税理士が顧問先から頼まれて、事業計画書づくりを手伝うことがあります。
数字は整った。書類もできあがった。それなのに、面談で社長が答えられない。そういうことが起きる理由を、考えてみます。
「御社のご商売は?」で、止まる
きょうは、顧問先の事業計画書づくりに関わったことのある税理士のかたに向けて、書いてみます。
先に本記事の要点からいうと…
- 銀行が計画書に求めているのは、書類の出来ばえだけではない
- 「だれに・なにを・どのように」のうち、あいまいになりやすいのは「だれに」
- 代わりに書くほど、社長は説明できないままになる
僕は融資のご相談をお受けするとき、社長にこんな質問をしています。
「御社のご商売は、どういったものですか」
いわゆるビジネスモデルのことを、うかがっているわけです。
このとき返ってくる答えには、意外と「不足」があります。
僕が聞きたいのは、3つです。
だれに。
なにを。
どのように売るか。
この3つがそろって、はじめて商売のかたちが見えてきます。ところが、どれかが抜けていたり、あいまいだったりすることは、けっこう多い。
「なにを」は、たいてい答えていただけます。商品やサービスのことですから。「どのように」も、店舗なのか、ネットなのか、ご紹介なのか。話せる社長は多いところです。
不足が出やすいのは「だれに」のほうです。
自社にとっていちばんのお客さまは、どういう方なのか。あるいは、どういう会社なのか。ここが絞り込めていない。もしくは、広すぎる。
「まあ、どなたでも」
「地域の方、ですかね」
そんな答えになることがあります。あいまいです。
これは、社長が自社の事業をわかっていない、という話ではありません。毎日その商売をされているのですから、わかっていないはずがない。ただ、言葉にして人に説明する場面が、これまであまりなかっただけです。
自社のことは、社長にとっていちばん身近なもの。身近なものほど、説明したことがない 。
そして、この「説明したことがない」が、銀行との面談で表に出てきます。
銀行が見ているのは、書類だけではない
銀行が事業計画書を求めることの本質は、書類が欲しいからではない。僕は、そう考えています。
もちろん、書類は要ります。行内の稟議に必要な資料ですし、記録としても残さなければいけない。そこは、たしかにあるでしょう。
ただ、それだけであれば、誰が書いたものでもかまわないはずです。様式が整っていて、数字が入っていれば足りる。
でも実際には、そうなっていません。
計画書を出したあとには、たいてい面談があります。そこで銀行担当者は、書いてある中身について社長に質問をします。
「この売上の見込みは、どういう根拠でしょうか」
「この投資で、なにが変わるのですか」
このとき起きているのは、書類の確認ではありません。社長がじぶんの事業を説明できる状態にあるかどうかが、そこで表に出ます 。
銀行が意地悪をしている、という話ではありません。おカネを貸す以上、返ってくる見込みを判断しなければいけないわけです。その材料として、書類と、社長の言葉の両方を見ている。ごく自然なことだとおもいます。
だとすれば、計画書は提出物というよりも、社長にとっての 検査のようなもの だと言えます。
書いてみることで、わかっているつもりだったところが、表に出てくる。
立派な計画書と、答えられない社長
以前、スポット相談で、ある社長から事業計画書を見せていただいたことがあります。
顧問税理士が作ったもの、ということでした。
受け取ってページをめくってみると、構成や項目などは、よくできていました。数字は細かく積み上げてあって、見た目も整っている。正直、立派なものだとおもいました。
ただ、いくつか質問をしてみたところで、様子が変わってきます。
「〇〇の数字は、どういう根拠でしょうか」
社長は、答えられませんでした。
わからない、というよりも、そこはじぶんが作ったところではない、ということでした。だから、説明のしようがないのです。
検査を外注したら、検査になりません 。
書類は、たしかにできあがっています。でも、面談で聞かれるのは社長のほうです。税理士が同席していないこともありますし、いたとしても、事業のことは社長の口から出てくるほうがいい。
