税理士は地方で開業したほうがいい。昔もいまも、そういう話を見かけます。調べてみると、根拠もあります。ただ、4つのメリットを並べたときに、気づいたことがひとつ。
どれも、同じ前提の上に乗っているのですね。
「地方で開業したほうがいい」と言われている
きょうは、これから事務所をどう組み立てていくか、迷いのある税理士のかたに向けて書いてみます。
先に本記事の要点からいうと…
- 地方開業論のメリットは、たぶん全部あってる。調べたかぎり、数字の裏もある
- ただ、並べてみると、どれも「地域を、お客さまと出会う入口にする」という同じ前提に乗っている
- 前提が違えば、同じ出来事が勝ちにも負けにもなる。だから、勝ち方より先に見るものがある
最近、こういう話をよく見かけます。
「税理士は、地方で開業したほうがいい」
理由として挙がるのは、だいたい4つです。
競合が少ない。紹介が回る。引退する先生の顧問先が空く。地域で一番になれる。
書いているのは、実際に地方で開業して、手ごたえを持っているかたです。その手ごたえそのものを、僕は疑っていません。
僕は横浜にいます。地方ではないので、じぶんには関係のない話だな、と読み飛ばしていました。
ただ、ある日、4つを並べて眺めていて、手が止まったのですね。
書いてあるのは、勝ち方でした。 どのゲームの勝ち方なのかは、書いていませんでした。
調べてみたら、根拠はありました
先に、相手の話をちゃんと置いておきます。反対したくて書いているわけではないので。
税理士の数は、2026年7月末時点で全国82,310人。そのうち東京税理士会だけで30.08%を占めます(日本税理士会連合会の登録者数より)。
ざっくり、3人に1人が東京です。偏っているのは、たしかです。
もうひとつ。日本税理士会連合会の第7回税理士実態調査(令和6年4月公表・回答38,607件)には、こうあります。
- 開業税理士の60代以上が62.4%
- 後継者が「いない」と答えたのが8割超
- そのうち4割以上が、じぶんの代で廃業する予定
一人の税理士が引退すれば、その先の会社は行き場を探すことになります。数十社が動く、ということも起こりうるわけです。
つまり、税理士が都市部に集中していることと、これから顧問先が動きうることには、数字の裏があります。
ただ、それが地方でどれくらい強く起きるのかまでは、この数字からはわかりません。会社の数も人も、東京に集まっていますし、高齢化と後継者不在のほうは、全国の数字ですから。
地方の税理士のほうが所得が高いといった公的な比較データも、僕が探したかぎりでは見つかりませんでした。紹介の回りやすさや、地域で一番になれるという話も、いまのところ定性的な話です。
そこは正直に置いたうえで、地方開業論そのものは、たぶん全部あってる。僕はそう見ています。
並べてみたら、同じことを言っていました
さて、ここからです。
さきほどの4つを、ひとつずつ言い換えてみます。
競合が少ない。これは、候補が少ないほど、じぶんのところに回ってくる確率が上がる、ということですね。
紹介が回る。営業をしなくても、入ってくる件数が増える。
引退で顧問先が市場に出る。まとまった件数が、いちどに手に入る。
地域で一番になれる。母集団のなかで、順位が上がる。
並べると、どうでしょうか。
メリットが4つあるように見えて、実は、 同じひとつの前提の言い換え なのですね。
たくさん取りにいく。そう言いたくなるところです。
もっとも、規模の話とはかぎりません。顧問先は20件で十分、雇うつもりもない。そう決めている地方のひとり税理士も、実際にいます。
その場合でも、4つはそのまま効きます。競合が少なければ、必要な20件に早く届く。紹介が回れば、営業に時間を使わずに済む。引退する税理士がいれば、必要な数を早く満たせる。
つまり、共通しているのは「たくさん取る」ではないのですね。 地域を、お客さまと出会う入口にする 。そこが、4つに共通した前提です。
念のために書いておくと、それは悪いことではありません。地域を入口にすると決めたのなら、地方を選ぶ理由はあるのだとおもいます。さきほどの数字が示していたのも、そういう背景でした。
ただ、前提のほうは、たいてい書かれていません。
僕は、その前提に乗っていません
僕の顧問先は10件で、そこを上限にしています。なぜ10件なのかは、前回の記事に書きました。
