座をつくるだけでは、モノサシは手に入らない
ここで、ひとつ注意があります。
2行目を「つくる」で止めると、モノサシは手に入りません。
口座を開いただけ。担当者と名刺を交換しただけ。その状態では、まだ並べるものが何もないからです。
基準が手に入るのは、 同じ案件を、両方に持ち込んだとき です。
同じ決算書を見せて、同じ相談をして、返ってきた答えを並べる。そこで初めて、目盛りが見えます。
金額。金利。保証の有無。回答までの日数。聞かれたこと。聞かれなかったこと、などなど。
それらが、じぶんの会社の「外からの見え方」です。
いちど動いた基準は、元に戻らない
さいごに、この話の裏側も書いておきます。
いちど手に入れた基準は、もう手放せません。
これは、良いことばかりではないのですね。
基準が動くと、いまの1行に対して、不満のようなものが出ることがあります。「あの銀行は、こちらを低く見ていたのではないか」と。
その受け取り方は、たぶん、ちがいます。わかったのは自社の見え方であって、相手の優劣ではありません。
もうひとつ。こちらのほうが効いてきます。
1行しか知らなかった期間のぶん、ずれたモノサシで判断してきた ということです。
借りる、借りない。設備を入れる、見送る。人を採る、待つ。
その判断は、そのときの見積もりのうえで下されているはずです。あとから基準を手に入れても、その期間の判断は、やり直せません。
けして怖がらせたいわけではないのです。むしろ逆で、早くモノサシを持ったほうが、その基準で過ごせる期間が長い、というだけの話をしています。
では、2行目をつくったとして、それが「いざというとき、ほんとうに動いてくれる1行」なのかどうか。それは、また別の話になります。
そのあたりは、動画で話しました。
まとめ|「うちの実力」は、1行では測れない
きょうは、複数行取引の3つ目の理由について書いてきました。
要点を、3つにまとめておきます。
- リスク分散と交渉力は、どちらも「いざというとき」の話。だから、いま困っていないと動けない
- 1行しか知らないと、返ってきた答えが「自社の実力」なのか「その銀行の姿勢」なのかを切り分けられない
- 2行目は、銀行を比べるために持つのではない。自社が外からどう見えているかを知るために持つ
最初の1歩
つぎに融資の相談をするとき、いまの銀行だけでなく、もう1行にも同じ話を持ち込んでみる。
口座をつくるところまでではなく、同じ案件を出して、返事を受け取るところまで。そこで初めて、目盛りが見えます。
「うちも、測り違えていたかもしれない」。そう感じたら、つぎは、じぶんの会社のモノサシを確かめる番です。
銀行に何を持っていくか。返ってきた答えを、どう見るか。無料メール講座 『銀行融資ラボ』 でも、その順番を扱っています。
よかったら、のぞいてみてください。