数字が整っているぶん、かえって差が出てしまう。そんなふうにも見えました。
その顧問税理士を責めたいわけではありません。社長も忙しい。作ってさしあげるのが、いちばん親切に見える場面はたしかにあります。僕にも、その気持ちはわかるところです。
ただ、あとで困るのは社長のほうだったりします。
だれに・なにを・どのように
では、どうするか。
僕がやっているのは、書きはじめる前に聞くことです。
「御社のご商売は、どういったものですか」
そこから、だれに・なにを・どのように、の3つがそろっているかを確かめていきます。抜けているところ、あいまいなところがあれば、そこを重ねてうかがう。
とくに「だれに」です。
「いちばん多いのは、どういうお客さまですか」
「その方たちは、なぜ御社を選んでくださっているのでしょう」
このあたりを聞いていくと、社長の口から、だんだん輪郭が出てきます。
ここで気をつけているのは、絞り込みを迫らないことです。
「もっと絞ったほうがいい」と言いたくなる場面はあります。でも、それは事業のやり方の話であって、いま必要なのは、いまの商売を言葉にすることです。実際に幅広いお客さまがいらっしゃるのなら、そのなかで中心はどこか、をうかがえばいい。
この3つがそろうと、計画書の中身も変わってきます。売上の根拠が、社長の言葉のほうから出てくるようになるからです。だれに、なにを、どのように売って、いくらになるのか。順番につながります。
そして、そのまま面談で話すことができるはずです。
ゼロからは、書かない
ここで、じぶんなりの線を引いています。
社長が言っていないことは、足さない 。
僕は、完全な代筆はしません。ゼロから作るのなら、それはもう創作です。
やっているのは、社長からうかがった話を、言葉にして、数字にしていくこと。それだけです。
たとえば、業界のなかでは通じるけれど、外の方には馴染みのない言葉。そういうものは、言い換えたり、補足を足したりします。
ただ、それも新しい意味を足しているわけではありません。 言葉は変える。意味は変えない 。言うなれば、翻訳に徹する、ということです。
結果として、銀行担当者が読んだときにもわかりやすくなります。担当者はその業界の専門家ではありませんから。
ただ、僕もはじめのころから、こうだったわけではありません。
社長からうかがった話を、こちらで言葉にしていく。その作業をしていると、つい、見栄えのいい言葉のほうに手が伸びます。そのほうが伝わりそうな気がしてしまう。
でも、あとから読み返すと、社長が言っていたことと少しちがう。整えたつもりが、意味のほうを動かしてしまっていました。
それは、もう創作です。
社長が説明できない計画書は、そうやってできあがっていく。じぶんの手で作っておきながら、あとになって気づいたことでした。
まとめ|書けるようにするのではなく、説明できるようにする
きょうは、顧問先の事業計画書に、税理士としてどこまで関わるかについて書いてきました。
要点を、3つにまとめておきます。
- 銀行は書類だけを見ているのではなく、社長がじぶんの事業を説明できる状態かどうかも見ている
- 「だれに・なにを・どのように」のうち、あいまいになりやすいのは「だれに」。わかっていないのではなく、説明したことがないだけ
- 検査は、外注できない。代わりに書くほど、社長は説明できないままになる
最初の1歩
次に顧問先の事業計画書に関わるときは、書きはじめるまえに「御社のご商売は、どういったものですか」と、いちど社長にうかがってみる。
だれに・なにを・どのように。この3つのうち、どれがあいまいなままなのかが、その場で見えてくるとおもいます。
聞いてから書く。この順番を、顧問先との実際のやりとりのなかで動かせるように。なにを、どの順番で聞き、あいまいな答えにどう問い返すか。そこまで手を動かしながら体験していただく場が、顧問税理士向けの融資相談対応セミナーです。
代筆ではなく、翻訳を。言葉は変えても、意味は変えない。そのために、なにをどう聞くのか。よろしければ、のぞいてみてください。