10件になったら、受け入れをストップする。僕のほうから解約することは、よほどのことがないかぎりありません。これまでも、そうしてきました。そしていまは、解約が出ても新しくは受けない方向で考えています。
いっぽうで、融資相談のほうは、オンラインで全国から引き受けています。北は北海道から、南は沖縄まで、実際にご相談があります。
だとすると、僕は横浜にいる必要がありません。どこで開業しても、たぶん一緒なのですね。
「横浜税理士」で、上位を狙っていました
とはいえ、僕も最初からこうだったわけではありません。
開業したころは、横浜という地名をはっきり意識していました。ブランドにしようともしていました。「横浜 税理士」で検索したときに、上のほうに出たかったのです。
いまは、その検索をしていません。順位を調べることもなくなりました。
SEOをやめたから、ではないのですね。 場所で選ばれることを、望まなくなったから です。
ただ、プロフィールから「横浜」を外したことは、開業してから一度もありません。いまも入れています。意味が変わっただけです。
どこに住んでいるかは、多かれ少なかれ、その人のキャラクター付けになりますよね。だから残している。それぐらいの意味です。
看板として使うのをやめて、人となりとして残した。そういう変化でした。
紹介をいただいても、そのままは受けません
融資の場面では、銀行の担当者や他士業のかたと会う機会があります。
応接室で名刺を交わして、そのまま「先生、うちのお客さんも見てもらえませんか」という流れになることも、実際にあります。
ありがたい話です。ただ、そのままは受けません。
「まず、ブログサイトを見てください。サービス内容も料金も書いてあるので、その上でよければ、フォームから申し込んでいただければ」
そうお伝えしています。理由は2つあります。
ひとつは、ミスマッチを防ぐためです。紹介だからといって受けてしまうと、あとで食い違いが起きやすくなります。そうならないように発信をしている面もあるので、まずはそれを見てほしいわけで。
もうひとつは、紹介を受けることを基本姿勢にすると、 断るときに断りづらくなる からです。紹介は、人と人のあいだに乗ってきます。10件で止めると決めていても、そこで止められなくなる。
だから、最初から乗らないことにしています。
ちなみに、料金は全部ネットに出しています。以前、有料だったから相談した、と言われたことがありました。無料だと、そのあと何を勧められるかわからないのが怖い、というのですね。
同じ出来事が、逆の意味になります
さて、サイトを見てくださいとお伝えしたあと、実際に申し込みまで至るのは、僕の経験でいえば、ほんのわずかです。
大半は、そのあとのご依頼がありません。サイトを見たのかどうかも、わかりません。
これ、紹介を入口にするゲームで数えたら、取りこぼしですよね。せっかくの紹介を、みすみす落としている。歩留まりを上げましょう、という話になります。
僕は、そう数えていません。ミスマッチを回避できた、と受け取っています。
同じ出来事です。数え方が、逆になる。
どちらが正しいという話ではありません。ただ、 勝ったか負けたかは、どのゲームをやっているかで決まる 。そういうことなのだとおもいます。
とはいえ、僕も降りきれていません
入口をどこに置くかを決めても、ゲームのすべてが決まるわけではありません。何を勝ちと数えるか、が残ります。
ここまで書くと、「きれいに降りた人」のように見えるかもしれません。そうではないので、書いておきます。僕が降りきれていないのは、その残ったほうです。
僕は、発信の数字を見ています。Kindleの順位。メルマガの読者数。動画の再生数、などなど。
それらが一番であればいいのでしょうけれど、そこは難しいので、ある程度でいい、とおもっています。ところが、そのある程度に届くと、またその上を見るのですね。
キリがない、というのが本質なのだとおもいます。
じぶんでは、どれだけ届いたかの目安として見ているつもりでいます。けれど正直にいえば、多ければ多いほどいい、というところに行き着いてしまっている。つまり、規模です。
ひとりで開業した時点で、規模は取れないとわかっていました。じぶんでもそう言ってきました。それでも、「見た目の規模」を追いかけていたところがあります。
僕が発信のテーマに置いているのは、「この世界にきっかけを」です。
だとすれば、本当に見たいのは、届いた相手のなかに、考えるきっかけや行動のきっかけが起きたかどうか、のはず。
ところが、厳密にそれを測る術がありません。だから、その手前にある、測れるもののほうを見てしまうのかもしれません。
規模は捨てなければ、とおもっています。といいながら、縛られて苦しくなるときもあります。いまも、です。
勝ち方は配られるのに、ゲームは配られない
ここで、さきほどの話とつながります。
地方開業論が配っているものを、もういちど並べてみます。
競合の数。紹介の件数。市場に出る顧問先の数。地域での順位。
どれも、測れます。数えられます。だから、配れるのですね。
いっぽうで、見きれているかどうか。きっかけになれたかどうか。こちらは測れません。数えられないものは、記事にしにくいわけです。
つまり、測れるものだけが流通していく。
そう考えると、勝ち方だけが配られるのは、誰かが不誠実だから、という話ではないのだとおもいます。僕自身、測れるほうに引っぱられているので。
そのうえで、ひとつだけ。
ゲームの種類が書かれていない話のほうが、広く届きます。当てはまる読者が増えるからです。
けれど、勝率だけを受け取った側は、じぶんがどの盤の上にいるのかを知らないまま、走り出すことになります。
地方に出るかどうかを迷っている人が、本当に決めなければならないのは、場所ではないかもしれません。
だから、ソロ税理士と名乗ることにしました
ここが、いちばん混ざりやすいところだとおもっています。
ひとりでやっている。だから規模は追っていない。そう見られがちです。
でも実際には、ひとりでたくさん取るゲームもあります。
だとすれば、ひとりかどうかと、増やすかどうかは、別の軸です。
そして、増やさないと決めたあとにも、まだ決まっていないことがあります。どこを入口にするか、です。
地方で20件だけを持つひとり税理士と、僕。どちらも増やしません。それでも、やっているゲームはちがうのですね。
僕は、ひとりであることも、増やさないことも、入口を地域に置かないことも、じぶんで選んでいます。その決め方をひとことで表せる名前が、ずっと見つかりませんでした。
いま、僕はじぶんのことを「ソロ税理士」と呼んでいます。
音楽のソロ奏者のイメージです。目立とうとするのではなく、じぶんのパートを、丁寧に、確実に鳴らす。地域で一番を取ることとは、向いている方向がちがいます。
それから、どこまで高く飛べるか、ではなく、 どれだけ長く飛べるか 。
長く飛ぶというのは、高度を上げないことだけを指すのではありません。おわり方まで含めて、じぶんで決めておくことでもあります。いつか僕も引退する側になるので、そのときに顧問先の10件がどこへ行くのか、というところまで。
まだ、広まっている言葉ではありません。僕が勝手に使っているだけです。
それでも、この名前があると説明がラクになりました。ひとりだから増やしていないのではなく、増やさないことを選んでいる。そう言えるようになったので。
まとめ|勝ち方の前に、ゲームを見る
きょうは、税理士の地方開業論について書いてきました。
要点を、3つにまとめておきます。
- 地方開業論のメリットは、たぶん全部あってる。数字の裏があるものもある
- ただ、4つのメリットは同じひとつの前提の言い換え。地域を、お客さまと出会う入口にする、という前提に乗っている
- 同じ出来事でも、どのゲームをやっているかで、勝ちにも負けにもなる。だから、勝ち方より先にゲームを見る
最初の1歩
- 最近うれしかった数字をひとつ挙げて、それはどのゲームの点数なのかを書いてみる
僕は、地方開業を否定していません。むしろ、話としてはよくできているとおもいます。
ただ、それは地域を入口にすると決めた人のための攻略法です。入口を地域に置かないと決めた瞬間、場所は看板ではなくなります。
じぶんはいま、どのゲームをやっているのか。
その一行が書けていないまま勝ち方だけを集めていくと、たぶん、いつまでも足りません。僕がそうなので。
「その一行」 を、僕はいまも書きなおしています。
発信の数字のこと、続け方のこと、その奥にある「何のためにやるのか」。そういうことを、迷いも含めて書いているメルマガがあります。
答えを配る場所ではありません。まだ決めきれていないことを、そのまま置いてある場所です。

